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#1

砂嵐。赤い赤い砂嵐。これほど高い岩山なのに、視界が殆ど消えるぐらいだ。もし、全身を覆わなければ身体の中に大量の砂が入っただろうし、顔を覆うマスクが無ければ目が痛くて開けられない。とはいえ、透明なマスクをつけた所で、道は殆ど見えないため結局は手探り足探りでなんとか道を探して歩くだけだった。一歩間違えれば転落してしまう。彼がどれくらい歩いたかは分からない。何しろ道を測る尺度もないし、距離もわからないし、前述した歩き方により、歩く速度も極めて遅い。第一どこを歩いても視界が見えないので、たとえ10分だけ歩いたとしても30分以上歩いたような気分になるのだ。だが一度踏み入れてしまったからには後戻りはできない。だから彼はひたすら歩き続けた。


=


「なあ。」

亞奴田あぬた 辰彦たつひこは放課後の教室で二人の友人、相田あいだ 小見郎こみろう瑠田るだ 龍子りゅうこに言った。

「時折、思う事があるんだけど。」

「何をだい?」

相田が尋ねる。

「人間のこと。」

「ニンゲン?」

「人間って本当に動物なのかなあと。」

「さあ。ある意味ではそうなんじゃない?どうして?」

「僕は分からないんだ。動物って、基本的に自分に満足していて、周りの状況に変化し、死ぬ時は素直にバッタリ死ぬ。だが、人間って奇妙じゃないか?人間以上の技術を作り出し、あらゆる事象に抗い、死に対して大いに嘆き、否定し、苦しむ。」

「まあ・・・そうだね。」

その時瑠田は言う。

「人間は頭がイイからじゃない?だから死を損失と考えるのよ。」

亞奴田は言った。

「勿論だ。そして頭がいいから技術もあるし抗える。だが、それは頭がイイ結果であって、僕が問題にしてるのは、なぜ頭がよくなったのかという事だよ。」

「つまり・・・?」

「魂だよ。人は他の動物と違って、身体と不相応に強い力と意思をもった魂があるんじゃないか。だから君も言ったように、それを失うのを損失と考える。だからそれを何が何でも守るために過敏に対応した、その結果が知能の発達じゃないかなあと。」

「はあ・・・。」

「人間の身体は、魂のエナジー、欲求に耐えられない。あれがしたい、これがしたい、でもできない、というのは無限に存在する。動物は欲望というほどでもない適切な度合いなのだが、人間はあまりに底抜けだ。それは魂が強いからだ。」

「うーん・・・。」

「だから、僕は、人間の魂を身体から解放させてあげたい。そう思うんだ。協力しないか?」

「うーん・・・ごめん・・・・私よく分からない。」

相田も「僕も」と答えた。

「そうか・・・・・じゃあ僕だけで探求してやる。言っとくがあながち間違ってないぞ。いろんな古文書を調べたからな。今に見てろ。」


二人が首をかしげたその数日後、亞奴田は失踪した。




=


ようやく山の頂上にたどり着いた。頂上に赤い砂嵐は吹いていない。ちょうど天に吹き上がるようになっていて、頂上そのものには来ないのである。ここまでくれば大丈夫だと、彼はため息をつきながら防護服を脱ぎ、座って休んだ。亞奴田である。頂上の中央に箱があった。箱は地面と密着していて、蓋も頑丈に固定されていた。蓋の表面は石がいくつか無造作に置かれていた。亞奴田は古文書を取り出した。その石は実は錠であった。石の置き方次第で箱が開けられるようになるのである。亞奴田は古文書どおりに石を置いた。蓋の箱は左右に分かれ中が露となった。


これだけ古来厳重に管理された箱である。いったい何が入ってるのか。亞奴田が箱から取り出したのは短剣であった。柄に天使の装飾が施されていた。ついに見つけたのだ。長い間求めていたもの。亞奴田はニヤリと笑いながら呟いた。

「これが・・・・封印の・・・鍵・・・。」


背後に鳴り響く砂嵐のごううううという音が、また、彼の気持ちを妙に高揚させる。しばらくその鋭利な短剣を眺め、突然、一思いに剣を胸についた。

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