#01 Layer-Root
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上空三○○○メートル、速度○・二五――出力、全セーフティ結界異常なし。魔式警戒レーダーに感有り。ボギー、二時の方向、距離一○○○メートル。識別は……ハルピュイアか。数は三。デルタ・フォーメーションを組んで接近してくる。
ライフルの照準を先頭の一体に合わせ、射撃。
仕留めた。撃墜。生き残った二体が不意打ちに焦ったのか陣形を崩している。そこへ立て続けにもう一発射撃。今度は脚を掠っただけ。ビームの進路に対して垂直に飛ばれていたから、無理もないか。横の偏差は機械の補助があっても難しい。
――まあいい。このままブレードで仕留める。
向こうもわたしの位置を補足したらしい。こちらに真っ直ぐ突っ込んでくる。奴らのメインウェポンは毒のブレスと鋭い鉤爪。爪はシールドで簡単に防げるから、毒ブレスにだけ気を付ければ良い。
ライフルを腰に回し、ルーン・ブレードを抜く。一体が正面から、もう一体がわたしの背後に回った。挟み撃ちだ。が、問題ではない。
毒ブレスを吐きながら突撃してくる正面の一体に、ブレスを避け、すれ違いざまに首元にブレードを突き刺す。この一撃でハルピュイアは絶命。亡骸を振り落として後ろから来る最後の一体に備える。
――遅い!
後ろからの鉤爪攻撃を振り向きざまにシールドで防御。直後にブレードを振るって首を刎ねる。殲滅完了。
『アーケイン・スラスタはどう? もう慣れた?』
無線越しにイリーナが問いかけてくる。
「いい調子。これは、良い装備だ」
一対のブースターと圧縮エーテル・タンクを備えた魔導推進型個人飛行装備〈アーケイン・スラスタ〉――装具専門店街パラ・ベラムが総出で完成させてくれた、わたし達専用の空中専用装備。賢者の風車に突撃しコスモス・セルを奪取して帰還するには、いや、それ以外の作戦でももってこいの一品だ。
なぜこのようなことになったのか――事は一週間前に遡る。
「ミス・上領、ミスター・シモンズ。私がこれから話すのは、今起きているこの事件の真相だ。これを聞いたら、恐らくその前には戻れない。聞く覚悟はあるか」
ホテルの地下応接室に案内され、支配人チャールズはわたし達にそう問うた。
真相なら前にバザールの商人からも聞いたが、まあいいだろうと思ってわたし達は肯定した。それから彼の話は始まった。
まず、バザールの商人が君たちに教えた事は全て嘘だ(とチャールズは語る)。一連の出来事は不慮の事故では無く、全て意図的に行われたことだ。
数万年前、地球には君たちホモ・サピエンスの他にもう一種の人類、タッタリア人がいた。ホモ・サピエンスはアフリカから中東にかけて大規模な文明を築き、タッタリア人は中央アジアに築いていた。が、あるとき両文明は資源や領土などを巡って全面戦争に突入した。その戦争はとても凄惨で、核兵器や生物兵器、化学兵器……当時の有りと有らゆるものが投入された。
結果、タッタリア人は敗北。八割が死滅し、一割が捕えられ、残りの一割は次元超越技術で異世界に脱出した。
異世界に逃げたタッタリア人は現地を征服し、力を蓄えていった。ホモ・サピエンスに復讐し、母なる地に帰還するためだ。
やがてタッタリア人残党は〈カンパニー〉という組織となり、多数の世界を侵略し、その規模を膨らませていった。その下部組織が我々コンチネンタル-オーダー・グループだ。世界に独自のコインを流通させ、支配するために我々は存在している。
そして現在、満を持してカンパニーは地球への侵攻を決定し、今に至るのだ。あの風車はカンパニーの侵略兵器で、魔物達は風車が生み出したダミーの敵。我々が君たちの魔物討伐に協力するように見せかけてコインを流通させ、現在進行形で地球を侵略している。
チャールズの話を聞き、わたしはなんと言ったらいいのか分からなかった。あまりにも壮大すぎる話に、現実味を感じられなかった。
「……つまりは、なんだ。あんたらは俺たちの敵になるわけだな。なのに、なんでそんなことを教えた」
と、わたしが言葉を失っている横で利人が静かに尋ねて言った。
