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#11 Hells Angel

 突如として景色が一変したのち、わたしはUCLAの構内に立っていた。隣を見ると、利人もまた、わたしと同様に、呆然と戸惑ったように佇んでいる。イリーナの姿は見えない。

 

 ――なにが起こった!?

 

 ライフルやシールドやブレード、それにアーケイン・スラスタは装備したままだ。武装解除はされていない。

 

「この感じ……まさか、レミエルか!?」

 

 UCバークレーで遭遇したあの魔物のことをわたしが思い出したその瞬間、答え合わせのように、奴が上空から降臨した。

 

 だが、あのときとは姿が大幅に変わっている。前は(いびつ)な、聖書の記述をそのまま絵に描いた天使のような姿をしていた。

 

 いまは違う。

 

 人型で、スキンヘッドの頭部があり、そこには一対の目と一つの鼻、それと一つの口がヒト科と同じように配置されている。筋骨隆々の、光の筋が浮かび上がった上半身を大胆に露出させた純白のトゥニカを着用し、右手には七支刀のように複雑な構造の剣、左手には長弓を持ち、背中には二対の、骨格だけの真っ黒い翼が生えていた。

 

 見た目だけでは、目の前のコイツがレミエルだと断じるには少々自信がない。だが、確かに感じるこのプレッシャーは、間違いなく、奴のものだ。

 

「来るぞ!」

 

 奴が右手の剣を天にかざした。陽光が存分に剣に注がれ、光り輝く。それから、それをわたし達に向けて振るった。剣そのものは、ただ、空を斬ったに過ぎない。が、剣に纏わり付く光が、それ単体で刃と化し、宙を飛んでわたし達に斬りかかってきた。

 

 恐ろしく速い、空を飛ぶ斬撃だった。認識があとわずかでも遅れていたら、防御も回避もできず斬られていたに違いない。

 

 わたしがすんでの所で斬撃を躱したところに、今度は左手に持った長弓を引き、無数の光の矢を放ってきた。それらは対象をしっかりと補足しているようで、執拗に追尾してくる。

 

 ――ええい、面倒な!

 

 機動による回避は諦め、めいっぱい加速し、わたしは魔物の密集しているところに強引に飛び込んだ。超高速で飛ぶ矢は魔物の群れまでは回避しきれず、次次と魔物を射落としていった。

 

 魔物、または撃墜し爆発する魔物の爆煙に身を隠しながら、レミエルの背後にまわる。奴はその場からあまり動いていない。それだけ奴は、自身の防御力に自信があるのだろう。実際、先ほど利人のショットライフルが奴のAMフィールドに弾かれているのを、わたしは横目に見た。

 

 ならば、接近して至近距離からパンツァーファウストをぶち込んでやる――そう思いつつ、あと少しで奴の背後がとれる。フリーの左手にパンツァーファウストを構え、狙いを付ける。

 

 ――もらった!

 

 完全に奴の姿を捉えたと思った。引き金を引き、確かに弾頭が発射された。が、弾頭は想定よりもはるかに近くで炸裂した。

 

「なんだ!?」

 

 爆煙が晴れる。そこには、見覚えのある正八角形のパネルが立ち塞がっていた。爆発をもろに喰らったはずなのに、傷一つついていない。さらにもう五枚のパネルがどこからともなく現れ、わたしを取り囲んだ。

 

 ――そういえば、いつの間にか景色も変わっている。ここは、UCバークレーか。可視異域と化す前の。

 

 パネルが正八角形からパラボラ状に変化し、一斉に拡散ビームを放ってくる。わたしは急上昇して包囲を抜け、ビームの弾幕を回避していく。

 

 そのとき、わたしは見た。

 

 テッセラクトに身を包んだ、巨大な頭部を持った赤ん坊の魔物――六枚のパネルの持ち主が、下方から突き上げてきた。そいつは高度を上げるごとに成長していき、遂には濃い紫色の甲冑に身を包んだ巨人へと変貌した。

 

 ――出てこなければ、二度も敗北を味わわずに済んだものを!

