最古の薬師と、最古の薬
にじファン無くなっても東方死せず、という話を聞いて、嬉しくなったので久々に投稿。ついでに新しくネタも出たので書き始めます。
これからも酔呼と呑んだくれ巫女を、よろしくお願いします。
輝夜姫が神社に泊った日の当日昼間に、永琳が輝夜姫を引き取りに神社までやって来た。
しかし永琳は私たちを持っている霊夢になにを言うでもなく、輝夜姫を連れてどこかへと飛び去っていった。
「……ふぅん? どうやら今夜はお客さんが来るみたいね」
「そのようだね。どうするんだい?」
「勿論、そこそこの歓迎はするわよ? お賽銭入れてくれたら額に応じて待遇が良くなったりするかもしれないけど」
その言葉に萃香はからからと笑い、霊夢から大杯に注いでもらった酒を飲み干した。
「まったく。霊夢らしい答えで安心したよ」
「あらそう」
萃香と霊夢の二人は笑顔を浮かべ、輝夜姫が抜けて若干静かになった酒盛りを続けている。
「……最近客が増えたし、客用の杯とかも用意した方がいいんじゃないかい?」
萃香がぽつりとそんなことを霊夢に向けて呟くが、それを霊夢は鼻で笑い飛ばす。
「そんなお金は無いわ」
「世知辛いねぇ……」
二人は無言で酒を注ぎ合い、静かに干された杯を交換した。
輝夜が永琳に引きずられて戻っていった日の夜。私達の予想通りに永琳が神社にやって来た。
私達は無言で永琳を招き入れ、永琳も無言で縁側に座る。
そこで永琳はふと思い出したかのように懐に手を入れると、そこから小銭の束を取り出して賽銭箱に放り投げた。
どちゃっ、と鈍い音をたてて小銭の束が賽銭箱の中に入り、それからようやく永琳が私の顔をしっかりと見た。
「ありがと。水じゃなくてお酒を出すわ」
「話が早くて助かるわ」
私が使っていたおちょこを軽く放り、永琳がおちょこを受け止める。そしておちょこのかわりに私の手には、袖から出した別の杯が握られている。
言葉を交わすこともなく一瞬でわかりあった私と永琳は、ただゆっくりと笑顔を浮かべる。
「おいおい、仲間外れとは酷いじゃないか。私も入れてよ」
「あら、そう言えば萃香も居たわね。忘れてたわ」
「そうだったわね。酒器ばかり見ていて気付かなかったわ」
「酷いなぁ」
その輪に萃香が入り、私がおどけて永琳もそれに乗る。
ちゃんと理解している萃香も苦笑して、私達の月夜の宴会が始まる。
昨日は輝夜。今日は永琳。二日連続の三人での宴会だけど、ほぼ毎日私と萃香の二人で呑んだくれているから大丈夫。まったく問題ないわ。
とくとくとくと永琳の持っているおちょこと萃香の大杯、そして私の手の中の中程度の大きさの杯にお酒を注ぎ込む。
三つの杯になみなみと注ぎ込まれたお酒の表面に、昨日よりも少しだけほっそりとした月が映り込む。
私達は誰が先導するでもなくゆっくりと酒器を持ち上げ、丁度三人の中心で軽く杯同士を合わせて鳴らす。
そして、異口同音に呟いた。
「「「乾杯」」」
私達は同時に手に持った酒器の中身を飲み始め、各々が自分の飲みたい早さで飲みたいだけ飲み、そして時に語り時に耳を傾けていた。
宴会の時間は長くもあり短くもあったけれど、私達がまだ起きているうちに、静かな夜が明け太陽が地の果てから顔を覗かせた。
「……随分と、時間が過ぎるのが早かったわね」
永琳が立ち上がり、ぽつりと呟いた。それはきっと長い時の中を生きてきた永琳や萃香だからこそ言えることなんだろう。
「まあ、また来なさいな。その時は歓迎してあげるわよ」
私の声には答えずに、しかししっかりと振り返って私達と目を合わせた永琳は、ふっ、と笑みを浮かべてから飛び立った。
「……いやぁ、私が死んでる間に、こいつにも色々あったんだねぇ」
萃香が白い徳利とおちょこにちらりと視線を向けて言う。萃香が死んだ云々の話は知らないけれど、確かにそうね。
私は永琳が置いていったおちょこに徳利からお酒を注いで、くっと飲み干した。
朝特有の澄み渡った冷たい空気に陽光が混じり、幻想郷を美しく彩る。
やっぱり私はこの景色が好きだ。その思いをお酒で流し込むように、私はまたお酒を飲んだ。
永琳が去り、また静かになった神社で酒盛りは続く。夜通し飲んでいた二人はまだ酒を飲むのをやめようとはせず、いつものように大杯と小さなこを何度も入れ換えながら飲み続けている。
この二人の懐が広いのには助かっている。そうでなければ神社で妖怪達と宴会を開く事など無かっただろうし、永琳や妹紅、輝夜といった私たちの昔の所有者とまた酒を飲むことなどできなかっただろうから。
私はそんなことを思い、今日も酒を生む。
この酒でこの二人が楽しんでくれるのならば、幸いだ。