#10 風車をねらえ!
真に勝手ながら、次回から不定期投稿になります。
ご容赦ください。
ヘリのドアを開け、降下。アーケイン・スラスタ出力、最大。一気に加速。HMDの速度計がみるみる上昇していく。速度が時速一八○キロを突破したところで一つ目のセーフティ結界、エアロ・ヴェイルが自動展開。空気抵抗と摩擦熱などからわたしを保護する。
前方に多数、いや、無数の魔物の影。最も近い何体かがメルキオールによって自動でロック・オン――ボックスで囲まれてHMD上に表示される。敵の種類は、エアロ・ヴァルチャーやグリフォン・ナイト、ハルピュイアなどなど多種多様。それらが一斉にわたし達の存在に気が付き、濁流のように押し寄せてくる。
「わたしとお前で血路を開くぞ」
「了解」
ライフルを構え、射撃。照射モードで敵の群れを薙ぎ払う。真紅に輝く魔法のビームが魔物の塊を斬り裂き、多数の爆煙をあげる。いまのでざっと二十体はやれたか。
間髪入れずに利人がバズーカを掃射。極太の黄色いビームが魔物たちを貪欲に呑み込んでいく。
――いい調子だ。このまま風車まで……。
そう思ったそのときだった。
「京、前!」
前方から電気を帯びた青白いブレスが迫ってくる。わたしは咄嗟にブレイク。右下方にダイブして回避した。
「ストーム・ワイバーンか!」
見ると、背中にグリフォン・ナイトを乗せている。その姿はまさに竜騎兵と呼ぶに相応しい。あれが味方だったら、さぞ頼もしかっただろう。
が、奴は敵だ。敵は、撃墜するのみ。
「墜ちろ!」
ワイバーンの腹部を狙って射撃。とほぼ同時に利人もショットライフルを撃っていたようで、斜め前と下方からの挟撃でワイバーンとグリフォン・ナイトはあえなく爆散した。
「たった三人の殴り込み部隊か……」
ホテルの地下シェルターで、チャールズが戦況図を見ながら呟く。
「他のところはもっと人手を確保できたんだがな……」
「無理もありません。カリフォルニアやあの辺りは、最も魔物の被害が甚大でしたから。ですが、その分あの魔境で戦い抜いてきた彼らの実力は相当のものです」
「そうだな。――頼んだぞ、三人とも」
ビーム掃射で薙ぎ払い、それでも接近してきた奴をブレードで斬り伏せ、シールドで叩き落として進んでいく。出撃からおよそ一分が経過したいま、風車まではあと約四○キロ。魔物の数は依然として四桁万体いる。もっとも、その全てを倒す必要は無いし、それらすべてがわたし達の進路上にいるわけでもない。しかし、それでも行く先には万を超える魔物が見える。
そのとき、上方から何かが超高速で突っ込んでくるのが、アーケイン・スラスタのアラートによって分かった。イリーナだ。超音速で魔物の群れに突っ込み、大推力と強力な射撃、オーブにおるオールレンジ攻撃で強引に道を切り開いていく。
わたし達のアーケイン・スラスタが背中に背負うバックパック型なのに対し、彼女のそれは全く異なる。巨大なジェットエンジンが付いた椅子に座るようにして装着し、右肩に艦砲クラスの主砲、左肩にレーダー・レドームがある。また背中にはスラスタの燃料である圧縮エーテルが詰まった巨大な円柱形のプロペラント・タンクを三本背負っている。
そのような代物からなる大推力をもって、ソニックブームの衝撃波と轟音をまき散らし、魔物の塊を斬り裂いていく。彼女の通ったところに沿って撃破された魔物の爆発が無数に起こり、そこだけぽっかりと穴が空いていた。
「なんで戦闘偵察役が一番敵をやっつけてんだ?」
と、利人がその光景を前にし、苦笑して言う。
「なんだっていいだろ。正規の軍隊じゃあるまいし」
などと話していたそのとき、イリーナから無線。
『そっちにデカい反応が一つ向かってる。注意して』
それとほぼ同時にアーケイン・スラスタからも警報。一○時方向より高熱源反応。超高速で近付く。わたし達は咄嗟に回避行動。その場から離脱。その直後、雷を帯びた青白いビームが、先ほどまでわたし達がいた場所を薙ぎ払った。電撃がスラスタのセーフティ結界とぶつかり、激しく火花を散らす。
「ここの主のお出ましみたいだな」
電撃ビームを放った犯人、その姿は、遠くからでもはっきりとその姿を目視で確認できた。そいつは、爆撃機ほどのサイズの巨大なドラゴンだった。金属と有機物が混じったような肉体をもち、胴体のブースターをふかし、その巨体を飛ばすための推力を補強している。
「来るぞ、避けろ!」
ドラゴンの背中から、VLSのようにして垂直に多数のミサイルが発射された。それは少し飛んだところで軌道を変え、一斉にわたし達に向かってくる。
わたしは試しにビーム機動をしてみる。が、ミサイル群はまったく目標を見失わず、ぴったりとわたしの後をついてきた。
――これでは振り切れないか。ならば!
