造られ一時、鬼の家
誰も考えてないですよねこんなバカなこと。
……あ、それと今書いているオリジナルが優先ですので、こちらの更新はとてもとてもゆっくりになることでしょう。
……私は、気付けば売りに出されていた。私と共に小さなこも売りに出されていたが、私はなにもせずにそこに立っていた。
しばらくして、一人の何かが私を見付け、気に入ったと買っていった。私は小さなこと共に何かに抱えられていた。
何かはどこかに私を置いて、またどこかへと歩いていった。
……またしばらくして、何かは少量の酒を手に私のもとへとやってきた。
そして私の口から酒を流し込み、溢れるほどまで入れても余った残りを私と共に居た小さなこに注いだ。
何かはなにかを言いながら私たちを使い、酒を飲む。
私はただの徳利で、小さなこはただの猪口。そう使うのは当然。
私はなにも思わず、それを眺めた。
ある時、ふと人間の里に降りて見た。つい最近までもっと不便だったこの里は、どんどんとその規模を大きくして行っている。
そんな中、ふと店を覗くとそこに、飾り気のない一組の小さな酒器があった。
それよりもずっと美しいと思える酒器を見たこともあるはずなのだが、それはなぜか私の意識の奥にまでその存在を叩き込んできた。
懐には襲った人間から奪った金銭がある。この酒器を買うには十分すぎる額がある。
私はその酒器を迷うことなく手にした。
その酒器を初めて使おうと言う時、私は柄にもなく緊張していた。
わざわざその為だけに住処の奥にしまっておいた一番美味い酒を注ぎ、僅かに余ったそれも猪口に注いだ。
震える手を意識して抑えながら、酒を口にする。
…………それはなぜか、以前飲んだそれよりも甘く、以前飲んだそれよりも深く、以前飲んだそれとは段違いに美味かった。
「……ああ、美味い」
私はそう呟き、徳利の中の酒を猪口に注いで再びゆっくりと飲み干した。
……おや? なぜか、妙に酒の回りが早いねぇ?
何かは酒がなくなればどこかに行き、また酒を調達してくる。そしてそれをわざわざ私に注ぎ、毎回少量をちびちびと舐めるように飲んではどこかを見つめていた。
何かは私と小さなこを大切に使っているらしい。何かのいるここは私たち以外になにもないのでそう見えるだけかもしれないが、と何かが連れてきた他の何かが言っていた。何かはなにも言わずに私たちを使って酒を飲んでいる。
私はこの酒器を使い初めてから、あまり酒を飲まなくなった。それと言うのもこの酒器を使うと、なぜか酒が美味くなり、そして気持ち良く酔うことができるからだ。
そんな私を見て、回りの奴等は騒いだ。私は今までいつでもどこでもどんな時も酒を飲んでいたのに、急にそれが一切無くなったのだ。騒ぐのはわかる。
しかし、だからと言って男が出来ただのなんだのと言うのはおかしいだろう。
しかし、古い友はそれを聞かずに私の住処にやって来る。
……まあ、住処では昔のままの私だと見せればいなくなるだろう。
私はそう思いながら、どんちゃん騒ぎをしている友を尻目にいつもの酒器で酒を飲んでいた。