#11 ラスト
「我々は!人類解放軍だ!姿は見えないが空で光として輝いている!今日我々は苦痛に満ちた君たちを解放し、日常という絶望から救いに来た!」
亞奴田は叫んでいた。
「君たちも我々みたいにこの世界で光を照らし続けよう!この世で永遠に、輝き続けるんだ!もしそれを否定するならこの世の外に解放してあげよう。君たちのその苦しみは」
「死をもって償うべし」
光の矢が大都会に降った。地上の人々は叫び、あえぎ、うめき、多くの人が死んだような虚ろな顔つきで天に上げられた。街の建物は次々と貫かれ砕かれ、隠れる事ももうできない。
「亞奴田様!」
ある天使が亞奴田に言った。
「なんだ?」
「北の方より見たことない大きな翼の天使が!」
「何者だ?天使は私たちしかいないはずだ!」
「そうですが…」
「誰だそいつは!瑠田か?」
「違います…瑠田を射したときに邪魔をしてきた…」
「相田小見郎!?」
相田は吸射鏡照射器を集中攻撃型にしてその天使にかざした。天使は呻きながら消滅した。亞奴田は驚いて相田を見た。相田は背中に翼を生やして飛んでいるようであったが彼は天使ではなかった。亞奴田は呟いた。
「瑠田の助太刀か…」
相田が叫んだ。
「よく聞け!君たち天使は自由になった者たちだが、それでも自分の魂に固執したが故に大変な危機にある!君たちは自分の目的を達した途端に行き場を無くして、消えるだろう。それは同時に人類すべてが消える事を意味するのだ!君たちの本質は封印の鍵という暴力でも使わなければ他の人を輝かせる事のできない利己的な存在だ。何も自由ではない。肉体の原則がないだけだ!君たちの本質は喜びではなく、解放を望む悲しみだ!僕がその悲しみを消してやる!」
光の矢が四方八方に飛んだが背中の翼がすべてそれを弾いた。瑠田がささやく。
“矢の事は気にしないで。とにかく吸射鏡を当てて”
相田は広範囲型で多くの天使の目を眩ました後、集中攻撃型で丹念に天使らを消していった。それはあまりに膨大で地道な作業であった。いったい亞奴田らは何百人人を解放させたのだ?
“諦めないで、続けるのよ。”
消えて、消えて、何人かは身を落として消えて、消えて、消えて、まだ数十人残った。
“がんばって”
とうとう亞奴田だけが残った。亞奴田が言った。
「…なぁ…悪かったよ。友達でしょ?また仲良くしようよ。君も天使になれば3人で天使友達になれるぜ。」
「友達としてやり直すには、実に取り返しのつかない事をしたな。亞奴田。君は僕たちの故郷を破壊した。僕たちが“影”にしなくたって皆はすでに死んでいた。その自由を、死をもって償ったからね。」
相田は冷たく言い返した。亞奴田は言った。
「相田…許してくれ…」
「勿論、僕は許す。でも、この襲撃だって本当は僕はしたくなかったが、しなきゃいけなかった。だから同様に君を殺さなきゃいけない。こちらこそ、許してくれ。」
吸射鏡を当てた。
「アァァァ…」
亞奴田は消えた。封印の鍵が地に落ちた。
地面に降り、翼であった瑠田は相田から離れた。相田は言う。
「さて、後は最後に残った天使、君をどうするかだね。」
「私はやる事があるの。」
そう言って瑠田は天に昇った。そして眩い光になった。
「わあっ」
相田が悲鳴を上げ、瑠田が叫んだ。
「地に残り、闇に葬られたあなた方の魂をもう一度輝かせましょう。」
空を見上げると、次々と光が産まれ、やがて人の形になった。それはかつて自分が殺した天使たち。相田は血の気が引いて、叫んだ。
「何やってるんだ!また甦らせたら意味がないじゃないか!」
「いいえ、闇という課程を踏んだことはとてもとても意味があります。彼らはもう他の人に働きかける意思はありません。暴力的な解放が無意味である事に気付いたからです。しかしながら魂がさ迷ったままです。このまま虚無の苦しみを受けるならいっそ火の海で」
そして瑠田は言った。
「私について行きなさい!皆で太陽に行って共に輝かせましょう!」
瑠田はそのまま天の向こうに行ってしまった。天使たちも後に続いて空に向かった。亞奴田もいた。クラスメートも大勢いた。伊綱もいた。相田の母や父もいた。
「そんな…待ってくれ!」
相田が叫んでも皆は待ってくれない。空へ空へと遠く離れていく。
「そんな…」
相田が呆然と腰を下ろすと下に何かがあった。手にとって見ると、それは封印の鍵。柄に天使の装飾。そうだ、天使になるしかない。なるしかないのだ。震える手で相田はそれをつかみ、しばし刺すのをためらった。なぜか天使にならずに死ぬのかもしれないと言う恐怖があった。震え。相田は目を閉じて、結局一思いに胸を突いた。
だが、おかしい。血の気が引いていく。痛みばかりが残る。
「あれ…痛い…」
意識を失いやがて浮き上がる。天使になったんだ、と相田は喜んだ。だが地面に相田の体がある事に気付いた。相田は声のない叫びをした。亞奴田が封印の鍵落とす時、瑠田がそれを改造して無効化してしまっていたのだ。つまり、ただのナイフであった。相田はあまりの事にしばし固まった。本当に死んでしまった。自分はただの幽霊じゃないか。…だが。
ふと思い出して天を見上げた。まだ天使たちが何人か見える。ついて行こう。死んでしまった皆に会いに行くのだ。
「あれ?相田…」
亞奴田が話しかけた。
「君は天使に…いや、死んだのか?」
「天使になろうとして間違って死んじゃったんだよー。ツイッターで死んだなうと書きたいところだ。」
「あははは。」
「また仲直りしたね。」
「そうだね。」
伊綱がいた。
「よう!相田。君は正しい事をした。瑠田も正しい事をした。後悔する必要なんて、もうないよ。」
「後悔なんてしないから大丈夫です。」
「そうかそうか。」
相田の父母。
「いつの間に天使にされちゃったの?」
「そうだね。小見郎の帰りが遅くて心配してたら天使達が家に来て刺されちゃった。」
「それで伊綱おじさんは家に帰るなと言ったんだね。」
瑠田。
「これからどうなるの?」
「わからないわ。」
「後悔はないのかい?」
「天使にされちゃったもの。この世界で神の域に触れたら死ぬしかないわ。」
一行は太陽にたどり着いた。太陽の、その破壊する力はすさまじかった。光は破壊でもあったのだ。天使の意思は太陽の光と混じって拡散し、宇宙的規模に広がった。それは同時に皆が個を失ったことに等しかった。こうして天使達はだれもいなくなった。
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