戦終わりて、小宴会
遅くなりました。
洩矢諏訪子。それがいま私たちを使っている少女の名であるらしい。
諏訪子はよく私たちを使って酒を飲む。それこそ一番始めに私たちを使ったあの鬼と同じか、それ以上に。
しかし、どうやらもうすぐ大きな戦いがあるらしい。初めの鬼も永琳も、大きな戦の後に私たちを手放している。もしかしたら、諏訪子もこれで私たちを手放すことになるのかもしれない。
……そうなったら、また私たちはしばらくこの場所に置きっぱなしにされ、いつの日にかまた誰かが私たちを使ってくれるのを待つのだろう。
所詮私たちは徳利と猪口。使われるためならいくらでも待つが。
それでも、今は私たちと共に、ゆっくりと酔うがいいさ。
大和の軍勢が攻めてきた。それこそ数百どころか数千もの神々の大軍が。
一応私も呪いを放って数を減らしているが、それでも結局は焼け石に水。圧倒的ともいえるその軍は数が減ったようには見えない。
それでも私はその軍勢に立ち向かう。こんななりでもこの辺り……諏訪王国を治める土着神の王なのだ。私が退がってしまえば、いったい誰が私たちの国を守ると言うのか。
確かに大和の軍勢を相手取るのは怖い。怖いが、やるしかない。
私は用意してあった鉄輪を掴み、大和の軍勢の前に姿を表した。
……何があったのか、諏訪子は見知らぬ神族を自らの社に連れ帰ってきた。
まあ、私としては一向に構わない。むしろ数が増えればそれを理由に私たちが使われることもあるだろうし、それ以降も酒を飲む理由が単純に考えても倍になる。
さて、そう言うことだ。とりあえず、険悪な関係には潤滑剤が必要だろう? 話さなければ神といえどもわかり合うことなどできはしまい。
言い難いことは酒と酔いに任せて言ってしまうに限る。
さあ、静かな宴会を始めよう。二人きりだが、話題などいくらでもあるだろう? 意地や敵意など水に流して、気持ち良く酔ってしまうがいいさ。
いつものお前ならそう言うだろう?
なぁ、諏訪子よ。
私は、大和との戦に負けた。だが、私は生かされた。
なぜかと聞いたが、大和の軍神……神奈子はしかめっ面のまま、上からの命令だと答えた。
そんな相手を私の社に上がらせるのは屈辱的だったが、負けたのは私で勝ったのは神奈子。鉄輪がない時点で勝てる気はしないし、あったとしてもまた敗北するだろう。
仕方無く社に招くが、全く会話がない。私の処遇についても、これからのことについても、何一つ。
……そこで私の視界にふと、置きっぱなしにしていた酒器が目に入った。気が付くと、神奈子のやつも私の視線を追ってか酒器に目をやっている。
……いつまでもこうしていても何も変わりはしない。そう思い、私はその酒器を使って、こいつと小さな宴会を開いてやることにした。
静かに杯を傾ける。初めはお互いに手酌で飲んでいたが、神奈子がぽつりと口を開いた所から、少しずつ変わっていった。
初めは、具体的なこれからの事。実は上からはさっさと私を殺せと言われたらしいのだが、この地の信仰の体系から考えてこの神の名前を変えて、信仰される側の神のすり替えを行った方が良いと言ったらしい。
何でも、初めから神奈子はああいった数の戦いは好みではなかったらしい。しかし、私はその数を前に一歩も引かずに戦ったため、気に入ったのだとか。
軍神の癖に、数ではなく個人の戦いを好むこいつ。酒が入ると、意外と饒舌に話すこいつ。結構素直で、子供っぽいところがあるこいつ。
なんとなく、こいつとならうまくやっていけるような気がした。
……ふむ。少しはましになったか。
私は何度も注ぎ直される酒を感じ取り、酔いを調節しながら思う。
できることならば、私を長いこと使い続けてほしいものだ。