神の杯、酒宴会
あれから諏訪子と神奈子の二人は、ちょくちょく私と小さなこを使って酒宴を開いている。
二人ともに少しずつ饒舌になってきていて、たまに喧嘩のようなじゃれあいをすることもある。
うむ。良いことだ。酒のあるところに悪意は似合わん。肴と人があればよい。
喧嘩や笑いや花も風も、酒宴では酒の肴になってしまうのだ。
酔いとは良いものだ。そうだろう?
神奈子がこの神社の祭神となってから結構な時間が過ぎた。私との仲は初めは良くなかったが、今では躊躇いなく友と呼べる程度には仲が良くなっていると思っている。
おそらく神奈子のやつも同じように思っていることだろう。証拠とは言えないが、酒の席で軽い冗談を言うようになったし、私のことを諏訪子と呼ぶようにもなった。
そんな私達は、今日も仕事で忙しい中、暇を見つけては例の酒器で酒を飲んで鋭気を養っている。
くびくびくびと酒を喉で味わうように飲み干し、新しい酒を徳利に入れて置いておく。これは次に私が飲みたくなった時に飲むか、神奈子が飲みたくなった時に勝手に飲んで新しい酒を入れておくことでいつでも飲みたいときに飲めるようにしてあるのだ。
私から言ったわけでも神奈子が言ったわけでもないのだが、何故かそれが当然のこととして私と神奈子の認識の中にあるのだ。
しかし、今のような酒宴の席では若干意味が異なる。
酒宴の席……と言っても私と神奈子の二人だけ、あるいはそこに私の風祝が混ざるだけの小さな酒宴だが、その場では私と神奈子の二人がお互いに酌を繰り返すための恒例行事の一幕に変わる。
風祝は私達に遠慮してか中々飲もうとしないが、私達が直接酌をすると諦めて飲み始め、それでいてしっかりとついてくる。
私達はそんな風祝のことを可愛いと思いながら見ているのだが、神奈子はそうしている私のことをからかってくることが多い。
「まったく。こうして見ていると大和の大軍に呪いをかけ、私とかなりいい戦いをした神とは思えないね」
「うるさいよ神奈子。私の血を引いた娘を猫可愛がりして何が悪い。そんなんだからまだ処女なんだ」
「う、五月蝿い!諏訪子の方こそ処女だろうが!」
「残念、私は子持ちだ。そういう相手もいなかった神奈子と一緒にするな」
そうして私と神奈子の平和で子供っぽい喧嘩が始まる。お互いにけして本気ではない、ちょっとした付き合いと同じような物だ。
風祝は毎回のことだがいまだに慣れないようで、私達の言い合いや掴み合いを見ておろおろとしている。このくらいじゃ死なないし、大丈夫なんだけどね。
いつものように騒ぎ、そして神奈子と諏訪子は眠りにつく。
風祝はそんな二人に布団をかけて体が冷えないようにしてやっている。実際は逆なのだが、まるでこの二人の母親のようだ。
私と小さなこがひょいと持ち上げられ、風祝によって綺麗に磨かれる。
中に残っていた酒は風祝が飲み干し、それでも残っていた物は洗い流される。
……さて。次の私達の出番はいつになることやら。
…………と、思っていたのだが、乾かしているうちに見知らぬ妖怪に私と小さなこは盗まれてしまった。
……やれやれ。