氷の少女の、初の酒
私を拾った妖精は、その名をチルノと言うらしい。
妖精にしては奇妙に大きな力を持っているようだが、はて、何故なのだろうな?
まあ、そんなことは私にとってはどうでもいいことだ。私にとって重要なことは、私達の所有者が私達を使って酒を飲んでくれるか否か。
だがその点に関して言うと、この妖精はけして良いとは言えない。私達を拾った時の第一声が、これなに? だったことからもそれが伺える。
………まあ、酒の味がわからぬならば、私達がそれを教えてやればいい。上手く行けばまた一人、酔いと酒の虜が増えるやも知れぬ。
それに、この程度の年頃には友も多いだろう。妖精に外見の年齢が通じるとは思わないが、それでも私より年を食っていると言うのはまず無いはずだ。
とにかく、その友と合流してくれれば私の力で宴会を開かせることもできるだろう。
恐らく体の年齢は見た目相応だと思われるので、私が産み出す酒は甘酒でいいだろう。
「チルノちゃーん!」
「あ!大ちゃん!」
おや、早速か。
「くぴくぴくぴ……ぷはーっ!美味しいっ!」
「そ、そんなに?」
大ちゃんが驚いているけど、実際すごく美味しい。初めてのお酒は、どうやらあたいの方が強かったみたいね!
そう思いながら今度は大ちゃんにちっちゃいおちょこを渡して、あたいが大ちゃんにお酒をあげる。
「ち、チルノちゃん!?私は……」
「いいから大ちゃんも飲んでみなってば。美味しいよ? さいきょーのあたいが言うんだからまちがいない!」
あたいがそう言うと、大ちゃんはちょっとだけ困った顔をしてから、仕方ないなぁと呟いて、両手で持ったおちょこの中身を一気に飲み干した。
「お~!大ちゃんもやるわね!あたいも負けないんだから!」
そしてあたいは大ちゃんからおちょこを返してもらって、またいっぱいになるまでお酒をいれてから飲み干した。
「……ひっく。まらまけらいりょ、っく!」
あたいは途中からなんだか上手にしゃべれなくなってきたけど、それでもお酒を飲んでいる。
「ち、チルノちゃん。飲みすぎだよぉ……」
「らいりょーぶ、ひっく。あらい、ひゃいきょー、ひっく、らんらから……ひっく」
ぐるぐる回る。周りが回ってる~♪ ひっく、あははは♪
「もう駄目!今日はこれだけでおしまい!」
そう言って大ちゃんはあたいの手からおちょことたっぷりを取り上げてしまった。……たっぷりじゃなくってとっぷりだったかな?
「たっぷりでもとっぷりでもなくって、とっくりだよチルノちゃん」
……むー……ぎょせぬ……。
「……それって、多分ぎょせぬじゃなくって解せぬだと思うよ? ……ってチルノちゃん? チルノちゃん!?」
あたいはここでぱったりと倒れたはず。大ちゃんの声がした気がしたけれど、あたいはそのまま眠ってしまった。
……甘酒で酔う者は見たことがあるが、甘酒で酔いつぶれる者は初めて見たな。
チルノと言うらしい妖精は、大ちゃんと呼ばれていた妖精に介抱されている。
……うむ。大ちゃんとやらはいい嫁になるだろう。そして恐らく、いい母になるだろう。
初の飲酒でつぶれてしまったチルノだが、明日になればけろっとしているだろう。そうなるように酔わせたのだから当然なのだが、二日酔いと言うことにはならないはずだ。
そして恐らくこの少女達は、酒のことが少しは好きになっているはずだ。甘酒は大して強くはないし、少しだけならばいつでも飲める。
これからもよろしく頼むぞ? 小さな酒呑みの卵たちよ。