#06 窮鼠
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メタボ巨人との睨み合い。お互い、相手がどう出るのかを見極める。
わたし達に退路は無い。未来は二つに一つ。コイツをここで殺るか、わたし達が殺られるかだ。
「やるぞ、京!」
「ああ」
発砲。メタボ巨人の豊満な肉体に痛い散弾の雨をぶっ食らわせてやる。
メタボ巨人は散弾が効いているのか遮蔽物や柱でわたし達との射線を切るように機動。と同時にその辺にある機材などをむんずと掴み、こちらに投げつけてきた。
「うおっ、危ねえ!」
狙いはわたしだった。咄嗟に身をかがめて回避。その直後に放り投げられた機材が頭上を通過し、後方でガチャンと大きな音を立てて着弾する。
しかし、メタボ巨人の攻撃手段は物を放り投げてくる程度で、それもこちらとの射線を切りながらであまり激しくない。
――いいぞ。コイツ、防戦一方で積極的に攻撃してこない。
あの図体と咆哮にはビビったが、これでは拍子抜けだ。
わたし達はジリジリとメタボ巨人を追い詰めていた。巨人は撃たれる毎に戦線を下げたため遂に背中が壁に衝突し、それ以上撤退できなくなる。
――追い詰めた! あとはトドメを刺すだけ。
だが、と、わたしは思う。
コイツ、いつになったら死ぬんだ? もうかなり撃ち込んだぞ。メタボ巨人の肉体はもうズタボロで、出血も相当だろう。だが一向に倒れる気配が無い。はやいとこ死んでくれないとこっちの弾が尽きる。
などと考えているうちに、とうとう最後の一発となってしまった。
「クソ、弾切れだ」
と、利人が言う。
「わたしも、今ので最後だ」
これはマズいぞ。メタボ巨人はまたこちらの銃を警戒しているようで慎重になっているが、こちらの攻撃手段が無くなったのを悟るのは時間の問題だろう。
「京、ひとまず銃を構えたままゆっくり下がろう」
「了か――お、おい、なんだよそれ……」
なんと、メタボ巨人の肉体から白い湯気のようなものがあがり、ダメージが見る見るうちに回復しているではないか。
それからメタボ巨人が大きく息を吸う動作を見せる。
「何をする気だ……?」
メタボ巨人、咆哮。が、今回はただ叫んだだけじゃない。衝撃波のおまけ付きだ。突然の反撃に、わたしたちは後方に吹き飛ばされてしまった。
「いってぇ……」
食材の山に突っ込んでしまったようだ。堅い野菜が何個もドリフの盥の如く頭に落ちてくる。
「京、逃げろ!」
利人の警告。目の前にメタボ巨人の巨大な拳が迫っていた。
わたしは咄嗟に斜め前方に飛び込み、拳を回避した。が、すぐに裏拳が飛んできて横腹を強打する。
腹部への強い衝撃で咳き込み、一瞬呼吸ができなくなる。ステータス・ウィンドウを見ると腹部が緑色から黄色に変わり、〈CAUTION〉と表示されている。
――畜生。さっきと違ってずいぶんアグレッシブじゃねえか。散弾が美味くて興奮したか、ええ?
しかし、どうしたものか。いまメタボ巨人は利人にターゲットを変更し、執拗に殴りかかっている。あいつはそれをうまいこと躱しているようだが、いつまで持つか……。なにか攻撃手段がないものか。
と、そのとき、わたしはあることを思い出した。
そういえばステータスの右側ウィンドウ、〈魔法〉の欄に〈風弾Ⅰ〉ってあったよな。あれ、使えるんじゃないか? 魔法、というものがいまいちよく分かっていないのでこれは賭けになるが。
――やってみるか。
ステータス・ウィンドウを開き、〈魔法〉欄、〈風弾Ⅰ〉に意識をフォーカスする。すると魔法が発動……ではなく、それの説明が記されたサブウィンドウが出た。
〈風弾:風属性の初級魔法の一つ。前方に風属性の弾を発射する。〉
読んで字の如くだった。使い方の説明は無し。なら〈魔法〉にフォーカスしたらどうか。
〈MPを消費して発動される。発動には該当の魔法を所有している必要があり、所有済魔法は術式を構築することで発動することが出来る。〉
――術式? なんだそれは。どうやって構築するんだ。
などと考えているうちに利人が被弾したようで、こちらに吹っ飛んできた。
「大丈夫か!?」
「ああ、なんとか……。死んではない」
メタボ巨人がこっちに向かってくる。勝ちを確信したのか、悠々とした歩行で。
――ええい、どうにでもなれ!
今までの奴はすべて意識をフォーカスすることで発動した。ならばたぶんこれもそのやり方でイケるだろう。ステータス・ウィンドウを閉じ、〈風弾Ⅰ〉を意識しながら術式構築、術式展開などと強く念じてみる。
すると、突然目の前に訳の分からない文字列が現れ、それが輪を成しよく見るような中二病臭い魔法陣を形成していった。それからなんとなく〈撃てる〉という感覚が湧く。
――よく分からんが、なんかイケそうだ。
魔法陣の向きはわたしの意志で変えることができた。わたしはそれを迫り来るメタボ巨人に向け、発射と念じる。と、魔法陣が発行し、竜巻を凝縮したような弾が発射された。
――成功だ!
勢いよく飛び出た風弾は真っ直ぐメタボ巨人に向かって飛翔し、命中して巨人の肉体を削った。
メタボ巨人にとってはこれが思わぬ反撃だったのか、散弾を喰らったときよりも大袈裟に痛がってみせた。そこへ立て続けに二発、三発と風弾を撃ち込んでいく。また同時にステータスを確認。〈MP〉の数値と紫ゲージが撃つ毎に減っていくのが分かる。一発当たり5消費しているようだ。
「お、おい京。それ、どうやったんだ……?」
「ステータスの〈魔法〉欄に〈炎弾Ⅰ〉あるだろ。そいつ意識しながら術式構築とか展開って念じろ」
「術……WHAT!?」
「炎弾意識、術式念じる!」
利人の保有魔法はわたしと異なり〈炎弾Ⅰ〉というものだった。風が火に変わっただけだが、この違いはなんなのだろうか。
まあ、それよりも今は攻撃に集中だ。MPにはまだ余裕があるし、利人も術式の構築に成功したようだ。わたしの風弾と利人の炎弾の速射でメタボ巨人は再度防戦に徹せざるを得なくなった。
最終的に、わたしのMPを三分の一ほど消費したところでメタボ巨人は力尽きたのか倒れ、動かなくなった。さっきのような回復もしていない。
「死んだ……のか?」
そっと近づき、ショットガンの先でチョンチョンとつついてみる。が、やはり反応は反応は無かった。モールス信号のような電子音と共にレベルアップやスキルレベルアップなどのログが視界の端に見える。
「ん? なんだ、これ」
死んだメタボ巨人の脇に、金色に輝くコインが数枚落ちているのをわたしは認めた。その場にしゃがみ、拾い上げ観察してみる。
大きさは直径一インチほど。表裏にそれぞれ模様が刻まれていた。
「なんだそれ。金貨?」
と、利人が横から覗き込んでくる。
「金にしては軽い。たぶんコイツが――」
落としたんだろう、そう言いかけたそのときだった。突然背後に明らかに異常なものの気配を感じた。
――新手か!?
そう思い、咄嗟に首をぐりんと回して後ろを見やる。と、そこには怪しげな彫刻が刻まれた〈トビラ〉が立っていた。
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