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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
26/41

春の訪れ、春告精

 

 例年よりも多少長い冬が終わり、霊夢はそれから毎日のように太陽を浴びながら酒を飲むことを続けている。

 時折神社の掃除をしたり、依頼を受けに人里へ降りたり、つまみを作るために厨房に立ったりすることもあるようだが、基本は縁側でのんびりと私を使っていることが多い。

 その時にアリスが食事を作りにやって来ると、ほぼ毎回霊夢は私を取り上げられてしまう。恐らくだが、何か逆らいがたい雰囲気と言うものがあるのだろう。

 私にはわからないが、恐らく母親に酔いつぶれているところを見つかった娘のような感覚なのかもしれないな。

 アリスが聞いたら、自分は霊夢のような娘がいるほど年は食っていないと言うだろうが、端から見ているとそうにしか見えない。女らしくしない娘のことを心配する母親そのものだ。

 そう言えば、私の作り手と言うのはどのような存在だったのだろうか?

 男か? 女か? 人間か? 妖怪か? はたまた神か?

 まあ、そんなことはどうでもいいが、とりあえず礼を述べるとしよう。

 顔も名前もわからぬ作り手に、こうして長い時を生きた私達からの、最初で最後の礼だ。

 ……さて。それでは短い短い桜の季節を楽しもう。




 どこかの誰かさんのお陰でながーくなった冬がやっと終わり、ようやく桜が咲いた。

 太陽の光が降り、桜の花弁がひらひらと踊るのを眺めつつ、私はいつものようにお酒を飲む。

「春ですよ~♪」

 そう言いながら飛び回っている春告精も、ようやくの春にはしゃぎ回っているようだ。

 ……まあ、今年の春はかなり短いと思うけど。

 ほんとはもっと長かったんだろうけど、幽々子の起こした異変のお陰で冬が春を侵食してたから。今はもう晩春と言ってもいい時期だし………気の毒だけれど、私にはなにもできないわ。

 そう思いながらおちょこを傾け……ふと、春告精と目があった。

 ……そうね。ちょっと飲ませることくらいはしてあげましょう。本人がいらないと言えばそれまでだけど。

 私は目があった春告精に手招きをして呼び寄せた。春告精は素直に寄ってきたので、その手におちょこを持たせてお酒をついであげた。

「それ、飲んでいいわよ」

 私がそう言うと春告精は不思議そうな顔をして、自分の持っている大きな酒杯を指差した。

「そうよ。ご馳走してあげるわ」

 春告精は嬉しそうににっこり笑い、おちょこをくいっと傾けた。

 くぴくぴと体に見合わぬ早さで飲んでいく春告精に、私はなんとなくもう一杯そそいであげた。

 春告精はすぐにその一杯も飲み干して、頬を少し赤くして笑っている。

「あんた、なかなかいけるクチね」

 私は春告精の持つおちょこを一度返してもらい、自分でお酒を注いで飲み干す。それをじっと見つめている春告精に笑いかけて、もう一度注ぎ直してから春告精に手渡した。

 春告精はにこにこと笑いながらおちょこに注がれたお酒を飲み干しては私に催促し、私は一杯飲んだら一杯返すということを繰り返していた。

 いつの間にか春告精は私の隣で気持ち良さそうに眠り、私はそんな春告精の頭を意味もなく撫でながらお酒を飲んでいる。

「……春だから………かしら?」

 こんなに私が宴会以外でお酒を奢る理由は、きっとそれくらいなものだろう。 それを自覚しながら、私はぽかぽかとした春の陽光を浴びて、またゆっくりとお酒を飲んだ。






 私が呼び寄せるまでもなく、霊夢は妖精の娘を呼んだ。

 妖精の娘の名は不明だが、それでも実に美味そうに酒を飲んでいる。それだけで私は十分だ。

 とくとくと小さなこに注がれる酒を、霊夢はぺろりと舐め取る。まるであの、橙と呼ばれていた猫又のようだ。

「……ふう。やっぱり、こうして日を浴びながらのお酒が一番よ」

 霊夢はそう言って小さなこを空に掲げ、中に入っていた酒をくいっと飲み干した。

 どのような飲み方でも構わないが、こうして桜の花弁の散る中での酒も、中々乙なものだと思うが。

 珍しく母親のように妖精の娘の頭を撫で、ポツリと呟いた霊夢に私は、聞こえない思考の中で呟いた。





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