昼の盃、夜の杯
これからは一話できたらちゃっちゃと投稿していこうと思います。
ゆっくりと酒が干されていく。霊夢と萃香が二つの酒杯に私と瓢箪から酒を注ぎ、それを何度も交換しながら飲んでいる。
飲み比べ……と言うわけではないらしいが、騒がしく飲むでもなく、ただただのんびりと。
日を浴びながら酒を飲んでいる時間は、霊夢曰く最高の時間らしい。
「……ぷぁ……」
萃香が満足げに杯を干し、笑みを浮かべる。それはなにやら随分と嬉しげな笑みだった。
「どうしたのよ、そんな笑って」
霊夢もそれに気付いたらしく、怪訝そうに萃香に問いかける。
「いや、なんか今までより酒が美味くてな」
萃香はにっと笑い、空になった酒杯に瓢箪から酒を注ぐ。
丁度小さなこに注がれていた酒を干した霊夢がそれを受け取り、代わりに萃香に小さなこを手渡した。
そして私を片手でつまみ上げ、小さなこの中に酒を注ぎ込む。
「それは喜ばしいことね。お祝いに乾杯しようじゃない」
「良いねぇ。酒のことでこんなに話の合う人間は初めてだ」
萃香と霊夢は笑顔を浮かべ、大杯と小さなこを天に掲げる。
「「乾杯」」
二人の酒飲み達は、同時に自分の持つ杯に口をつけた。
私は昼に飲むお酒が好きだ。勿論夜に飲むお酒も好きだが、やっぱり晴れた日の昼に日を浴びながら飲むのがいい。そこに桜が咲いていたり、紅葉が舞っていたりすれば、なおいい。
更に、隣に気心の知れた相手が居て、のんびりと話し合いながらのお酒なんて、もうたまらない。
私は目の前にいるその相手から空のおちょこを受け取り、大杯にたっぷりとお酒を注いでから相手に渡す。
その相手の名前は伊吹萃香。しばらく昔に幻想郷から姿を消した、鬼の一人だ。
萃香は私から受け取った大杯を揺らし、ゆっくりとお酒の匂いを楽しんでいる。
「……私はこれで昼の分はおしまいにするけど、霊夢はどうする?」
「私はもう少し飲んでるわ。仕事も無いし、お腹空いたし」
私の主食は未だにお酒。おかずは太陽光と景色で、まあ、そこそこ健康。
そして、毎回アリスにかなり怒られている。
……確かにアリスがご飯を作ってくれなかったら私はもう固形物を食べられないような状態になっていたと思うけど、それでもあんなに怒ることはないと思うのよね。
「いやいや、霊夢も人間なんだから、もう少し自分の体に優しくしてやんなきゃ駄目だよ?」
「大丈夫よ、萃香」
「……そう言うんだったらそれでいいけどさぁ……」
「大丈夫よ。問題ないわ」
私はそう言って、おちょこでのんびりお酒を飲む。人肌程度の温いお酒が、ゆっくりと喉を滑り落ちていく。
……はぁ……美味しい。
私がお酒を飲んで一息ついていると、呆れたように溜め息をついた。
「……よし!今日の夜は丁度満月だし、私が月夜の酒の醍醐味ってのを教えるよ」
「……は?」
急に萃香はそう言ってはしゃぎ出す。どうしてそうなったのかはわからないけれど、まあ、たまにはそういうのも良いかもしれないと思ったので拒否はしないでおく。
「はいはい、わかったわよ」
「お!良いねえ、流石飲んだくれ巫女だ!」
「五月蝿いわよ。事実だけど」
私は妙に元気な萃香にぴしゃりと言葉を返し、なみなみとお酒の注がれたおちょこを一気に傾けた。
そして夜。空に昇り始めた月は、いつもの満月に比べて僅かに欠けている。
私と萃香は顔を見合わせて、確認する。
「……今日って、満月のはずよね?」
「……ああ。そのはずだ」
「………間違ってたりはしない?」
「………しない。昨日は前回の新月から十四日だった。今日は十五日目だ」
「…………なんか、欠けてない?」
「…………欠けてるなぁ」
……ってことは……これは異変よね?
私は溜め息をついて、出掛ける準備をする。封魔針やお札。そしてスペルカードもちゃんと持った。
「ちょっと、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい。私は私で霊夢が帰ってくるまで楽しんでるよ」
そう言う萃香は既に出来上がっていて、なんだか顔が真っ赤でお酒くさい。
まあ、萃香なら悪いようにはしないでしょと思い、私は萃香を留守番させて異変を解決しに幻想郷の空を飛ぶ。
…………多分、こっちね。
私は勘の囁くままに人里を目指して飛ぶ。今回の異変の犯人は………ほんと、誰なのかしら?
霊夢が空を飛んで行ってしまい、私は満月には僅かに届かぬ月の下で萃香に使われている。
つい最近に萃香の腰にいつもぶら下がっている瓢箪から鬼の酒を注がれたが、萃香は火がつくほど強い鬼の酒よりも、最古の清酒の方が好みらしい。
だから私はその酒を産み、萃香は嬉々として酒を飲む。
……だが、なんと言うか今回は、萃香と再会した時と似たような感覚がある。
また誰か昔の所有者に再会することになりそうだ。
……月………か。月と言えば、永琳と輝夜。いったいどちらとの再会になるのだろうか?
どちらにしろ、また彼女たちと一緒に宴を楽しみたいな。
私は酒を産み出しながら、遥か昔とすぐ先の未来に意識を馳せた。