#05 Opus-2
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共通スキル〈管理〉を取得したわたしは、新たに〈ステータス・ウィンドウ〉を閲覧できるようになった。
出現したステータス・ウィンドウは三枚。まず左側のウィンドウには上から順に〈名前〉〈種族〉〈レベル〉〈トロフィー〉〈MP〉の欄がある。〈名前〉の欄にはわたしの名前、”Kei Kamiryo”が記されてあった。〈種族〉欄には”HUMAN(FEMALE)”、〈レベル〉欄には”1”とある。〈トロフィー〉欄は”無し”、〈MP〉欄には他と異なり数値の他に紫色のゲージがあった。数値は100。
続いて中央のウィンドウ。ここにはLP欄に緑のゲージと人体図がデカデカと書かれており、人体の各部位――頭部、胸部、腹部、左腕、右腕、左脚、右脚――が緑色に発光している。そして各部位、例えば頭部に意識をフォーカスすると〈STABLE〉と表記されたサブウィンドウが出現した。
最後に右側のウィンドウ。ここには〈栄養〉〈水分〉〈睡眠〉〈状態異常〉〈スキル〉〈魔法〉の欄があり、〈栄養〉〈水分〉〈睡眠〉にはそれぞれ緑色の文字で〈WELL-FED〉、〈HYDRATED〉、〈RESTED〉と書かれている。〈状態異常〉欄には白文字で〈NONE〉と記されていた。〈スキル〉はフォーカスすると〈標準スキル〉と〈共通スキル〉に分岐し、〈標準スキル〉欄は空欄で、〈共通スキル〉欄には先ほど取得した〈管理〉があった。〈魔法〉欄には〈風弾Ⅰ〉が表記されている。
――なんだ、これ。今のわたしの状態を表しているのか、こんな、ゲームでよく見るようなインタフェースで?
なんということだろうか。突如現れた風車型オブジェクトや化け物共に続いてまた訳の分からないものが増えてしまったではないか。もっとも、化け物と違い有害ではなさそう、むしろ便利そうなのでまだ良いのだが。
「利人、〈管理〉ってのを取得してみろよ。凄いぞ」
「俺ももう取ったよ。今見てる。信じられない……俺は夢を見てるのか!?」
先ほどの共通スキル・テーブルと同じくこちらも他者には見えないようだ。そう結論づけつつわたしはより詳しくステータス・ウィンドウを観察した。すると、中央ウィンドウ右下に一つのアイコンがあることを発見した。〈共有〉と記されている。
わたしはそれに意識を向ける。と、利人のフルネームがラジオボタンと共に出現した。ラジオボタンに心の中でチェックすると、〈共有しますか〉という文言及び〈常時〉〈今回のみ〉〈キャンセル〉のラジオボタンがポップアップする。
「利人、中央ウィンドウの右下にある共有アイコン、弄ってみたか?」
「共有? ああ、これか。押すとどうなるんだ?」
「押したらお前の名前とラジオボタンが出てきた。で、共有しますかって聞かれた」
「まさか、これを他者にも見せれるのか?」
「かもしれない。今やってみる」
わたしは〈常時〉ボタンに心の中でチェックした。すると〈共有完了〉のポップアップが出現し、元の画面に戻ってきた。
「どうだ?」
「君のも見れるようになってる……凄いな」
「お前のも共有してくれるか」
「ああ、今やる」
と、わたしの方でも利人のステータス・ウィンドウが閲覧可能になった。これでわたし達は自分と相手の状態を客観視しながら行動できるようになった、のだろう、たぶん。
――これは便利でいい、のだが……素直には喜べんな。
やはりこれに関しても、「どうして?」という疑問が浮かんで心を占領する。ある日突然こんな代物が使えるようになったんだ、この世界は明らかに普通でなくなっている(化け物の時点で既にそうだったが)。
「本当、世界もわたし達もどうしちゃったんだ……」
さらにウザいことに、今のわたし達にはそれを解決できる力も情報もない。つまりこの疑問を抱いたままこれから行動せねばならないのだ。そんなことをハナから気にせず適応できれば楽なんだが。
「まあ、今考えてもどうにもならん。さっさと要るモノ集め――」
と利人が言いかけたそのときだった。店の正面に張られているガラス張りの壁がバリンと大きなノイズを立てて割れた。
「なんだ!?」
わたしは咄嗟に音がした方を見やる。そして、わたしは一気に体温が冷えるのを感じた。
化け物だ。
化け物が侵入してきた。大きい、大学内でわたしが追いかけられた奴よりもずっと。そいつよりは人に近い見た目だが、身長が軽く七フィートは超えている。肌は灰色でデコボコしており、毛は無い。腹がかなりでっぷりとしており、秘部は獣の毛皮と思しきもので作られた簡易的な服で隠れている。
店内に化け物が入ってきただけでもかなり悪い状況なのだが、さらに悪いことにわたしは今、確実にあいつ、仮称メタボ巨人と目が合ってしまった。
「利人……いま……目が合った……」
蚊の鳴くような声でわたしはメタボ巨人と目を合わせながら利人に伝える。
「そいつ……視力が悪いキャラだったりしないか……?」
「いや、めっちゃ見られてる……コンタクトしてるのかも……」
メタボ巨人が口をあんぐりと開け、猛獣のような腹に響く雄叫びをあげた。
「RUN!」
利人の合図でわたし達は同時に走り出した。バックヤードに行けば外に出られるドアかシャッターがあるだろう。鍵が掛かっていたとしても、あの巨体では店内とバックヤードを繋ぐドアを通れないし、その間にショットガンでぶち壊して逃げられる、はず。
散乱した物や棚を飛び越え、わたし達は全速力でバックヤードに走った。背後からはメタボ巨人の咆哮と、物を掻き分けて追いかけてきているのだろう、物が吹っ飛んでそこら中に衝突する音が聞こえてくる。
――どの辺まで迫ってきている……?
後ろを振り返っては駄目だ。それで速度を緩めて追いつかれたら元も子もない。
「飛び込め!」
利人がバックヤードに入るドアをタックルでぶち破る。
――出口はどこだ?
バックヤードは照明が付いていなく、薄暗かった。微かに照る非常灯の光だけが頼りだ。
「まず照明だ。――これか!?」
わたしは手に付いたボタンを取り敢えず押してみる。
――BINGO!
照明が付いた。バックヤードが一気に明るくなる。が、それによって見たくない現実も見えてしまった。
追いかけてきたメタボ巨人がわたし達が入ってきたドアに向かって何度も突進をかましている。そのたびに壁にヒビが入り、だんだんとそれが広がっているのだ。
「アイツ、無理矢理押し通る気だ!」
それから五秒もしないうちに壁があっけなく破壊され、メタボ巨人が侵入してきた。
「SHIT! やるしかねえか……」
出口はまだ見つけられていない。ここからは殺るか殺られるかだ。
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