代は移って、博麗の巫女
私が幻想郷に来てからかなりの時間が過ぎて、博麗の巫女も何度も代替わりをした。
現在の博麗の巫女の名前は霊夢。博麗の霊夢と言うらしい。
この娘は巫女になるために生まれてきたんじゃないかと先代に言われてしまうほどに才能に恵まれていたようで、少しの間目を離していただけで凄まじい成長を見せた。
そしてまだ少女と言える頃に博麗の名を受け継ぎ、博麗の巫女となった。
先代の博麗の巫女は苦笑し、霊夢に私のことを教えた。
「美味しいお酒を飲みたくなったら、探してごらん」
とだけ言って、博麗神社から去っていった。
そして、霊夢は迷わず箪笥の右から二番目上から三段目の引き出しに隠されていた私達を見付け出した。所要時間は僅か一分。
「……ふぅん。見た目はただの徳利とおちょこじゃない。こんなので飲んだって変わらないわよ」
………ほう? それは私に対する挑戦か?
なるほど良い度胸だ。ならば根比べといこうではないか。霊夢が私の能力に耐えきるか、それとも私の能力に屈するか。実に面白い。
……さあ、酔うが良い。私の全力で、貴様を最高の酔いに浸らせてくれる。
ぞわり、とそれからなにかが広がり、私は一瞬にしてその力に囚われた。
何でもないように見えたその白い徳利は膨大な神気と妖気を発し、明らかに大きくなった存在感に飲まれてしまいそうになる。
しかしその圧迫感が消えると、今度は無性にお酒が飲みたくなってきた。
今までこんなにお酒を飲みたいと思ったことは無いと言うほどにお酒が飲みたい。あの熱い液体を喉に通し、灼熱する喉とぼんやりと霞がかる思考を楽しみたい。そう思う。
すると持っていた徳利にお酒が入っていることに気が付く。入れた覚えは無いけれど、悪い予感はしないし飲んじゃいましょ。
私は戸を開けて神社の縁側に出る。いつもはお茶なんだけど、今回持っているのはお酒。
……真っ昼間からお酒っていうのはどうかと思ったりもするけど………飲みたいんだし、仕方ないわ。
縁側に座っておちょこにお酒を注ぎ、くいっと飲む。
喉を通り抜け、腹に入るまでは温かったそれが、火がついたかのように熱くなる。
いつもならあまり好きじゃないそれが、今だけはなんでか心地良い。
一口で空になったおちょこにお酒を入れて、また飲む。内側からはお酒で、外からは太陽の光で暖められていると、少しずつ瞼が重くなってくる。
くいっと飲んではまた注ぎ、次の一口までの間は陽光の暖かさを体で受け止める。
「……はぁ………美味ひい……」
ぼんやりと霞がかった頭で、回らなくなってきた舌で呟くと、何でか急激に眠くなってきた。
最後の一杯と思ってお酒を注いで、くいっとそれを飲み干す。
頭が痛くなる事もなく、喉や鼻が痛くなることもなくお酒を飲み干した私は、そのまま縁側に倒れ込むように眠ってしまった。
……ごちそうさま。
……子供相手にやりすぎてしまったかもしれんな。
そう思いながら私は倒れた霊夢に意識を向ける。
倒れる拍子に私のことを引っ掻けて中身をこぼしそうになったが、私がそういったことが無いようにできるようになった術を使ってこぼれないようにした。
中身が空になっている小さなこは、霊夢の手から離れて縁側に転がっている。
こんな成りだがこれでもそれなりに長い年月を過ごした酒器。早々のことでは割れないし欠けない。
もちろん戦闘に巻き込まれれば、永琳の作った箱に入っていない私ではあっという間に壊れてしまうだろうが。
すやすやと眠っている霊夢に意識を向けながら、能力を使う。
二日酔いにならないように。ある程度しっかりと記憶を残すように。そして飯時になる前には起きることができるようにと調節して、酔いを抜く。
………始めの言動は気に入らないが、霊夢の酒の飲み方はなかなか良かった。
できることならば、末長くお付き合いをしてもらいたいものだ。