知慧の神獣、火鳥と酔巫女
珍しく、私は霊夢の腰元に吊られて外出中。萃香は神社の一部屋で夜更かしし過ぎたせいか眠りこけていたため置いていかれてしまったらしい。
そんな私たちがどこにいるかと言えば、霊夢の知り合いに呼ばれて人里に向かう道中だったりする。
霊夢は博麗の巫女にしては随分と妖怪と仲がいいように見えるらしく、最近は人里に顔を出すのは異変の時くらいになっているらしいが………まあ、博霊の巫女ならば普通の人間よりは妖怪に近くなるのは当然か。
そんな霊夢が入っていったのは、寺子屋らしい小さな家。中では多くの子供に一人の娘が勉学を教えているようだった。
特にその娘の語る歴史は私の知るそれと相違無く、かなり優秀な教師であることが予測された。
「慧音ー、来たわよー」
「おう、来たか」
霊夢が上げた声に答えたのは、その慧音と言うらしい娘ではなく、割と最近見かけたばかりの妹紅だった。どうやら妹紅が慧音と言うらしい娘になにかを吹き込んだのだろう、私のことを探るような目で眺めているのがわかる。
まあ、私としては旧き知人と酒を呑み交わすのも、新たな所有者と酒を飲むのも心地よい。道具としては使われることこそ幸福であるが故に。
例えその使用者が悪徳の限りを積み上げる大悪党であろうが、真に世のことを考えて動く聖者であろうが、使われることに厭は無い。
ただ、使われるのなら私は風流を解する者に使われる事が幸いだが……よっぽどのことでなければ拒否はすまい。私たちはただの道具だからな。
昼間っから飲むお酒は美味しいわよね。私は誰に言うでもなくそう考え、慧音の用意した小さな酒杯に徳利からお酒を注ぐ。
萃香の持っていた大杯を勝手に持ち出すわけにもいかないし、自分の分は自分で用意してもらったんだけど……正解だったわね。
並々とお酒の注がれた酒杯を慧音に渡すと、慧音は少しだけ頬を緩めて受け取った。
「ああ、ありがとう。霊夢」
「いいわよ別に。前にご飯もらったし」
ひらひらと手を降り、次は妹紅の分にお酒を注ぐ。妹紅は妹紅で自分の分を持ってきていて、ついでに筍でおつまみなんかも持ってきている。
「意外と気が利くじゃない」
私がそう言うと、妹紅は苦笑して首を横に振った。
「いやいや、これは私じゃなくて慧音の提案さ。私はそれに乗っただけ」
「そう。それじゃあ、ありがと。慧音」
「用意したのは妹紅さ」
「いいから二人ともお礼くらい受け取っときなさいよ。酒しか出せないけど」
私の言葉に、周囲が笑いで包まれる。やっぱり、こうやってちょっとした人数で真っ昼間から飲むのもいいものよね。
「それじゃあ、初めだけ勝手に仕切らせてもらうわね。乾杯」
「乾杯」
それだけ言って、私と慧音と妹紅の三人は、昼間からの宴会を楽しみ始める。
とろり、と粘度が高いように見えたそのお酒は、口に入れて飲み込んだときにはただの液体になっている。
しかし、そのお酒の触れたところがまるで火で炙られたように熱くなる。これはまるで、私が呑んだくれ巫女と呼ばれるようになる前、慣れていない頃に酔呼の酒器から飲んだ強い強いお酒にそっくりだ。
……けれど、やっぱり美味しい。慧音も妹紅も初めは少し驚いていたように見えたけど、少し頬が緩んでいるのが見てとれる。
くっ、とおちょこの中身を飲み干して、徳利から次の一杯を注ぐ。どうやら私が初めに一杯目を飲み終えていたらしく、慧音と妹紅は一杯目をちびりちびりと飲み続けていた。
「………くは。やはり、酒はいい。久しく飲んでいなかったが……」
「おいおい、半年くらい前にも飲んでたじゃないか」
「半年はずいぶん長いわね。よく死ななかったと思うわ」
「はははは、私は霊夢と違ってちゃんと酒以外にも食べているからな。私にとっては酒は心の栄養だ」
慧音はニッと笑って私に僅かにお酒が残った杯を向けた。
そして残ったお酒を一度に飲み干し、私達の真ん中に置いてあった徳利を取り上げ、お酒を注ぎ始めた。
「……いや、まず酒は食い物じゃねえだろ」
「私にとっては命の水よ」
「ダメだこの飲んべえ巫女」
「それは私にとっては褒め言葉ね」
妹紅の呆れたような言葉にしれっと返し、私は手の中にある酒を飲み干した。
……はぁ、美味しい。
賑やかな酒宴の中央で、私は三人にやり取りされる。
霊夢が持ち上げ酒を注ぎ、隣の慧音に呼ばれて手渡され、受け取った慧音が自分の分と、乾いた妹紅の杯にも注いで中央へ。
笑いがあり、驚愕があり、躁の気に溢れた宴会を、私は酒で盛り上げる。
小さなこも霊夢の手の中で、陽気を招いて盛り上げる。
騒がしい宴も静かな宴も、それを開く人妖神魔、私はそれら全てを愛そう。
それこそ道具の本懐であるがゆえに。
私は続く宴会の中、こぽりこぽりと酒を湧き出させ続けた。