 

 奴の胸部アーマー・プレートが展開し、五門の砲が姿を現した。そのすべてをわたしに指向し、一斉発射。さらにビームがパネルにぶつかり、反射して不規則に拡散して地面を焼き払っていく。

 

 思考している暇は無い。少しでも考えようとした途端に足が止まり、ビームの餌食になる。全神経を集中させ、反射的に掻い潜る。右に、左に、上に、下に、縦横無尽に飛び抜け、時にはシールドで弾き、または全身を使ってぐっと身体を捻り、紙一重で回避する。

 

 背中のアーケイン・スラスタが唸り声を上げる。瞬間的な急加速や急減速を繰り返したのだ、無理もない。だが、まだこの程度で音を上げてもらっては困る。

 

 スラスタの全リミッタを解除。圧縮エーテル流入量を増やし、噴射口を広げ、超加速。対G結界が展開されているにも関わらず、強烈なGが全身にかかる。急上昇し、一気にビームの射界から離脱。

 出力最大のライフルでパネルを撃墜。そのまま奴の砲門にもビームをぶち込んでやった。そこから大規模な誘爆が発生。奴は爆発四散した。

 

 ――奴は、レミエルはどこだ!?

 

 今の戦闘で、だいぶ遠くまで来てしまった。残推進剤もあと半分を切っている。はやいとこケリをつけて行かねば、途中で飛べなくなって真っ逆さまだ。

 

 などと考えていた、そのときだった。突如として空間が割れ、元いたモニュメントバレーが向こう側に見えた。向こう側から、現象の草の洞穴で遭遇した〈侵入者〉が、再びお目見えになった。が、驚いたことに、やって来たのは侵入者だけではなかった。侵入者の後ろに続いて、イリーナもこの世界に入ってきたのだ。

 

「イリーナ!? なんでここに」

 

「あなた達が消えたと思ったら、こいつが案内してくれたのよ。――詳しい話は後。いまはレミエルを」

 

 イリーナのレーダーなら、レミエルも補足することができる。それをわたしと侵入者に共有し、わたし達はイリーナを戦闘に編隊を即席で組み、レミエルの方に急行する。

 

「いた。あそこだ!」

 

 前方、五○○メートル先。利人がやり合っている。

 

「推進剤が心許ない。あとは頼む」

 

 そういって利人が退き、後退でわたしと侵入者が前に出る。イリーナも、利人のプロペラント・タンクを交換してから戦闘に参加する。

 

 レミエルが弓矢で応戦。無数の矢が正面から向かってくる。が、侵入者が空間を割り、矢がすべてそこに吸い込まれていった。そこから例の大槌を取り出し、肉薄してレミエルに殴りかかる。

 

 レミエルの七支刀と侵入者の大槌が火花を散らしてぶつかり、空間が揺らぐ。至る所に割れ目ができ、向こう側にモニュメントバレーの赤い大地が覗く。

 

 ――これ、わたし達が出る幕あるのか?

 

 補給を受けた利人がイリーナと共に戻ってきた。が、目の前に広がる光景は、誰がどう見てもレミエルと侵入者の熱い一対一だ。

 

 そもそも、なぜ侵入者がわたし達に味方し、レミエルと敵対しているのか、皆目見当も付かない。不可知空洞で遭遇したときは殺す気で襲ってきたというのに。

 

 そういえば、こんなことが前にも一度、あった。初めて不可知空洞に潜った帰りに遭遇した、赤い狂戦士(ベルセルクル)。あいつも、一度はわたし達に襲いかかって来、次には回復魔法をかけてどこかにいってしまった。

 

 侵入者と赤い狂戦士、こいつらには何か関係があるのか?

 

「マズいぞ、空間が崩壊する。急いで脱出するんだ!」

 

 と、利人が警告して言う。

 

 見ると、侵入者も独自の領域の生成を始めていた。双方の領域が激しくぶつかり合い、安定感を失っていく。

 

「割れ目に飛び込め!」

 

 このままここにいては、亜空間に一生閉じ込められるかもしれない。もしくは存在ごと抹消か。いずれにしても、ここに留まるのは危険だ。わたし達はそう判断し、空間の割れ目に全速力で飛び込んだ。

 

「戻ってきたか……」

 

 わたし達が出た直後、多数あった割れ目が一つ残らず消えてしまった。対消滅したのだろう、きっと。

 

 レミエルとの再戦と思いきや、なんとも腑に落ちない結果だ。が、今の目的はレミエルとの決着をつけることじゃない。強制的に別空間に飛ばされたから相手をしただけで、そうでなければ無視がベストだった。

 

「風車までは?」

 

 と、わたし。

 

「あと五○○○メートル」

 

「あと少しだな。急ごう」

お読みいただきありがとうございます。


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