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勇者と死神  作者: pumpkin
1/2

ありふれた勇者と可笑しな死神

寂しがり屋の悪魔は意地悪な人間に拾われました。

寂しがり屋の悪魔は意地悪な人間に友達の作り方を教わりました。

寂しがり屋の悪魔は一生懸命頑張りました。

けれどできたのは、悲鳴と慟哭の雨と冷たい瞳、そして自分を倒すべく立ちあがった勇者でした。


少しグロい描写があります。ご注意ください。

もう少しだ。

もう少しで全てが変わる!


仲間達の顔も喜色に満ちていた。


そう

もう少しでこの国は狂った軍人どもからの独裁から抜け出せるのだ!


俺たちの手で!


「観念しやがれ!勇者様のお通りだぁ!」


剛健で力強い声と共に俺の肩を叩くのは仲間の一人、ディン。

俺と目が合うと頼もしく笑いかけてきたのは、仲間のなかでも随一の美貌の青年

アラン。

他の五人の仲間も俺を見て同時に頷く。

俺たちは完璧に調和しているのを感じた。


立ち向かってくる愚兵を一掃しつつ、先に続く長い階段を減速もせずに上り続け

る。

国民から搾り取った金で作った調度品を、無慈悲な大臣達を、狡猾な悪女達を俺

たちによって消され、この国は今まさに生まれ変わろうとしているのだ。


そしてついに眼前に大きな扉が現われた。

俺は躊躇う事無く扉を開け放つ!!


そこには……


アイツが、いた。


「HELLO!ナイスてぅーミーてぅー、ナァんてナァ。不法侵入者二言うコトバジャ

ネぇかぁ。随分とマァ暴れタねぇ。人様の領地をここまで荒スたぁ正義ツーのは

一体ナンなのか直々二ィ聞きたイヨ。な、勇者様様様っと」


相変わらず人を小馬鹿にしたような調子こいた金属音のような声と、怯えるよう

に長いロッドを抱き締めている態度が不釣り合いの死神。

天窓の豪奢なステンドグラスと黒一色の味気ない服を纏いながらも、赤や青のペ

イントを施したの道化の仮面をかぶった奴は、場違いなほど対照的で、なぜか俺

の胸が痛んだ。


「おヤぁまァこりゃぁホントっに久イぃイィィいいねエェェ勇者サぁま。大ッき

イクなっタモンだぁナァ?救われェタぁ命ヲ無駄にスルたァ、何ともモッタイない

ネェ。ソンなに死にタいのカアあい?」


一対八。


俺たちを目の前にしても奴の声は震えるどころか機嫌良さげに高笑いをする。6

年前俺の村を一夜にして消した時と全く変わらない狂気。

そしてこの威圧感。

おどけた言葉とは裏腹にそこら辺の騎士達とは比べものにならない殺気を奴から

感じる。

愛する人を眼前で殺されても、ここまで黒い気を出せる人はまずいないだろう。


「・・・・・アレス」


仲間の誰かが呟いた。


……まずい


アレスの迫力に皆が押され始めている。

誰も武器を構え切れてさえいない。


「俺たちがここにきた理由はわかっているだろうアレス!?俺たちはお前を倒し、

国民を解放させにきた!人々の命を最も食らったお前は、万死に値する!」


俺の宣言に我に返った面々がそれぞれの得物を構えたのを横目で確認しながら、

俺は聖剣を掲げた。


その時


「ねぇ・・・・・アレス」


緊迫した雰囲気のなか、どこからともなくか細い少女の声がした気がした。


「……ンだァ、トト。俺にナンかケチ付けンノ?心配するコとナンてア

リャシねぇよ。」


級友に話し掛けるように、アレスがあらぬ方向をむいて呟いた。


「・・・アレス・・・。もう・・・・・アレスに殺し、なんてしてほしくないで

す・・・・・・どうしてもダメ、なんですか?」


少女が泣きだしそうな声色で言った。

誰だ、どこで喋っている?

俺は振り返って仲間達を見たが、皆首を傾げて見返してくるばかりだ。


「・・・何言っテンだ。・・・無理に決まってンダロゥ?俺ハ、アレスだ。だから

・・・・アレスが殺すンだ。お前ハ・・・オ前は何もしてナイ。」


「・・・アレス・・・私は「サァ、始めよッッカァアァア勇者ぁ様!アレスを、俺

ヲ壊しテ裂いて地に付け殺シテ吊し、晒して笑って砕いて潰して豚ノ餌にしタイ

んだロォ?」


少女の声をかき消すようにアレスが叫ぶ。

全てを振り切り、何かを庇おうとする、そんな声だった。

アレスが両手を掲げる。

少女の声は、もうどこからも聞こえない。


「どうシタ?早く殺しにコイよ。行っちゃうよ?アレスたん突っ込んジャウよ?」


「・・・エッジ・・・・」


アランが俺に呼び掛ける。


「本当にアレが黒幕・・なんです・・・か?」


俺は答えに詰まる。

だがすぐに我に返り、キッとアランを睨む。


「何言ってるんだ!あいつに俺の妹も、お前の両親も、俺たちの目の前で殺された

のを忘れたのか!俺たちは奴に復讐すると誓い、ここまでやってきたんだろ!」


だが俺の言葉に、彼は首を振った。


「エッジ。私は、絶対に自己満足で人を殺したくないのです。どんなに血塗られ

た人でも、脅され、操られていただけなら、それを操っていた黒幕こそ私たちの

敵。そうでしょう?」


「・・・・アラン」


全員が戸惑いを隠せない瞳で互いを見つめる。

しかし、それは死神に背を向けるという、最悪の結果をもたらした。


「あくまで私たちは救世主です。どんな悪であってもわたじぃうぐぁあぁぎぃあ

あ!?」


瞬きをした瞬間、アランの首が、消し飛んだ。


思考が停止する


なぜ?という言葉が頭を旋回しつづけるのを止めたのは、金属音のような耳障り

な哄笑。


「オぉオおォォ・・・優しイお兄サン?哀れな僕らを助けてクレるのカイ?」


誇りを踏み潰された絶望の表情のまま固まった彼の美しい顔と立ち代わりに、ア

レスの白い仮面が俺たちに迫り鎌を掲げる!!


「散らばれ!奴を囲み背を狙え!焦るな慌てるな!」


「サぁさァ皆様!素敵なショーの始まりダ!誰が何ヲ何の為二どうヤッテ捨て裂キ

殺し守り助けルカ!そこのお嬢さん、分かるかい!?なぁナァなァなあアあぁ!」


「リーリア!!!」


魔導師リーリアの真っ正面に奴の鎌が迫る。


「ひっ・・・・・・」

後衛の彼女は硬直することしかできない。

だが、これ以上の犠牲者なぞ出ない。

俺が出さない!


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