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#03 Amputees

毎日15時から20時の間に投稿予定

「静かだな……」

 

 音が一切ない。風も吹かず、ただわたし達が苔を踏んで歩く、ワシャワシャという音だけが洞穴内にわずかに反響している。あれから幾度か花状の頭の人型魔物――華影というらしい――と遭遇したが、今はわたし達以外の気配は無い。

 

 わたしは、この異様なまでの静まりようにどこか違和感を感じていた。あまりにも、音が無さ過ぎる。と、そのときだった。それまでの湿り気のある土の匂いが消え、代わりに接着剤と樹脂のような化学臭が鼻をついた。

 

「なんだ、この匂い……?」

 

 と、利人が呟く。

 

 どうやらわたしの鼻がおかしくなったわけではないようだ。利人もイリーナも、急激な匂いの変化に気付いている。

 

「敵の前触れか? メルキオールは何か言っていないのか?」

 

「いま分析してる――みんな、前!」

 

 イリーナの警告でわたしと利人は同時に前に振り向いた。

 

 前方の通路に、匂いの正体たる〈そいつ〉はいた。

 

 まるで、間違った作法で作られた人形――関節が存在しない箇所で折れ曲がり、手足の代わりに金属製の擬似肢が不規則に突き出している。骨のような構造体の上に皮膚を模したのだろうゼラチン状の膜が張り付き、顔は無い。白い陶器のような、のっぺらぼうの頭部。

 

「新種の魔物だわ。名付けるなら、アンピュティー……」

 

 と、イリーナが言う。

 

 メルキオールが持つデータベースのどれにも合致しない存在だそうだ。従ってこいつを分析するには、実際にわたし達が戦い、そのデータをメルキオールに食わせるしかない。

 

「何をしてくるか分からないわ。気を付けて」

 

「チッ、面倒くせーな。――所見殺しは止めてくれよ?」

 

 ライフルを構え、射撃。速攻を仕掛ける。が――

 

「なに!?」

 

 わたしが銃を構えると同時に、アンピュティーも同様に銃を構える仕草をした(向こうは銃など持っていないのに)。そしてわたしが撃つと向こうも魔法弾を撃ち返してくる。

 

 敵弾をシールドで防御。敵も同様にしてバリアを展開し、わたしのビームを防ぐ。

 

「こいつ、わたしの動きを真似ている!」

 

 どうやらこいつは、人の動きを模倣する習性があるようだ。こっちと同じ行動をとり、反撃してくる。

 

「京、こっちからも来た! 壁とか天井を伝って来るぞ」

 

 最初は一体だけだったアンピュティーが、いつの間にか三体に増えている。

 

「あいつはわたしが殺る。そっちは頼んだ!」

 

 アンピュティーが突進。左手の先からランスのような物が生えている。

 

 ――ただ真似るだけじゃない。能動的にも動くのか。

 

 しかし、動きは一直線だ。簡単に避けられる。そう思って回避しようとした、そのときだった。突如として背後からなにかが左足に絡みついてきた。

 

「なに!?」

 

 見ると、背後にも別のアンピュティーがいた。地を這うような体勢で、途中で切断されたような腕の断面から木の根のような触手を伸ばし、わたしの足をしっかりと掴んでいる。

 

 ――クソ、これじゃあ回避できん。

 

 咄嗟にシールドを構え、正面から来るアンピュティー(以後Aと呼称)の攻撃を防御。角度を付け、後ろに流す。が、背後のアンピュティー(以後Bと呼称)が急激にジャンプ。身を翻して天井に張り付いた。それにつられてわたしも足を掬われ、背中から転倒してしまった。

 

 天井のアンピュティーがランス状の腕を構えて落下攻撃。わたしは咄嗟にライフルを投げ捨ててブレードに持ち替え、触手を切断。地面を転がって攻撃を回避する。

 

 起き上がり、ブレードをアンピュティーの頭部目掛けて突き刺す(メルキオールが、そこに弱点があると分析した)。が――

 

「AMフィールドか!」

 

 刃がフィールドに弾かれ、滑った。その勢いのまま、抱きつくようにアンピュティーにぶつかってしまった木肌のような質感と、ゼラチンのような質感が同時に伝わる。

 

 ――まずい!

