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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
後日談
37/41

 IF~逆月少女、人繰青年~

 

 お久しぶりです。とりあえず、かなり前に書いてみたものの作風から思いっきり外れたので上げなかった物を上げてみます。

 なお、この話は完全にIFの話であり、本編とは全く関連性を持ちません。本編の御二方は絶対に人化しません。あくまでもIFのお話です。


 

 私の隣で、小さなこが僅かに動き始めた。

 かた、かたかたかた……と震え始め、数秒後には小さなこは人型をとっていた。

 小さなこは、なにがなんだかわかっていないようにきょろきょろと辺りを見回し、そしてふと視線を下げたところにいた私を見付けて拾い上げた。

 ただ、小さなこは意識を持ったばかりで、それでいながら人型になってしまったために言葉を解することが恐らくできていない。それでも私に興味を持ち、そして私をこうして大切に持っていると言うことは、自分がどういった存在であるかは理解しているということだろう。

 そう考えながら、私を抱えたままふらふらと立ち上がろうとしては失敗している小さなこを眺め、とりあえず人型になることを覚えたのなら服を着ることも覚えさせるべきだと思考した。

 そこで私は存在を開始してからほとんどやったことがない人化を行う。さっきの小さなこと同じように僅かに震え、それから人型に……。

 ……ふむ。やはりいつになっても人型と言うのは慣れないな。妖力かなにかは知らないが、一応服はあるようだから気にしていないが、体を動かすのも声を出すのも億劫だ。

 小さなこを手招きして呼び、いつものように小さなこの力を使って服を編み上げる。こうして自らの力で作った服ならばともかく、別人の力で作った服を着た場合は私たちにその服の柄が模様として浮かび上がってしまう。

 もちろん自分で作った服でも模様を浮かび上がらせてしまうこともあるので、私が作った服は白一色の簡素なものだ。

 なにが起きているのかわからないといった風に私を見上げる小さなこに、少しずつ言葉を教えていく。

 ただ、私自身もあまり話さないし、話すことができるようになったとしてもそれを使うようなことは無いと言っても良いだろうが………まあ、その方が道具には相応しいだろう。

 それに、言葉などは放っておいても勝手に覚えていくだろうし、一々教えなくともよかろう。

 それよりも、まずは小さなこが化けた記念に祝杯を上げよう。この姿になっても私の能力は健在だし、杯は霊夢と萃香が使っていたものが転がっている。

 酒を生み、直接杯に注いでから飲み干す。それからもう一度注ぎ、小さなこに手渡した。

 小さなこは私と杯を交互に眺め、それから両手で杯を受け取った。

 それから私がしていたように、くっ、と中の酒を飲み干した。

 流石は私と共にあった杯。酒を飲むのはお手の物と言うわけだな。

 そう考えながら小さなこの持つ杯に酒を注ぐと、小さなこはそれを私に手渡してきた。どうやら霊夢と萃香のやっていたことを真似ているらしい。

 私は小さなこの頭を撫でて、それから受け取った杯の酒を飲み干す。

 ………私自身が呑むことはあまり無いのだが、やはり酒と言う物は美味いな。

 そう考えながら、私は小さなこと酒を飲んでいるのだった。

 そうしていると、小さなこからくいくいと袖を引かれる。どうやらなにかに気付いたようだが………。

 そこでふと、地平線へと視線を移す。すると、ちょうどその瞬間に朝日が幻想郷を照らし出した。

 ……ああ、なるほど。確かにこれは見ておくべき光景だな。

 それを知らせてくれた小さなこに、新しく酒を注いだ杯を渡す。

 さて、そろそろお開きということになるのか。

 こくこくと酒を飲み干した小さなこもそれを察したのか、私の隣に座って杯を少し離れたところに置く。

 そしてこの朝焼けに包まれた幻想郷を眺めながら、私達はゆらりと人型を捨てた。

 ━━またいつか、こうして二人で酒を飲もうか。

 私がそう思うと、小さなこはかたりと僅かに震えて答えた。






 ……? わたし……さかづき……?

 ━━ああ。そうだ。

 ……さかづき………なまえ……?

 ━━そうだ。逆月さかづきだ。

 ……?

 ゆらゆらと揺れる世界。自分という存在と、自分とずっと一緒にいた存在と、そしてそれ以外のなにか。

 それしかわからない中で、少女はわからないと問い続ける。

 少しすると、ずっと自分と一緒にいた存在が、自分のことを『さかづき』と言っていることを覚えた。そして、それが自分の名前だと言うことも教えてもらった。

 それから、さっき飲ませてもらった何かにも名前があることを教えてもらった。

 そしてこの『名前』と言うものが、自分以外の物にも付いていることを、産まれたばかりの彼女は知った。

 彼女は思った。なら、自分とずっと一緒だった存在にも、名前があるんだろうか?

 すると、少女に逆月と言う名を付けた古い徳利は、僅かに悩む顔を見せた。

 しかしその表情もすぐに消え、徳利は逆月に向かって言った。

『私の名は、酔呼よいよび人繰とくりだ』




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