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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
5/41

戦再び、置いてけ堀

 

 私達が永琳に拾われてから随分長い時間が過ぎた。恐らく三百年は過ぎていると思われるが、永琳は私達と出会った時のままだ。

 ひとつ違うことは、たまに私達を使って酒を飲むようになった事だろうか?

 ……まあ、そんなことはどうでもいい。私達を使って酒を飲んでくれるのならば、相手が人間でも妖怪でも何でも構わない。

 何しろ私は徳利で、小さなこは猪口なのだ。使われぬ酒器など空樽にも劣る。

 ……私が意識を持ってからというもの、少しずつ酒以外の事も知識として入るようになってきた。

 以前に私達を使っていた何かは妖怪だったらしいということもわかるようになった。

 まあ、それでも私は私達を使うものに素晴らしい酔いを与えるだけだが。

 そう思いながらも私は私の中の酒を小さなこに注ぎ、永琳は美味そうにそれを飲んでいた。




 もうすぐ、妖怪が徒党を組んでこの都市にやって来るだろう。

 その妖怪達を蹴散らすことは簡単だ。兵器を使えばほんの僅かな訓練で子供でも妖怪を殺すことが出来るだろうし、それでなくとも今居る戦闘員だけで十分。

 しかし、限界まで穢れを薄めたこの場所で妖怪を殺し妖怪に殺されれば、折角長い時間をかけて浄化していった穢れがまた濃くなり、私達は一気に年を取ることになる。

 故に私達は戦うという選択肢を捨て、逃亡という道を選んだ。

 逃げる先は、穢れが全く無く、そして妖怪達が追ってくることも無い場所。天高く昇る銀円。月。

 そこに行くための道具は現在制作中だが、完成させればちゃんと私達を全員月まで運んでくれるだろう。

 月に着いたら、まずは家を作ろう。そしてその家の庭で、この酒器を使ってお酒を飲もう。

 肴は空に浮かぶ、地球と星で良いだろう。きっと素晴らしいお酒が飲める。

 私はすぐ近くに来ている未来を夢想しながら、杯に残った酒を飲み干した。




 永琳は私達で酒を飲み終わるとすぐに流水で洗ってから乾かし、永琳自身が作った箱に入れる。この箱がどんなものかは知らないが、そう簡単なことでは壊れないし中身に衝撃も伝わらないようにできているらしい。

 その中で私と小さなこはゆるりと過ごす。またいつか、次の出番を待ちながら。

 ……これが私が永きに渡って永琳と別れることになる前の、最後の話だ。




 もうすぐ月に行くことが出来るという頃に、妖怪達が息巻いて都市に向かって来た。

 もう少し時間があれば戦うこともなく月へと逃げることも出来たのだけれど、来てしまったのなら仕方ない。

 守備兵に連絡を入れ、妖怪達の相手をさせる。バックアップは万全であり、よっぽどのことが無い限り負ける事はないだろうと言える戦い。実際、守備兵達は危なげなく向かってきた妖怪を殲滅した。

 しかし、その際に妖怪達は穢れを残していった。

 その穢れは徐々に私達の住むこの都市に向かって滲むように侵食してきているため、私達はさらに急いでそれを作り上げた。

 そしてそれを作り終わった時に、気が抜けたのか意識が落ちた。

 周囲が慌ただしく騒いでいるが、私は疲労と寝不足で起きることはできなかった。

 これが、私がこの星に居た最後の記憶だった。


 次に目覚めたときには私は既に空の上。月に向かうそれの中で眠っていた。どうやら誰かは知らないけれど、倒れた私をこれに乗せてしまったらしい。

 ここにあるのは最低限の荷物だけ。そしてその中に、私の徳利と杯の入った箱は無かった。


 私は、徐々に離れて行く青い星を見る。

 あの星のどこかに、私の酒器がある。それはわかっているのに穢れのせいで取りに行くことは出来ない。

 ……でも、いつの日か必ず取りに行く。幸い時間はたっぷりあるし、酒器はあの箱に入っているのだから早々のことでは壊れない。

 私はそれだけ確認して、ゆっくりと息を吐き出した。





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