表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
後日談
39/41

酔に呼ばれる、白黒の魔女

 

 霊夢と萃香の二人が同時に寝入ったある日のこと。博麗神社に人影が現れた。

「邪魔するぜー……ん? 霊夢ー?」

 白黒の服を着た少女……霧雨魔理沙は、『邪魔するなら帰りなさい』という友人の声が聞こえないことに不思議そうな顔を浮かべながら神社に無断で上がり込む。

 あまりに堂々としたその態度にはある意味では感心することもあるかもしれないが………言ったところで仕方がないか。

 私はこう言った時に応対するべき神社の住人に意識を向けるが、霊夢も萃香も酔い潰れていて気持ち良さそうな寝息をたてている。

 二人は昨日も遅くまで飲んでいたせいか、まったく起きる気配がない。すやすやとそれは気持ちよさそうに眠っていて、起こすのを躊躇ってしまいそうだ。

 だが、魔理沙はそんなことはお構いなしに神社に廊下を歩いているらしく、時折ぎしりと床板の鳴る音が静かな神社に響く。あまり大きな音を立てられるとせっかく酔いの中で眠っている霊夢と萃香が起きてしまうので、できるだけ早くここに来てくれるようにと魔理沙に小さなこの能力を使ってこの場に招く。

 すると少しずつ足音が近づいてきて、廊下とこの部屋を遮る障子に影が映りこむ。影から見ると、やはりその主は魔理沙で当たっていたらしい。

「ここか〜? っておいおい、もうとっくに昼になってるのにまだ寝てんのかよ」

 静かに障子が開かれたとたんに魔理沙は若干顔をしかめて呟く。だが、霊夢と萃香が寝入ったのはついさっきだということを考えるとおかしくはない。

 そんな理由も知らない者には関係なく、呆れた表情のまま眠っている霊夢と萃香を見回した魔理沙は、霊夢の近くに転がっていた私の存在に気がついた。

「……ん?」

 私に気付いた魔理沙は、私にしっかりと視点を当てながら近付いてくる。どうやら私は魔理沙の興味をしっかりと引いてしまったらしい。

 とは言え私はただの徳利。使いたいという者が居るなら受け入れるし、ある程度までなら乱暴な扱いも許容しよう。壊されそうになったら流石に多少の報復あるいは牽制くらいはさせてもらうが、そんなことはよほど酷い扱いをされない限りは無い物と考えてもらって構わないし、事実ここ500年ほどはそんなことをする必要があるほど追い詰められたことはない。

 まあ、とにかく私は誰にでも酒を振る舞おう。自らが受け入れたことのある数多の酒の一雫を、まだ酒の味も知らない者達に。既に作られることの無くなった酒を、古き友や新たに出会った者達に。存在すら忘れられてしまった銘酒を、私を使う全ての者に。

 小さなこと私を拾い上げて廊下に出て行く魔理沙の手の中で酒を生みながら、秋の終わりも近づいたこの季節にこの少女がどんなものを肴にして酒を飲むのかを楽しみに見ているとしよう。






 霊夢には悪いが、霊夢の寝ていたすぐ近くに転がっていた徳利と小さな杯を借りて神社の屋根に登る。霊夢はケチだから私が飲ませてくれって言ってもいつもダメだと言っていた酒は、霊夢がどっかから買ってきたんじゃなくてこいつから直接生み出されているんだって言う話はここの鬼から聞いていたので、しばらくこいつで飲ませてもらうことにする。

 幻想郷の酔いどれ巫女一押しの酒なんざ、ここ以外のどこでも飲めない。

 そんなわけで私はいつの間にか満杯に近くなっていた徳利から小さな杯に酒を移し、そいつを軽く舐めるように飲む。

 すると、突然私の口の中に凄まじく濃厚な、それでいてしつこくはない香りが広がる。私が驚いてお猪口から口を離すと同時、その香りの元は私の舌の上を転がり落ちて、喉へ、そして腹の中へと進んでいく。