 

 ぶつかったと同時に、アンピュティーに腰の拳銃を抜き取られた。わたしの脇腹に銃口を突きつけ、発砲。三発の銃声が轟く。

 

「コイツ――ッ!」

 

 ブレードで銃を持った腕を切断し、離脱。地面を転がって距離を取る。

 

 ジャケットとベストが銃弾を受け止めてくれたお陰で致命傷ではない。が、死ぬほど痛い。息を吸えば吸うほど激痛が走り、数秒間はまともに息を吸えなかった。

 

 ――しかし、どうやって倒す?

 

 

 頭部はAMフィールドで弾かれたが、そういえば腕はすんなりと斬れた。ということは、今までの奴らのように全身を防御している訳ではないのか。もし防御箇所が頭部だけならば……やってみる価値はあるな。

 

 二体のアンピュティーの攻撃を躱しながらライフルを拾い、アンピュティーBに狙いを定める。グレネードでAを牽制しつつBに接近。左手に持ったブレードを薙ぎ、胴体目掛けて斬りかかる。

 

 ――やはり模倣してきたな。

 

 Bがわたしの動きを真似し、腕を剣状に変形させて振るう。が、それは想定に反して完璧でなかった。わたしを真似しつつ、しかし少しずれた――間違った動きでこちらに斬りかかってきた。

 

 咄嗟にブレードの軌道を変えて防御。間一髪だった。これがあと少し遅かったら、右肩からザックリいかれていた。

 

 ブレードでガードしつつ、ライフルをBの胴体に突きつけて射撃。後ろに下がって一度距離を取る。

 

 ――今のは焦った。が、胴体もAMフィールドで守られていないことが分かった。ここまで情報が揃ってくれば、戦術も立てやすくなる。

 

 Aが背後から、Bが正面から迫ってくる。

 

 魔法〈突風弾〉でAを牽制しつつ、再度Bに接近。ブレードを、地面を斬り裂くかの如く下から掬い上げるように振るう。向こうもそれを模倣。やはりどこか間違った動きだが、問題ない。

 

 ――かかったな。

 

 わたしのブレードは、刃の発振をOFFにすれば柄だけになるため刃が地面に当たることはない。が、向こうは違う。その違いを考慮せずに真似た結果、刃が地面に突き刺さって動けなくなってしまったのだ。

 

 その隙を突いて一閃。わたしはBの胴体を真っ二つに斬り裂いた。すぐさま頭部がある方の断面に銃口を突きつけ、射撃。断面からビームが突き進み、首を通って頭部を破壊した。アンピュティーB、撃破。

 

「おっと、危ない」

 

 後ろからアンピュティーAが魔弾を撃ってきた。それをシールドで防ぎつつ、応射。向こうも模倣してビームを防ぐ。その隙に横に回り込み、首元に向けて射撃。被弾箇所が溶解し、頭部と胴体が分離した。

 

 ――これでトドメだ。

 

 断面からブレードを突き刺し、頭部を破壊。これにてアンピュティーAも撃破完了。

 

「あっちの方はどうなってるかな」

 

 こっちは片付いたが、利人たちはまだ戦ってるようだ。共有されたステータス・ウィンドウを見る限り健在だが、事態が急転する可能性は十二分にある。

 

 そう思って戻ると、辺りには多数のアンピュティーの死骸が転がっていた。見ると、みな頭部にかち割られた痕がある。やったのは利人だな。あいつは今回、閉所での戦闘を想定して大剣ではなく片手用ヒートアックスを持ってきている。あれは高温に熱された実体刃だから、AMフィールドを無視できる。

 

 ――やはり実体武器もある程度持っていた方がいいな。

 

 利人とイリーナの方も片付き、辺りのアンピュティーは一掃できた。これで心置きなく先に進める。

お読みいただきありがとうございます。


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