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東方酔呼伝  作者: 真暇 日間
本編
13/41

花に連れられ、幻想の郷

 

 風見幽香に連れられ数百年、様々な場所を回った。

 例えばある時は夢幻世界とやらに住み着いて蜂蜜酒を飲み、ある時は名も知らない町で蜂蜜酒を飲み、ある時は新たに出来上がったばかりの国の都市で蜂蜜酒を飲み、たまに残っていた妖怪や神と戦い、そして蜂蜜酒を飲んだ。

 風見幽香は戦うことが好きらしい。それと同時に、相手を苛めることが太陽を浴びることと同程度に好きらしい。

 そして戦いやちょっと苛めた後の体の火照りを誤魔化すために飲む蜂蜜酒はもっと好きらしい。

 理由はどうあれ、私たちを使って酒を飲んでくれるのは良いことではある。風見幽香は大抵の場合花見酒だが、それならそれで一向に構わない。

 さあ、私は今日も酔いを呼ぼう。風見幽香という私達の所有者のために。





 血の色をした花が咲く。いくつもいくつも咲いている。

 私と戦った多くの者の、屍の上に、一つずつ。

 苦悶の表情を浮かべた顔の上に一つ。

 穴の空いた胸を押さえている手の上に一つ。

 私の育てた食肉植物の上に一つ。

 千切れ飛び、表情のわからない体の上に一つ。

 私は、花を見ながら酒を飲む。

 甘い甘い蜂蜜酒の香りと、乾ききった鉄の香りが混じりあって、とても良い香りが私の鼻をくすぐる。

「ああ、良い香り」

 そして私はいつも通り、少しだけ杯を傾けて舐めるようにして酒を飲む。

 ……けれど、そろそろ私も行きましょうか。気に食わないけれど、それでも消えるよりはいい。

 夢と幻の世界から出て、失われつつある幻想の集う地に降り立った。

 そこはちょうど良く見晴らしの良い岡の上。きっとここなら私の好きなあの花達も、きれいなその姿を見せてくれるわよね?

 私はそう思う自分を笑いながら、ゆっくりと能力を使い始めた。


 出来上がったその花畑は、まるでいくつもの太陽があるかのよう。

 その出来に嬉しくなった私は、片手に傘を、もう片手に蜂蜜酒の入った徳利と杯を持って、まるで踊っているかのようにくるくると花畑の上を回りながら飛んでしまった。

 そしてしばらくそうして飛び回ってから、片手に持った杯にあった蜂蜜酒を、一気に飲み干した。



 太陽の光の下で金色に輝く花の群。それらを下に見ながら風見幽香は蜂蜜酒を飲んでいる。

 いつもより格段に早く、いつもより格段に多く、風見幽香は私の中の蜂蜜酒をその身におさめて行く。

 風見幽香にとって、この景色はかなり素晴らしいものであるらしい。

 ……確かにこれは美しい。恐らくこれならば昼だけではなく、夜でも楽しむことができるだろう。

 これほど美しいのだから、他に妖怪でも現れて風見幽香と交遊関係でも築いてはくれないだろうか。

 ……まあ、無理なら無理でも構わないが。


 そう思いながら風見幽香と暮らしていたとある日のこと。風見幽香がいつものように少し酔ったまま眠りについてからしばらくして、私は不思議な体験をする。

 急に周囲が静かになり、風見幽香と私達以外には誰もいないはずのこの場所に気配がする。

 風見幽香は深く眠っていて気付いていないようだが……と考えたところで、何者かが私達を持ち上げた。

 何を話しているのかはいまだにわからないが、どうやらこれで風見幽香とも暫しの別れを体験することになるらしい。

 ……私達がいなくとも、風見幽香が荒れないかが心配ではあるが……。


 そして私は光の三妖精によって風見幽香から盗み出されることになったのだった。

 しかし、なぜか凄まじく焦ったような表情の妖精達は、途中で私達のことを放り出してしまった。いったい何がしたかったのだろうな?


 そして私は、また拾われた。小さな氷の妖精に。





「……ふ……ふふふふふふ……」

 風見幽香は激怒した。なんの事はない、ただ大事にしていた酒器を何者かに盗まれて機嫌が悪いだけだ。

 ただ、その機嫌の悪さは天井知らず。そして盗んだ相手に対する悪印象も天井知らずだ。

「ふふふふ……あははははは、あーっはっはっはっはっは!」

 見事な悪役笑いと共に、どろどろとした妖力が辺りに放出される。それでも花には全く害を与えていない辺り、流石は花妖怪と言うべきだろうか。

「……はははは……ふぅ…………とりあえず、身の程知らずを見付け出して苛めましょうか」

 風見幽香はにっこりと笑って、まだ見ぬ誰かに殺意を向けた。




「ひぃっ!? こ、ころされちゃうぅっ!?」

 その瞬間、光の三妖精が揃って盗み出したばかりの酒器を放り出した。




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