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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
6/41

時は流れて、神との出会い

 

 永琳の顔を見なくなってから、どれ程の時が流れたのやら。

 箱の中の私達には理解できないが、それなりに長い時の中。私は次に私達を使うものの事を思いながら、ゆるりと眠る。




 そこにあった都は、時の流れに押されて風化した。

 天を突くほどに高かった建造物は全て風雨に曝され塵に帰り、都市と外を隔てていた壁ももはや跡形もない。

 それは当然永琳の家も同じようになっており、この場所に巨大な都市があったなど誰一人として思うことはないほど。

 しかし、その場所にはたった一つだけ当時の面影を残す物が無造作に転がっていた。

 それは、箱。太陽の光を反射して銀色に輝くそれは、永琳が作り上げた当時の状態から殆ど変わっていなかった。

 そして時は流れ、まるでそれに吸い寄せられるかのように人が集まる。

 人々はその場所に家を建て、それが少しずつ大きくなって行き、いつしかその場には集落ができていた。

 その箱は誰が何をしても開かず、また傷つくこともなかったため、この箱のような堅固なる守りを与えたまえとその集落の守護神として祭壇に祀られることとなる。

 しかしその集落はいつの間にか別の集落に飲み込まれ、その飲み込んだ集落もまた他の集落に飲み込まれていった。

 さまざまな集落がこの集落を支配した。そして支配した土着神達は皆この箱を壊し、信仰を奪おうとしたが、誰一人としてその箱を壊すことはできなかった。

 あるものは岩をもって押し潰そうとした。しかし箱より先に岩が砕けた。

 あるものは炎で焼き払おうとした。しかし限界まで炎を吐き続けても、その箱に焦げ目を付ける事すらできなかった。

 あるものは純粋に力だけでこじ開けようとした。しかし爪が割れ、指がひしゃげるほどに力を込めても箱は形を僅かに変えることすらなく、そこに在り続ける。

 どんな者でもその身を砕くことのできないそれは、祭壇から下ろされ誰の目にも曝されぬところに在りながらも、神と僅かな人からの信仰にも似た畏怖を受けていた。

 現在、この集落を支配しているのは洩矢と呼ばれる土地神。土着神の頂点とも言われるミジャクジを支配しているこの神もまた、その箱の事を知って壊そうとするものだった。


「……いやいやいや、こりゃいくらなんでも硬すぎじゃないか?」

 そう言いながらコンコンと箱を叩いている少女こそが、洩矢の神こと洩矢諏訪子。その見た目からは想像もできないほど巨大な力を持つ神であり、先程思い切り箱を殴り付けた本人でもある。

 しかしその箱には皹ひとつ入らず、全く変わらず……では無いが、いまだに形を保ったままそこに転がっている。

「やれやれ、こいつは骨が折れそうだ」

 諏訪子は溜め息をつきながら箱を拾い上げる。そのあまりの硬さに辟易としながらその箱をしげしげと観察し、もう一度拳を振り上げて――

「……ん? 少し……開いてる?」

 ――僅かに開いた箱の隙間を見つけた。

「……どれどれ、何が入っているのかなー♪」

 諏訪子はその隙間に指を突っ込み、本体と蓋を思い切り引き剥がそうと力を込めた。

「んぎぎぎっ……!」

 思い切り力を入れ続けると、ごく僅かずつ蓋が開いて行く。

 そして諏訪子の目に入って来たものは、なんの飾り気もない徳利と猪口だった。

「……わぉ、すっごい」

 しかし、飾り気が無いと言うのは外見だけで、それは諏訪子が今まで見たこともないほどの神気を纏っていた。

 それに引かれて諏訪子は徳利に手を伸ばす。

「……なんだか、妙に飲みたくなってきたね……」

 調度良くこんな酒器を手に入れたことだし、戻って一杯やるか。

 諏訪子はその酒器を箱と一緒に持ち帰ることにしたのだった。




 久しく何事も無かったが、漸く私の入った箱が開いた。

 永琳かと思ったがそうではなく、見たこともない少女だと思われる顔が私と小さなこを覗き込んでいる。

 人間ではないが、妖怪かと言われればそれも何か違う気がするが、まあ、私を使うものが何であれ関係はない。

 さあ少女よ。飲み、そして酔うが良い。





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