「私がカンパニーに忠誠を誓っていないからだ。私だけではない。グループの大半の人間が、そうだ」
「それは、なんでだ」
「馬鹿らしくなったのだ。もう何万年も前のことに固執しているのが。そして、そのためだけに幾つもの世界を破壊してきた。あまりにも身勝手だとは思わんかね」
「まあ、そうだな」
「我々は、もはや己をホモ・サピエンスに敗れた敗北者とは思っていない。その時から離反を画策していたが、カンパニーと力の差があり過ぎた。しかし、それを覆すチャンスも同時にある」
「ほう?」
「コスモス・セル――賢者の風車の動力源だ。あれは宇宙の強大な力を蓄えた細胞だ。カンパニーにでさえも入手が難しい、唯一無二の資源だ。それをカンパニーは全部で十三個保有しているが、その内七個もこの星にある。それを奪うことができれば、我々にも勝機がある」
「できるのか?」
「君たちの手助けがあれば、可能だ。それにコスモス・セルは強大なパワーを持つ故に扱いが難しい。が、イリーナならセルを安全に制御できる」
チャールズは杖で壁に飾られた一枚の顔写真を指した。
「ヴィクトル・ジューコフ――イリーナの祖父であり、我々の戦友だ。彼はベトナム戦時に異世界に転移し、私と知り合った。そこで彼は我々と共に異界の技術や魔法、コスモス・セルについて研究した。地球に戻ってからはニクソン政権下で始まった〈国家防衛司令116-Ψ〉に参加。UCバークレー校の地下に秘密裏に作られた研究施設で研究を続けた」
「――で、亡くなった後に私が祖父の研究を引き継いで、コスモス・セルの構造解析に成功した。私なら、コスモス・セルを安全に制御できるわ」
と、イリーナが自慢げな表情で言う。
「つまりは、わたし達に賢者の風車のコスモス・セルを奪ってきてほしい――それが、あなた方の頼みか?」
「そういうことだ。そのための支援は惜しみなくしよう。我々は我々で他にもやらねばならないことがある」
「あんたらは何をするんだ」
「グループ内のカンパニー派を粛清する。君たちにはモニュメントバレーのセルを入手して欲しいが、それと同時にこちらもそれを済ませる」
「それは、カンパニーへの宣戦布告ではないのか?」
「そうだ。それらを持って、我々はカンパニーに離反の意を示す。その後は、カンパニーとの戦争だ」
どうやらわたし達のような他にも人間を世界各地で確保しており、彼らにもそれぞれ各地のコスモス・セルを回収してもらうそうだ。
「これはカンパニーへの〈啓示〉になる。そして、地球を古代の復讐から救済することにもなる。……引き受けてくれるか?」
「わたし達でいいなら」
「感謝する。――これを」
そう言ってチャールズは懐から一枚のカードを差し出した。
「これは?」
「このホテルで一番いい部屋だ。好きに使ってくれ」
「THANK YOU」
『京、新手が来たわ。ハルピュイア・マトリカ(ハルピュイアの母体)、一体。二時の方向』
「こっちでも確認した。撃墜する」
レーダーの反応が五つに増えた。母体というだけあって、腹部からハルピュイアを産み出したのだ。だが、その程度の数、どうということはない。
ライフルの速射で三体墜とした。残った一体を、接近し、ブレードで両断する。これで残るはマトリカのみ。
マトリカが激しく羽ばたき、強風と共に濃い腐敗の鱗粉をまき散らした。毒の濃霧でビームが散らされ、マトリカまで届かない。
「ならば――」
ビームが無効化された際の対策として、ライフルのバレル下にグレネードランチャーを装備してきた。それを試すときだ。
毒を浴びない程度に接近し、マトリカに狙いを定める。ロケット・グレネード、発射。毒霧を斬り裂いて突き進む。命中。マトリカにぶつかって炸裂。撃墜した。
「ふう、これで全滅だな。――利人、そっちはどうだ?」
『俺もすっかり慣れてきた。バッチリだ』
「そいつはいい」
賢者の風車に突入したら、過去最大の激戦が予想される。そのためにも、新しい装備によく習熟しておかねば。
「――訓練終了、帰投する」
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