「……っかぁ~~、なるほど、霊夢がケチるのもわかる味だなこいつは」

 そう呟いて、私は構わず杯に残っている酒を口に含んでごくりと飲み込む。さっきの香りが口どころか全身に広がるのを理解しながら、ただ無心に酒を味わう。

 霊夢は景色やら風やらをつまみにして飲むらしいけど、私はそうじゃない。むしろ酒は酒単体でそのまま味わうと言うのが私の飲み方なので、肴とかそういう物は必要ない。

 勿論大人数で飲む時なんかは適当につまみをつついたりしながら飲むこともあるけれど、何もなしで飲んだほうが酒そのものの味を楽しめそうな気がするんだ。……ただの気のせいかもしれないけどな。

 神社の屋根の上で、一人で舐めるように酒を飲む。ほんの少しずつ、でも味はわかる程度の量で、私の舌は満足できるようになってるからな。

 じっくりと酒の味だけに集中しながら飲む酒は、宴会なんかの時とはまた違った味わいがあっていい。宴会での酒はその場の空気で飲むもんだと私は思っているが、こういったところで一人で飲むならそれなりの作法ってもんがある。私にとってのその作法ってのが、酒を楽しむ時には脇目を振らない、っていうことだ。

 言ってみれば、酒その物を肴にして酒を飲んでるのに近いかもしれないけど、これが私のお気に入りなんだから仕方ねえだろ?

 ちびちび飲んでても酒ってのはあっという間に無くなっていく。まるで洗濯物に滲み込んでいた水のように、いつの間にか手の届かないところに消えちまうみたいだ。

 おちょこに一杯の酒を飲んでは軽く休憩して、周りを見渡す。前回に見た景色との小さな違いを見つけて、それからまた酒に集中する。

 そうやって、結局どんだけ飲んだのかは分からなくなっちまったが、酒に満足した私は徳利とおちょこを霊夢の枕元に返して空に上がった。なんかちょっとふらふらするけど、まあ大丈夫だろ。多分。

 空を飛んで家に帰ろうとする途中、私は人里に買い物をしていく用事を思い出したのでゆっくりと里に下りていく。いくら私が魔法使いだって言っても、自分でなんでもかんでも作り出せるほど魔法ができるってわけじゃないからな。

 いつかはそんなこともできる魔法使いになりたいけど、とりあえず今は努力あるのみだぜ!

「おお、魔理沙か」

「ん? あー、慧音じゃないか」

「ああ、久しいな。……お前、酔ってるのか?」

 慧音に微妙な顔をされたけど、今の私は気分がいいから許してやることにした。それに、やらなくちゃいけない事があるからな。

「ちょっと霊夢の所で飲んできたんだよ……じゃーなー」

「!? おい、少し待て」

 ひょい、と飛び上がろうとして、失敗した。箒はあるのに、なんでか飛べねえ。そのせいで飛び跳ねてすぐに慧音の胸に顔を埋める形で落ちてしまった。……でっけえな、おい。

「……まったく、こんな状態で空を飛ぶなど無謀もいいところだぞ。……おい、聞いているのか?」

 慧音がなんか言ってるような気もしたけど、急速に辺りが暗くなっていく私はそんな話は一切聞く事無く、そこで眠ってしまった。

 起きた時には慧音の家で、二日酔いの頭痛に悩まされることこそ無かったが慧音の説教を暫く聞く事になった。






 ……ふむ、と私は考える。あの少女……霧雨魔理沙と言う少女は、酒に対する姿勢が素晴らしい。純粋に酒を楽しむ事が出来るその姿は、酒器としてとても好印象だ。

 しかし、同時にそれをもったいないとも思う。ただ酒のことだけを考えることで手に入れられる物も当然あるが、ただ酒だけを楽しむことでは分からない物も多く存在する。酒を楽しみ、会話を楽しみ、視界に入る全てを、耳で拾う音の全てを、鼻で感じる匂い全てを、皮膚に触れる全てを同時に感じる事でも楽しめることは沢山あるのだ。

 以前の宴会ではその場の空気なども楽しんでいた事を覚えているが、次にあの少女が私を使う事があれば、そう言った楽しみ方も見せてもらいたいものだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