#2
亞奴田辰彦が居なくなって7日が経つ。彼の行く辺は未だに分からない。亞奴田の両親は別居しているのだが、引き取った父親は仕事で家にほとんど居ず、家政婦が家の世話をしていた。亞奴田の部屋は立ち入り厳禁となっていて、家政婦が様子を見るのは不可能であった。そんなわけで、失踪に気づかず、教師から連絡が来た時は父親も大変驚いていた。
友人の相田小見郎は昼休みの教室でため息をつきながら瑠田龍子に言った。
「亞奴田…どうしたんだろう。」
「分からないわ。でも、いなくなる前言ってたあれは…」
「人間の魂解放うんぬん?」
「変な団体に捕まったんじゃないかしら。」
「分からない…修行に行ったとか…ははは…しかし、ああいう事を言うとはな。」
「突然どうしたのかしら。」
「突然じゃないよ、あの確信に満ちた目。前々から考えてたんだ。」
「じゃあなんで今まで言わなかったのかしら。」
「もしかしたら居なくなる日を意識して前日に、とか。」
「なるほど、宣言して自ら消えた、というわけかな。」
「そして人間の解放をするために…うーんでも分からん…」
「まあ…考えても分からないよ。」
「そうだね…ん?」
相田が突然左手で目を遮るように覆った。
「どうしたの?」
「今、目の前で強い光が…」
「大丈夫?疲れてるんじゃない?」
「そうかもね…」
しかし、相田はどうも妙だと思った。言葉に表しにくい違和感。あの光は何かが違った。
翌朝新聞を見て相田は驚愕した。見出しにはこう書かれてあった。
「失踪した少年の家で出火?強盗か。犯人は逃走。」
昨日の深夜、亞奴田家でボヤがあったらしい。失踪した辰彦から出火したらしい。彼の部屋はボヤなのに異様に損壊していた。爆発でもあったのか。
そして、彼の部屋ほどではないがリビングも荒らされていた。泥棒が入ったかのようだ。そして家政婦は眠らされ、縄で縛られていた。
彼女の証言によれば、犯人は相田の近所の伊綱という男であった。行方不明と聞いて襲撃したのか。だが彼はすでに姿を消していた。逃げたらしい。
それにしても強盗ならばなぜ部屋を爆破するのか。あるいは事故なのか。謎の多い事件であった。
「そもそも何が爆発したのかも分からない。」
次の日、現場の警察がテレビで語っていた。
「火薬の跡みたいなのもないし、ただ強い熱と衝撃があったことしか分からない。」
「他の事は…?」
「分からない!分かりません!」
亞奴田…いったい大丈夫なのかと思いながら相田は登校した。教室につく前に何か教室が妙なざわつきをしている事に気づいた。
「えー」「どうしたの」「大丈夫?」「無事でよかった」
まさか…相田は教室の扉を思わず強く開けた。
亞奴田が教室にいた。