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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
後日談
31/41

歪な月下の、酒呑み童

 

 歪んだ満月を整えに霊夢が飛んでいってしまったので、私と萃香は神社で月を見上げながら酒を飲んでいる。

 正確に言うのならば私は飲んでいるとは言えないのかもしれないが、私はいつ如何なる時も、使用者と共に酒を飲んでいるつもりであった。

 それを知ってか知らずか、萃香はいつも私に少し語りかける。

 それは他愛ない話だったり、もしくは私にも今の状態にも一切関係ない話だったりもしたが、私はそれでも満足だった。

 歪んだ月の光の中で、萃香はぽつりと呟いた。

「……お前と別れたあの日の月も……こんな風に歪んで見えた」

 少しだけ、小さなこを持つ手に力が込められる。

 それは私達にはあまり強いとは思えない強さだったが、萃香はかなり強めに握っているようだった。

 しかし萃香は、その手からすっと力を抜いた。

「……待っていると言ったんだ。だったら私は、何があっても待ってなくちゃな」

 そう呟いた萃香は、私の首の部分をつまみ上げ、さっさと乾いた小さなこに注ぎ込み始めた。



 霊夢は満月が沈み、日が昇ってからようやく神社に戻ってきた。

「……はぁ……ただいま」

「おかえり~」

 疲れた声で帰還を告げる霊夢に、萃香はいつもとなんら変わらぬ声で答える。

「とりあえず、飲むかい? 腹減ってるだろ?」

「………疲れてるから、一杯だけね」

 萃香に小さなこを手渡され、霊夢はぺたりと縁側に座り込んだ。

 朝焼けの見事な金色の光に包まれ、霊夢は一杯限りの酒を一息で、しかしゆっくりと飲み干す。

「どうだい? 朝早くにしか見れない絶景を肴に、絶品の酒を飲む気分は」

 萃香は霊夢に笑みを向けてそう聞く。それに霊夢は僅かに笑顔を向け、こう返す。

「……まあ、悪くは無いわね」






 私は一杯飲んでその場で落ちた霊夢を布団に運んでやる。こんな状態で酒を飲んだら、そりゃ落ちるわな。霊夢はこれでも人間だし。

 ぽんぽん、と軽く頭を撫でてから外に出て、私は霊夢の部屋に程近い縁側に座る。

 そして私は朝焼けと言うには少々昇りすぎている日を眺め、その日に照らされて輝いている幻想郷を眺めて一人で酒を飲む。

「……出といでよ。こそこそ隠れてないでさ」

 私がそう呟くと、不意に目の前に裂け目が現れる。

 そしてそこから出てくるのは、私の友であり、妖怪の賢者とも呼ばれる八雲紫だった。相変わらずうさんくさい笑みを浮かべている。

「あらあら。いつからばれていたのかしら?」

「相変わらず五月蝿い奴だな。あんだけ見られてれば猿でもわかるよ」

 私はそう言って無粋な覗き妖怪から視線を逸らし、また太陽と風と金色の世界を肴に酒を飲む。

「出てきたんだったらちょうどいい。一緒に飲まないかい?」

「流石に鬼と飲み比べが出きるほど強くはないの。ごめんなさいね?」

 紫はそう言ってまたくすくす笑う。やれやれ、霊夢だったら付き合ってくれるのにさ。

 そう思ったりもするが、紫に断られるのは別に初めてじゃないので、特に気にしないでくいっと飲み干す。

 ……そう言や、こいつの式は酒飲みだったな。だからってどうと言うことはないが、とりとめもなくそんなことを考える。

 霊夢が目を覚ましたら、多分腹を空かせてるだろうし……あの魔女を呼んどいてやるか。






 日が天高く昇り、アリスが食材を持ってやって来て、霊夢のために料理を作る。見ているとどうしても霊夢の母親に見えてきて仕方ないが、アリスは毎回否定している。

 酒のつまみを萃香に何度か強奪されながらもアリスは料理を作り終わる。それとほぼ同時に霊夢が現れ、台所で片付けをしているアリスに寝惚け眼で言った。

「……おはよ。アリス」

 その直後にくぅ、と霊夢の腹が鳴いた。

 アリスはそんな霊夢に苦笑して、霊夢を食卓に座らせる。

「それじゃあ、食べましょうか」

 食卓を囲む三人は両手を合わせ、誰が合図するでもなく同時に呟いた。

「いただきます」




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