月夜見風見、花見酒
お久しぶりです。生きてます。
それはそうと投稿です。
春夏秋冬。四季は廻る。
春が来れば桜が咲いて新芽が芽吹き、夏になれば草木が伸びて雨が降る。秋となれば木の葉が鮮やかに染まり、冬になれば雪が積もる。
それぞれの季節には見合った花が咲き、次の季節になればそれは散る。
再び春が来て、夏を経て、秋を越えて、冬に至る。そうして四季は廻っていく。
……故に、それぞれ別の季節に咲くはずの花がこうして一度に咲いている現状は、自然に起きるようなことではけして無い。
つまりこれは異変である!……と言って霊夢は神社を飛び出していってしまった。
確かに普通に考えればこんなことは起きるわけがないのだが、だがしかし私はこういった光景を何度か見たことがある。具体的には60年ほど昔。そしてそれから更に60年ほど前。
話を聞く限りでは、この現象はおよそ60年毎に繰り返し起きているらしい。当時の博麗の巫女達が酒を楽しみながらも愚痴を漏らしていたのを覚えている。
私としてはこうして季節を無視して花が咲くのは珍しく、かつこちらに害の無いことなのだから楽しめばいいと思うのだが……博麗の巫女にとっては面倒な事なのだろうな。周囲が異変だと言い、それが一般に認められてしまえば動かざるをえない。
まあ、たまには身体を動かすのも悪くはないだろう。私の酒ならともかく、私のでは無い物では酒ばかり飲んでいると身体を壊してしまうこともあるようだし、運動するのも必要なのではなかろうか。
と言っても、私は人の機微というものを眺め続けて来たから多少理性的に判断することができるというだけで、それを理解しているわけではないのだが。
花見酒。桜に紫陽花に桔梗に梅、四季の花の全てが咲き乱れている。60年に一度のこの機会。どうせならば、終わってしまう前に楽しむのも悪くはないと思うのだがね。
普段は味わうことのできない情景だ。あの勢いでは神社に戻るのは夜になってからだろう。月に風に花、楽しみながら飲むがいいさ。
結局、今回のは異変じゃなかったらしい。説教臭い閻魔曰く、自然現象とは言いがたいものの何者かの意思によって花が咲き乱れる現象が起きているわけではなく、60年ごとに起きる外の世界での大量の死によって幻想郷に迷い込む魂が植物にとり憑くことで花を咲かせたものらしい。
まあ、一言で言ってしまうなら無駄足だったわけだけど……この景色はとても良い。
様々な花。四季折々の花が狂い咲く。
咲いた花を月が照らし、花弁を風が浚っていく。
暫くすれば消えてしまうこの景色。ならば一つ酒の肴にしてしまおう。
ちょうど、酒ならここにある。酌めども尽きぬ徳利と、注げど溢さぬ小さな酒杯。私好みの辛い酒を、幽香好みの甘い酒を、とくりとくりと生み出す酒器。
さて、この景色の見納めとなるまで、いったいどれだけ飲めるのか。わからないけれど今はいい。酒を飲む時に悩みは不要。ただただ酒を楽しめばいい。
道具として、私を大切に使ってくれる存在はありがたいものだ。感情というのは未だによくわからないが、それでも私はそう思う。
ただ、あれだ。私に直接口を付けるのはどうかと思うぞ、博麗の巫女。