#08 黄泉平坂戦線
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骸骨の幽霊船員たちがわたし達を取り囲む。数にして一○体ほどか。
「俺がやろう。君は取りこぼしたのを始末してくれ」
そう言って利人が背中のグレートソードを抜き――ここに来る前にホテルから持ってきた――、前に出る。
「了解」
幽霊船員が一斉に利人に群がる。迫り来る骸骨の塊目掛け、利人が大剣を一振りした。轟音を鳴らして空を切る、分厚く重厚な鉄塊が幽霊船員に衝突し、骨を粉砕する。
一気に五体を始末してしまった。生き残った連中は利人の剣にビビっているのか、武器こそ構えているが、なかなか近寄ってこない。
――来ないなら、今度はこっちの番だ。
わたしもルーン・ブレードを抜き、利人に続いて幽霊船員に接近する。船員のなまくら剣をシールドで防ぎ、槍を切断して接近、首を刎ねていく。不意に背後から幽霊船員が浮上し、掴みかかってきた。シールドでそいつの顔面を殴り、引き剥がして首筋にブレードを突き刺す。
ある程度幽霊船員を一掃すると、今度はまた違う容姿の敵が浮上してきた。幽霊船員よりも立派な身なりで、かつては士官だったのだろう。鎖鉄球や大筒などを携え、迫り来る。振り回される鉄球を避けつつ射撃。が、幽霊士官は水上を忍者のように走れるようで、なかなか当たらない。
――ならば!
ブレードに切り替え、接近。確実に攻撃を当てられる距離まで肉薄する。が、ブレードがあと少しで士官に届く、その刹那、左手に大筒を持ち、ゼロ距離でぶっ放してきた。
――なにッ!
咄嗟にシールドを構えたが、命中時の衝撃までは殺しきることができず、後ろに吹き飛ばされてしまった。水飛沫を上げて水たまりに落ち、全身がいっとき水中に沈む。
「クソ、片手でぶっ放すもんじゃねえだろ」
シールドに亀裂が入り、火花を散らしている。偏向フィールドも発生しない。これはもう使えない、そう判断し、腕から外そうとしたそのときだった。剣を構えた士官がわたしに突撃してきていた。右手で構え、左腕はだらんと遊んでいる。恐らく先ほどの無茶な射撃でイカれたんだろう。人間だったら大問題だが、幽霊士官には関係ないようだ。
壊れたシールドを投げつけて怯ませ、その隙に体勢を立て直す。疾風翔を微妙に発動させて強引に水を裂き、背後に回って首を刎ねた。
「ああ、ライフルが……」
どうやら水たまりに落ちたときに落っことしたらしい。探そうにもひどく濁っており、完全に手探りで探すしかない。これはもう諦めるしかないか……。
利人の方も士官を始末したらしい。残りの幽霊船員もすぐに殲滅完了した。これにて一件落着かと思った、そのときだった。再び、あの不快な警笛が鳴り響いた。
「またこの音……ッ」
が、今度は幽霊船員が湧いた訳ではなかった。幽霊船を覆っていた植物が剥がれ落ちていく。傾斜し、着底していた船が起き上がり、浮上。
「こいつ、動くぞ……ッ!」
幽霊船が、船としての役割を再開した。
汽笛を鳴らし、水たまりの上を航行する。帆に風を受けているわけでも、人がオールで漕いでいるわけでもないのに、それは推進力を持っていた。
「ヤバい、避けろ!」
利人が叫んで言う。
船体側面の砲門が一斉に開き、そこから大量の大砲が姿を現した。その全てがわたし達を向き、砲身の奥が赤く発光。極太の真っ赤なビームが一斉に放たれた。瑞々しい植物群を焼き払い、水を蒸発させ、有りと有らゆるものを薙ぎ払っていく。
「京!」
利人がシールドを失ったわたしを庇って防御する。ルーン・シールドとAMフィールドを最大出力で展開。防がれたビームが何本かに分かれ、わたし達の後ろに着弾して爆発する。
「な、なんとか凌いだ……」
ビームの一斉射が終わった。植物群は燃えて大火事。水たまりは、一瞬のうちにどれだけの水が蒸発したのか、腰まであった水位が膝下くらいまで下がっている。
「助かった。――大丈夫か?」
その場にへたり込んでいる利人の肩に手を置き、聞く。
「ああ、なんとか……。次は無いかもな……」
見ると、シールド・ジェネレータがほのかに赤くなっている。オーバーヒート寸前だ。もう一回同様にやったら、こんどは防ぎきる前に過負荷でドカン――かもしれない。
一見すると極めて強力な主砲群だ。その威力は抜群だが、しかし弱点もある。
それは、主砲の射角だ。あの主砲配置では、正面や背後には指向できない。また仰角も大して取ることができない。船体側面にさえ立たなければ、ビームは飛んでこない。
「わたしは船首から行く。利人は船尾から」
「了解」
魔法〈疾風翔〉発動。大きく跳躍し、一気に主砲群の射界から脱出。直上から幽霊船の甲板目掛けて突っ込もうとしたそのとき、わたしは気が付いた。
――なんでガレオン船に機関銃があるんだ!?
