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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
3/41

光芒落ちて、滅びの歌

 

 私がこの酒樽に入れられ、どれほどの時が流れたのかは知らない。

 しかし、それでも外ではなにかが起きてゆく。




 人間たちは地上を自らのものとした。全ての妖怪は人間の叡知に敗れ、消滅した。

 しかし、それで平和になるかと言われればそれは違う。人間ほど理解しがたく、救いがたい存在は無い。

 妖怪との戦争が終わり、次に人間たちが行ったのは……人間同士の戦争。

 ちょっとした不満から始まったそれは唸りをあげて巨大に膨らみ―――



 ―――しかし、人間を飲み込むことなく、唐突に消え去った。


 人間たちは過去に妖怪たちに立ち向かうため、全員が巨大なたった一つの都市に生きていた。

 それは妖怪の脅威が消えた今でも変わることはなく、人々はたった一つの都市に生き続けている。

 争おうが、いさかいがあろうが、この都市の外に出ることなど考えもしない彼ら。そんな彼らは、外に目を向けようとはしなかった。

 そうして自分達の小さな世界に閉じこもった彼らは、空から近付く災厄に気付かなかった。

 ……ただ一人、ある少女を除いては。


 その少女は、高い高いビルの上に座っていた。

 ぶらぶらと足を揺らしながら、空を見上げる。

 緑色の半球に覆われた空。そこで少女の視線は止まり、少女はぽつりと呟いた。

「……もうすぐ、かな………?」

 少女の目には空を覆う結界ではなく、全く違うものが映っていた。


 ――色が反転した世界の中で、結界が砕ける。

 外から降ってきた大きな石はこの都市の結界を易々と打ち砕き、自らも砕けて都市に降り注ぐ。

 原型を残している所など一つも無く、後に残るものは大きな穴の連なりだけ。

 そうしてこの都市は跡形もなく壊される。

 その中には、自分の姿も――


 色が戻る。見えていたものが消え、自分の座っていた所がビルの屋上だと確認する。

 少女には能力があった。


 ‘最も可能性の高い未来を覗く程度の能力’


 それが少女の能力だった。

 少女が産まれてから、この能力が役に立ったことなど殆ど無い。そして今も、役に立っているとは言い難い。

 こんなことを人に言ったところで信じるものなどいないだろうし、それ以前に聞いてくれる者などいないだろう。

 だから少女は何も言わずに毎日この場所で空を見上げ、そして確認する。

 自分達の命がどの程度残っているのか。そして、それまでになにができるのか。

 少女は森の中を歩く。もうすぐ消えてしまうとわかっているその場所を、心に刻み付けるかのように。

 一歩進むごとに周囲を見渡し、また進む。

 花を踏まないように気を付けながら、ゆっくりと歩き、ある場所にたどり着く。

 それは、巨大な岩。昔からこの場所にあった、巨大すぎる岩。少女はその岩に背を預けて座り込んだ。

 少女はこの場所が好きだった。頭の中に霧がかかったようになり、何も見ないで済むこの場所が。

 いつもこの場所でゆっくりと体と精神を休め、また次の日にビルの上で空を見る。

 ……ふと、少女は歌いたくなった。なぜかはわからないが、急に、どうしても。

 その衝動に任せて口を開くと、言葉が勝手に溢れてきた。

 自分でもなぜ口が動くのか、なぜ歌っているのかもわからないままに、空を見上げる。

 すると、空から幾度も見た燃える石が降るのが見えた。

(……へぇ、今日だったんだ?)

 少女は歌を口ずさんだまま、目を閉じた。





 いきなり樽が揺れ、私は倒れて樽の底を転がる。

 ギシギシと周りが嫌な音をたてているが、なぜか私にも小さなこにも傷はない。

 いつの間にかその大きな音は止み、辺りには再び静寂が満ちた。

 周囲がどうなっているかは知らない。だが、周りに居た全てがいなくなったことだけはわかった。

 私と、そのすぐ傍にいる小さなこは、まだまだこの暗闇と付き合うことになるのだろう。

 私はそう考え、外に意識を向けるのを止めた。





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