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第二話

眠りから覚めると遥香は目覚まし時計の方を見た。今日はうるさくなっていない。彼女が風邪ということを見越して母が昨晩か今朝消しといてくれたのだろう。短い針は十を指す。彼女は体を起こすとあくびをして、枕元の携帯を手に取った。友達からの通知は当然無く、すぐに消してそのまま毛布を被り目を閉じた。時々起きて喉が渇いたら水を飲みに下に降りる。その繰り返しで一日が過ぎて行った。二度目に彼女が携帯を確認した時はちょうど下校時刻から二十分経っていた。すると図ったようにピンポーンとトアベルが遥香の部屋まで鳴り響いた。

「んん…」

日中母親が仕事で一人で留守番をしていた病人は喉を鳴らすと部屋を出て階段を降り、玄関のドアを開けた。

「遥香ちゃん、大丈夫だった?ちゃんと食べてる?」

そこに立っていたのは村田だった。驚いた遥香は少し後ろへ下がると何処かへ走り去り、マスクを付けて戻ってきた。

「ゆ、優くん…!」

「今日のノートと宿題。」

そう言って村田は彼のまとめたノートと授業プリント、そして宿題の課題が書かれた紙を遥香に手提げごと手渡した。村田は一度立ち止まり、少し考え込んだ後、遥香の方を見て言った。

「…上がってもいい?」

遥香は一瞬驚きながらも、すぐにうなずく。

「うん、どうぞ…。」

村田は靴を脱いで、家に上がり込んだ。彼が持ってきたのは、温かいおかゆが入ったタッパー。どうやら母親が作ってくれたらしい。村田はそれを遥香に手渡しながら、少し照れくさそうに言った。

「これ、食べた方がいいと思って…まだ熱いから気をつけてね。」

遥香はそのおかゆを受け取ると、少し照れくさい笑顔を浮かべた。

「ありがとう、優くん。」

「遥香ちゃんに元気になって欲しいし。」

村田は真剣な顔で言った。遥香が少し驚いた顔をするのを見て、慌てて付け加えた。

「いやほら、君の友達とか先生も心配してくれてるからさ!」

「うん。これ食べて頑張って元気になるよ。」

にっこりと村田に笑みを見せると彼も遥香に笑顔を見せた。二人はクスッと笑い、村田は玄関に戻り靴を履いた。

「優くん、お母さんにもありがとう言っといてくれる?」

「うん。遥香ちゃんのお母さんにもよろしくね。」

「うん…」

それぞれ短い別れをしてから村田はドアを出て行った。ガチャンとドアが閉まると遥香は台所からスプーンを取り出し、村田の持ってきたおかゆを食べ始めた。遥香はおかゆを口に運びながら、村田のことを考えていた。彼の優しさに、なんだか胸が温かくなった。こんな風に、村田が自分のことを気遣ってくれるなんてちょっと恥ずかしくて、でも嬉しい気持ちでいっぱいだった。

「優くん、ほんとに…」

遥香は小さく呟くと、もう一口おかゆを食べた。食べるたびに体がじんわりと温かくなるのを感じながら、静かな部屋の中で、ふと思い出す。神社でお願いしたこと、そしてそれが叶ったのか、叶わなかったのか。食事を終えた後、遥香は静かに台所に向かい、湯飲みにお茶を注いで一息ついた。体調はまだ完全ではないけれど、こうして少しずつ回復していけると思うと、ほんの少し安心感が湧いてくる。

「これで少しは楽になるかな…」

遥香は一人で呟きながら、ぬるめのお茶を飲み干した。お風呂上がりの軽い疲れと心地よい温かさに包まれながら、遥香はもう一度布団に戻り、目を閉じた。明日また学校に行くことを考えたけれど、それよりも、今はただゆっくりと体を休めることが大切だと感じた。

「明日は、きっと元気になってる。」

そう言いながら、遥香は深く息を吐き、心地よい眠りに落ちていった。

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