振り返り、ミサイルと相対。魔法陣を展開し、魔法〈嵐弾〉を毎分六○○発のレートで射撃。突風弾から初速、精度、威力のすべてが向上し、かつ消費魔力が低減した嵐の弾丸による弾幕を展開。さらにスキル〈レーダー射撃〉によって照準をスキル〈索敵レーダー〉と連携。ミサイルを自動でロックオン・射撃し、撃ち落としていく。
墜としきれなかったミサイルはシールドで防御し、遂にすべてのミサイルを凌ぎきった。
――今度はこっちの番だ。
めいっぱい加速し、ドラゴンの下方から接近する。ライフルはAMフィールドに阻まれて駄目だったため、至近距離からグレネードやパンツァーファウストをぶち込んでやる。
ドラゴンの脚部ビーム砲が火を吹く。足の指先一つ一つがビーム砲になっており、それらによる一斉発射でわたしを墜とす気だ。が、隙間が多い。その合間を縫ってどんどん距離を詰めていく。ビームでは墜とせないと分かったのか、次は有線で爪を飛ばし、質量による攻撃に移行。金属光沢がある巨大で鋭い爪が飛んでくる。わたしはそれをライフルで撃墜し、肉薄。ドラゴンをグレネードランチャーの有効射程圏内に捉えた。
――墜ちろ!
胴体ブースターを狙ってグレネード弾を発射。二発の炸裂弾がブースター内に侵入し、内部で爆発。ブースターを機能不全に陥れた。黒煙を噴き、ドラゴンの速力が低下する。
その隙を突いて、利人がドラゴンの逆鱗にあるAMフィールド・ジェネレータをバズーカで撃ち抜いた。AMフィールドの出力を上回る火力で強引に防御を破り、ジェネレータを破壊。これにより、ドラゴンは魔法攻撃に対して丸裸となった。
「今だ、叩き込め!」
二人で一斉に攻撃を加える。翼をライフルで撃ち抜き、目をショットライフルで潰し、背部のVLSをバズーカで破壊・誘爆させた。
最後に、戻ってきたイリーナの艦砲射撃によってドラゴンを真っ二つに切断し、撃墜した。これで先に進める――そう思った、そのときだった。突如として景色が一変し、UCLA構内にわたしは立っていた。隣を見ると、利人も同じように呆然と立っている。
「なんだ、何が起こった!?」
と、利人が言う。
ライフルやシールド、アーケイン・スラスタはそのままで、武装解除はされていないようだが――しかし、これは一体……。そのとき、わたしはあることを思い出した。
「この感じ……まさか、レミエルか!?」
可視異域化したUCバークレーで遭遇した、歪んだ天使のような魔物。あれと戦ったときも、これと同じような現象が起きた。それを思い出したとほぼ同時に、「正解!」と叫ぶかのように、奴が上空から降臨した。
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