拾われこの度、薬師の薬
どれほどの時が流れたかは知らないが、私達は再び何者かの手にある。
何かとは違い人間である何者かは、永琳と呼ばれていた。
私が永琳の手に渡った理由はとても簡単だ。
あの場所は、昔々に空から降る焼けた石で粉々にされたらしい。
しかし、私達のいたあの場所は鬼の住み処であった場所であり、更に妖気が外に出ないように封印をされていた。そのため封印に使われていた岩と洞の壁が妖気を吸い、私達を護り抜いたのではないかと言われていた。
しかしそんな場所から出てきたにも関わらず、私達は妖気ではなく神気に近いものを纏っていたのが永琳の気を引いたらしい。
恐らくそれは私が長きに渡って漬けられてきた酒が神酒に近いものだったからではないかと思う。
……まあ、そんなことはどうでも良い。徳利と猪口が在り、酒も近くにあるのだ。
飲みたまえ。
ふわり、と意識が持ち上がる。そしてゆらゆらと浮き上がり、今までに経験したことのない感覚に襲われた。
……とは言っても、けして嫌な気分ではない。むしろ、ふわふわとしていい気分だ。
私をそんな気分にさせる原因を見る。
それは、最近見付けた徳利と小さな杯。妖気にまみれた場所で見付けた妖気以外の何かを纏うそれは、なんの装飾もされていない簡素なもの。
しかし、今はそれに妙に引かれてしまう。
何らかの能力をもった道具が存在することがあると言うのは知っていたが、まさかこれほどまでに強力なものだったとは。
ふわふわと浮いたまま、私はその徳利に近くにあったお酒を注ぐ。
……そう言えば、お酒を飲むのは久しぶりかも知れない。
そう思いながら、私は徳利になみなみと注がれたお酒をすこし、杯に移して口にした。
……ああ、美味しい……。ここまで美味しいお酒は、初めてね……。
口の中に落ちたお酒を舌で転がすと、仄かに甘い香りがすると共に舌が熱くなる。
こくり、と飲むと今度は易々と食道を通り抜けてから胃に。そして数瞬後、お酒の通った部分がかぁっと熱を持つ。
とても強く、あっという間に酔い潰れてしまいそうなのに頭ははっきりとしている。
私はもう一度徳利を傾けて、いつの間にか空になっていた杯にお酒を注いだ。
……ああ、なるほど。これがこの徳利と杯の能力なのね……?
私の能力、‘酔わせる程度の能力’は、およそあらゆる物に効果がある。そして、その酔わせ方をこちらの方で操作することができる。
私はその能力ですっきりとした酔わせ方を永琳にさせている。
悪酔いや二日酔いをするのは気分が悪くなり、酒を敬遠してしまうきっかけにもなり得るらしいので、一応そういったことには気をつけて酔ってもらっている。
それに、私の能力と小さなこの能力は相性がいいのだろう。
‘招く程度の能力’
小さなこがこの能力で何かを招き、私が酒を進めて酔わせる。そうして使われるのが道具の幸せなのかもしれない。
こぽこぽと小さなこに酒を注ぎながら、私は酒気を帯びて朱に染まった永琳の横顔を眺めていた。