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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
16/41

猫の娘の、一人酒

 

 妖精達による宴会が終わってすぐに、私はチルノに酔い潰されていた猫又の手に渡ることになった。

 なぜかと言うと、大ちゃんと呼ばれていた妖精があの宴会の空気についていけずに息苦しかったからだとか。

 よってこれはチルノに秘密のまま、その妖精の手で行われた。

 まあ、私はただ何者かに使われて酒を楽しみたいだけなので、使ってくれるのならば文句はない。その点で言えばこの猫又の娘は酒を楽しむことができているので、十分合格点だ。

 酔い方から考えて暴れて私を壊したり、他者に過剰な暴行を働いたりと言う可能性も低いので、永く付き合いをしていきたいものだ。

 ……さて、確かこの娘の好みはマタタビの酒だったな。長い旅の中で一時期妖猫にも使われていたので、そういう酒を出すことも当然できる。

 そして恐らく多少温めの物がいいはずだ。その方が香りが出て酒を楽しむことができると言っていたからな。

 こぽりこぽりとマタタビ酒を湧かせ、少しずつ量を増やして行く。

「……ん? あれ? 私お酒入れたっけ?」

 入れていないぞ、猫又の娘。

 猫又の娘はきょろきょろと辺りを見回してから、こぼしたらもったいないからと言って座り込んだ。恐らくこの場はこの娘にとっては安全地帯なのだろう。

「そ……それじゃあ……いただきまーす」

 そう言って猫又の娘は、私から小さなこに酒を注ぎ、マタタビの臭いを楽しみながら、その中身の酒を一気に飲み干した。


「ぅ~……にゃぁ♪」

 猫又の少女は二杯目を飲み終わった時にはすでに酔っぱらっていて上機嫌だった。今ではもうまともに言葉を話すこともできていない。

「ぅ~、にゃう♪ にゃうにゃうにゃぁ♪」

 とても楽しそうで何よりなのだが、できることなら私と小さなこを振り回すのはやめてもらいたい。早々壊れることが無いとはいえ、絶対ではないのだから。

「ん~♪ んく、んく……にゃはは~♪」

 ………言っても無駄……と言うより、それ以前に伝わってすらいないのだな。

 ……やれやれ。できることならばこの猫又の少女がまだ親と共にいて、その親が良識を持っていることを祈ろうか。

 ……無駄かもしれないがな。


 それから少しの時間が過ぎて、猫又の少女はまるで糸が切れたかのように意識を失った。

 とは言っても顔は真っ赤なままだし、酒気を帯びている事にはかわりない。それだけではなく、私と小さなこを持ったまま眠っていて危なっかしい。

「……ん~♪」

 それでも猫又の少女の顔は嬉しそうに緩んでいて、たまに自分の唇をぺろりと舐め回している。

 よっぽど私の生んだ酒が気に入ったらしいな。喜ばしいことだ。

 ……喜ばしいことなのだが……昨日に続き、家の外で眠ってしまってもいいのだろうか?

 ……む? どうやら誰かが近付いてきているようだが……。

「橙!こんなところに……橙?」

「んにゃ? あー、らんしゃまらぁ~♪」

 近付いてきたのは恐らく狐の妖怪。九つの尾を持っていることと、懐かしい雰囲気から考えると……恐らく、白面金毛九尾の玉藻前だろう。まさかこのようなところで懐かしい顔に再び見えることになろうとは。

「橙。橙!……酔っているのか。……ん? 橙、その手に持っているものは?」

 どうやら玉藻前も私達に気が付いたようで、猫又の娘……橙とやらの手から抜き取った。

「……成程、酔呼の酒器か………また懐かしいものが……どこで手に入れた?」

「んにゃぁ……らんしゃまぁ……♪」

「……今は無理か。やれやれ」

 仕方がなさそうに玉藻の前は呟くが、なぜか少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

 ……それにしても、玉藻前が私達の事を覚えていたとはな。とうに忘れ去られているものだとばかり思っていたよ。

 …………もしや、今までに私を使った者達も、私達の事を覚えていると言うことがあるのだろうか?

 だとすれば、道具としては喜ばしいことだ。

 玉藻前は猫又の少女を優しく背負い、揺らさないようにしながら飛行を始めた。

 ……私達は、次は誰の手に渡ることやら。




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