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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
27/41

博麗神社で、宴会続き

 

 今日は宴会。一昨々日もその前も、数日ごとに多くの人妖が集まり、博麗神社の境内で酒を飲み散らかし、上機嫌に笑い、食べ、そして所々で夢の世界に落ちている。

 昔に出会った氷の妖精や緑の妖精。最近になってよくこの神社に来ているアリス。見覚えのない本を読む紫色の娘。吸血鬼の娘と、それに仕えるメイド。化け桜を庭に植えていた亡霊の娘と、人魂を背負う娘。久し振りに会う玉藻前に、その式である猫又の娘。そして玉藻前の主である隙間妖怪。その他にも虫の娘や騒霊の三姉妹等が、賑やかに境内を彩っている。

「……まったくもう。騒ぐのは別にいいけど、境内を使うなら賽銭のひとつやふたつくらい入れていきなさいよ」

 霊夢はそう言っているが、止める気配はない。

「まあいいじゃねえか!どうせ賽銭入れても霊夢が酒で腹を膨らませるのを辞めるとは思えないし!」

 霊夢の隣に座ってそう言ったのは、白黒の服を着た娘。名前は確か、魔理沙と言ったはずだ。

 その魔理沙に不機嫌そうな顔を見せた霊夢は、何も言わずに小さなこに注がれた酒を飲み干した。

 それから魔理沙にじっとりとした目を向け、酒で潤った口を開く。

「五月蝿いわよ。あんたたちが片付けしないで帰ったり、そのまま寝るお陰で私は片付けが大変なのよ」

「手厳しいなぁ霊夢は。アリスにも手伝ってもらえばいいじゃねえか」

「大抵手伝ってもらってるわよ。帰るって言った時は引き止めないけど」

「じゃあ私は帰るぜ」

「あんたは帰さないわよ。手伝いなさい」

 お互いに割と本気で言い合いながらも、けして険悪な空気を出さない二人。恐らく、この二人は本当に仲がいいのだろう。

 それなのになぜか、霊夢は魔理沙に私達を使わせようとはしない。

 理由はわからないが、持ち主である霊夢が使わせたくないと言うのならばそれで構わない。できれば使ってもらいたくはあるが、絶対ではない。

 ……それでは、私も本格的に楽しむとしようか。欲しくて付いた名ではないが、酔呼の名に相応しい最高級の酔いを与えよう。




 結局酔い潰れた魔理沙達を眺めながら、私はいつものおちょこでお酒を飲む。魔理沙はよくこうして潰れるのだけれど、どうしてか憎めないのよね……。

 そう思いながら私は夕焼け色に染まった空を見て、弱くなった太陽の熱を受けながらお酒を飲み干す。

 ……逢魔時。大禍時とも書くこの時間は、普段よりも魔や妖といった者達に出逢いやすい。それこそ、深夜に比べても。

 だから、もしかしたら今なら話しかけることができるかもしれない。

「……宴会するのは良いんだけど……一対一で静かに飲むのもいいわよね。……あんたもそう思わないかしら?」

 そう、周囲に漂う霞のように希薄で、それでいて強大な妖気を持つ相手に話しかけた。

 ……数秒過ぎて、ゆっくりと状況が動き始める。私の座る縁側の、私の右隣に置いてある徳利を挟んだ向こう側に、周囲の気配が纏まり始める。

 私はそれを邪魔することもできたし、邪魔してやるだけの理由もあったけれど、それをなにもせずに感じとり、軽くお酒を呷るだけ。

 ゆっくりと纏まった妖気は、大半をいまだに周囲に散らしながらも強大で、全力ならば紫を凌駕するのではないかと思えるほどの圧迫感を持っていた。

「お前、人間なのに凄いね? よく私の気配に気付けた」

「まあね。気配を消して忍び込んでくる奴の相手をするのには慣れてるから」

 主に魔里沙ね。お賽銭入れてけば一杯あげるって言ってるのに、何でわざわざ盗みに入るのかしら。

 そう考えていると、頭の横から長い角を二本生やしている見知らぬ妖怪は、その手に持っていた瓢箪からくいっとお酒を呷って、また話し掛けてきた。

「ところで、いつから私に気付いてたんだい? 初めは確実に気付いてなかったろ?」

 確かに初めのうちは、妖気が薄すぎて気付けなかったし、普通にいつもの通りにお酒を飲んでいた。

 はっきりと気がついたのは前回のことだけど、なんとなく『何かがいる』と思ったのはその二回前の宴会中盤あたり。

 あまりにも何度も続く宴会を奇妙だと思って周りを注意して感覚を研ぎ澄ませてみれば、その時境内でお酒やら料理やらをかっ食らっていた知り合い達とは違う、私の知らない妖気が薄く漂っていることに気付いた。

 だから、いつ気付いたと聞かれれば、わたしはこう答えるしかない。

「三回前の宴会の途中あたりよ」

 私の答えに、目の前の妖怪は称賛の意味を込めてか軽く口笛を吹いて答えた。

「まあ、確証は無かったから紫に聞いたりもしたけどね」

「いやいや、それでも人間にしてはかなりのもんだよ。お近付きの印に、どうだい一杯」

 その妖怪は、なんの含みもなく私に瓢箪の口を向けてくる。それを私はいつものおちょこで受けて、呷る。

「……!?」

 冷たかったお酒が喉を通ってしばらくすると、急に異様な熱を発し始める。こんなに強いお酒を飲むのは、久し振りかも知れないわね。

「あっはっは!やっぱり鬼の酒は人間には強かった?」

「……けほ。まあ、かなり驚かせてもらったわ」

 もったいないし、ある程度予想はしていたから吐き出したりはしなかったけど、予想以上に強くてかなりびっくりしたわ。

「……ところで、最初の質問には答えてくれないのかしら?」

「もう答えてるだろ?」

 その妖怪……鬼は、月の下でにやりと悪戯っぽく笑った。

 まあ、こうして出てきてくれたっていうのが何よりの返答かしらね。

「……そうね。それじゃあ……」

「ああ。飲もう」

 私と見知らぬ鬼は、酔い潰れた者達が眠る神社の縁側で、並んでゆっくりお酒を飲み始めた。






 懐かしい気配の主が、霊夢の隣に座る。確かこの気配は、私を一番初めに使ったあの鬼と全く同じもののはずだ。

 ……私を最後に使った時に、また必ず会いに来ると言ってはいたが………まさか、鬼の身で輪廻を廻ってまで私に会いに来るとは思っても見なかった。

 だが、私も小さなこも嬉しいよ。これほどまでに大切に思われているとは、思っても見なかった。

 ……ああ、そうだ。あの時の酒は、今は私が産み出すことができる。永きの別れからの再会に、祝杯をあげるのも良いだろう。

 ………例え、その相手が私を忘れていても、それくらいは許されるだろう?

 ……道具としては、感傷に浸るのは失格かもしれんがな。




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