巡り合わせて、貴族の館
妖怪に盗まれてしまったあの日以来、様々な者達と出会った。
それは妖怪だったり神だったり、人間だったりもしたが、大体の者達とそれなりに良い関係を築くことができた。
しかし、小さなこの能力によって集められた妖怪の中には好戦的な者も居り、争いが絶えない状態でもあった。
とは言え、私を持っていた妖怪がとある陰陽師に討伐され、とある貴族に払い下げられた今となってはあまり関係のないことではあるのだが。
今の私達の持ち主は、藤原家という貴族の一族だ。少し前までは陰陽師にちゃんと使われることもなく封印されているも同然の扱いだった事を考えれば、今は道具としてはとても幸せなのだろうと思う。不比等には感謝している。
私にできる礼は能力を使って楽しませる程度だが、それでも構わないだろうか?
まあ、どちらにしろ私にはそれしかできないし、それしか知らない。
ある日、お父様にお酒を飲んでみないかと誘われたので、少しだけ飲んでみることにした。お酒を飲むのは初めてだけれど、お父様は美味しいと言っていたので、少し期待している。
お父様に渡された小さな杯に、自分でお酒を注ぐ。とろりとした白く濁った液体が、真っ白な徳利から私の持っている杯に注がれて、少し勢い余ってこぼれそうなほどなみなみと注がれてしまった。
杯のお酒をこぼさないように慌てていると、お父様は笑ってそのまま飲めばいいと言ってくれたので、私はそれにしたがって小さな杯に口をつける。
昔に見たお父様の真似をして、一気にきゅっと杯の中のお酒を飲み干す。
すると、私の口の中から暖かいものがつぅ……とお腹の中に流れ込み、そのすぐ後に暖かかったそれがまるで燃え出したかのように熱くなった。
「……ふぁ………」
それと同時に頭がすっきりとして、見えているところがもっときれいに見えるような、そんな気分になった。
「どうだ、妹紅。酒は中々良いものだろう?」
お父様のその質問に、私は熱に浮かされた頭のまま頷いた。
そんな私にお父様は優しく微笑みかけて、新しく小さな杯にお酒を注いでくれた。
………ふむ。これでまた酒精の虜になったものが一人増えた。これからも私達を使い、思う存分酔うがいい。
私は温い酒を小さなこに注ぎ込みながら、少女と不比等に向けて、ほどよく酔えるだけの酒精を飛ばした。
今宵はまだまだ始まったばかりだ。月を、人を、花を肴に、ゆるりと宴を続けよう。
その日から妹紅は、私達を使ってたまに酒を飲むようになった。
一度に飲む量は多くはないし、酔いが回るのも早いが、酒をとても旨そうに飲んでいるその姿は、私達にとっては喜ばしいものだ。
不比等もその姿を嬉しく思っているのか、妹紅をよく晩酌に付き合わせるようになった。
こぽりこぽりと何度も私に酒を入れ、何度も小さなこに注がれているところを見ると、道具としてはとても嬉しい。
…………しかし、私達は他ならぬ不比等の手でとある者へと譲り渡される事となる。
その者の名は、蓬莱山輝夜。輝夜姫と呼ばれる、人であって人で無い者だった。
……まあ、私達はただの道具だ。持ち主がそれでよいならば、私達が自分から行動することはない。すべて成り行きに任せよう。