なんと、甲板舷側に沿って機銃が整列していたのだ。各銃には幽霊船員が機銃手として配置されている。見た目とサイズからして、エリコン二○ミリ機関砲あたりだろうか。さらに幽霊甲板にいくつもの穴が空き、内部からボフォース四○ミリ四連装機関砲が十基ほどせり上がってきた。これにもしっかりと機銃手が付いている。
木製の帆船に似合わない近代対空機関砲群が一斉にこちらを向く。
――マズい!
急いで身体を回し、真下へ疾風翔。緊急回避。その直後、先ほどまでわたしがいた場所を怒濤の対空弾幕が埋め尽くした。
わたしは密集した植物群に不時着。草がクッションとなり、衝撃を和らげてくれた。
「利人、生きてるか!?」
利人も船尾方向から同様に侵入を図っていた。機銃で木っ端微塵になっていなきゃいいが……。
「生きてる! でも、上空からは無理だ!」
機関砲群を破壊しない限り、上からは侵入できない。ならば、船体側面から侵入しようではないか。
利人と合流し、主砲の一つに死角から接近。ルーン・ブレードを突き刺して無力化し、砲門と砲の隙間から船内に侵入した。さっそく幽霊船員の手厚い歓迎。そいつらを蹴散らしながら、幽霊船の重要区画を目指す。
「いた! あいつがこれの司令官だろ」
甲板、船尾楼に、操舵輪を携えた、一際立派な軍服に身を包んだ者が堂々と佇んでいた。豪華絢爛な装飾がちりばめられたトライコーン帽をかぶり、幽霊には似つかわしくない、丁寧に整えられた白髭。
――あいつを倒せば解決か。
幽霊船長の合図で機銃手たちが一斉に抜剣し、襲いかかってくる。わたしもブレードを、利人はグレートソードを構え、臨戦態勢。
まずは正面から一体。下段からの斬撃を、さらに下に潜り込んで両腕を叩き斬る。そのまま胸部に突き刺して決着。こんどは左右から挟み撃ち。右側を拳銃で牽制しつつ左から仕留める。ソードをブレードで受け止め、溶断。その勢いのまま首を刎ね、そいつの後ろにいた奴の首を貫く。
――しかし、数が多い。いっちょやっちまうか。
「利人、中に戻れ!」
そう言って利人を退避させつつ、わたしは近くにあった二○ミリ機関砲のグリップを掴み、ぐるっと一八○度回転させた。
――これでも喰らえ!
トリガー、ON。二○ミリの弾幕が幽霊船員たちを瞬く間に呑み込んでいった。もともと航空機相手に撃つ代物――それを人(幽霊だが)に向けて撃てば、粉々にするのには一発で十分だった。
わずか十数秒の掃射の後、甲板には粉砕されたかつて幽霊船員だったものだけが残存していた。
――これであとは船長だけだ。
それまでずっと船尾楼から動かなかった船長が、雄叫びをあげ、抜剣して甲板にジャンプで降りてきた。剣を構え、わたしを睨み付ける。
「悪いが、お前の相手はわたしじゃねえ――」
船長がわたし目掛けて突撃しようとした、そのときだった。船長の背後から、太い大剣が船長の胸を無情に貫いた。そのまま剣は船長を縦に斬り裂き、両断してしまった。
「これで一見落着?」
と、真っ二つになった船長の隙間から利人が言う。
「だろうな」
船長の死と同時に、幽霊船は再び傾斜を始め、着底した。攻略に成功したらしい。
「で、結界の制御装置はどこなんだ?」
「この船のどっか……って、メルキオールが言ってる」
「じゃ、探そうか」
しばらく船内を探索した後、わたしたちは船長室にそれらしいものを見つけた。シックな机の上に置かれた、一つの段ボール箱。明らかに怪しい。
「……開けてみるか」
わたしはそれに手を伸ばし、ガムテープを剥がして中を覗いてみた。
「腐ってる……」
中には、腐敗した何かが鎮座していた。開けた途端、それに群がっていたおびただしい数のハエが一斉に離陸。船長室を満たした。
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