#08 狂戦士の棺(リベンジ-3)
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利人の鉄塊のような剣を突き立てられたヴォッゴは、それまで一生懸命に振るっていた剣撃を止め、剣を握ったまま腕をだらんとさせて動かなくなった。
「死んだのか?」
わたしはポツリとそう呟いた。が、すぐにそれは否定された。
棺を背中に縛り付けていた鎖が千切れ、粉塵をあげて地面に落ちた。棺が開き、黒い煙と共に、一本の、痩せ細った骨張った腕が伸びる。手には赤黒い血の滴り落ちる、兜をかぶった一つの首級。それを力尽きたヴォッゴの首へと載せ、胴体が地面に沈み込むほど強く、強引に押し込んだ。
「OH……MY DAYS……」
異様な光景だった。まるでプラモデルを作るかのように、棺から出た腕はヴォッゴに首を付けようとしている。しかし、一度切断された首が、押し込んだだけでくっ付くはずがない。
見ると、棺からさらにもう一本の腕が伸び、そちらはヴォッゴの胴体をがっしりと掴んだ。二本の腕はヴォッゴにしがみつくようにして首級を固定した。と同時に、ヴォッゴが再び動き出す。
「そんなのアリかよ」
強引に再起動したヴォッゴに、利人が悪態をついて言う。
「アリだったから動いてるんだ。さっさと倒すぞ」
先ほどの光景からして、恐らく棺から出た腕を破壊すれば倒せるだろう。その旨を利人に伝え、銃でそれを狙おうとサイトを覗き込んだとき、わたしは気付いた。
――奴はどこだ!?
先ほどまで奴がいた場所はおろか、三六○度どこを見ても見当たらない。わたしが焦って辺りを見回しているとき、利人の警告が耳を貫いた。
「京、上だ!」
その声で咄嗟に見上げると、そこには剣を構えて落下してくるヴォッゴの巨体があった。急降下爆撃機のように、明確に敵を滅するという意志を以て、一切の躊躇い無しに突っ込んでくる。
わたしは咄嗟に魔法〈疾風翔〉を発動し、その場から離脱した。直後、重く大きいヴォッゴという質量爆弾がわたしのいた場所に墜ちた。粉塵が煙幕のように周辺を漂い、視界が奪われる。宙を跳んでいたが、落下の衝撃波で思わず体勢を崩しそうになった。
――我ながら、一瞬で疾風翔を使う判断をしたのは天才的だったな。もしそれを使わずに走って離脱しようとしてたら、今頃衝撃波をもろに受け、遙か彼方に吹き飛ばされていただろう。
粉塵が晴れ、視界がクリアになる。が、依然として攻勢は向こうにあった。奴はわたしを見つけるや否や思い切り地面を蹴り、一瞬で距離を詰めて斬りかかってきた。
「ええい、そんなに頭にきたか、脚を撃たれたのが!?」
先ほど(以後、第一形態と呼称する)とは打って変わり、今度は利人でなくわたしを執拗に狙ってくる。
「この野郎、こっちを向きやがれ、ストーカー野郎!」
わたしに斬りかかるヴォッゴの背後から、追いついた利人が大剣を振りかぶって飛び込んだ。が、まさかの剣を持った三本目の腕が棺から伸び、利人の剣撃を止め、はじき返した。続けて四、五本目の腕が銃を携えて這い出、利人に反撃する。
利人、ルーン・シールドを展開して銃撃を防御。着地し、銃撃を機動力で避けながら再接近。
ヴォッゴは本体でわたしに対応しつつ、棺から出た腕で利人に対処した。一見すると隙の無い、完全無欠のようであるが、しかし現実はそう簡単にはいかないようだ。
利人に対処した瞬間、ほんのわずかだが、ヴォッゴ本体の動きが鈍くなったのをわたしは見逃さなかった。その隙を突き、ショットガンで腕を狙い撃った。命中し、腕が血飛沫を上げて千切れ、地面に落ちる。
その瞬間「してやった!」とわたしは思った。が、即座に新たな腕が棺から生え、元通りになってしまった。
――棺の腕の数は無限か!? 一体幾ら出せるんだ……。
いや、落ち着け。いま落ちたのは胴体を支えていた腕だ。それが落ちた瞬間、一瞬ではあったがヴォッゴの動きが格段に遅くなった。ほとんど停止したといっていいくらいに。恐らく、胴体の支えが無くなったことで胴と首級の接続が途切れたのだろう。
では、逆に首級を支える腕がやられたら? それまでの動作の勢いで首級は吹っ飛ぶだろう。そうなったら胴体は動かないが、棺から腕が伸びて転がった首級を拾ってくるのだろうか。それに、あの棺もだ。あれが破壊されたら、そこから出てくる腕はどうなる?
――試してみる価値はある。
「利人、コイツに攻撃を続けてくれ! 器用な奴だけど、完全なパフォーマンスは発揮できない! その隙にわたしが撃つ!」
「分かった。任せろ」
ヴォッゴに再接近した利人に向け、多数の腕が迎撃に伸びる。それを利人がひたすら斬り伏せていく。
――やっぱりな。本体が鈍っている。
静響のペンデュラム、起動。首級をおさえる腕への狙撃に集中する。
射撃。
一本のピンク色のビームが、銃口と該当の腕とを一直線に繋いだ。腕が焼き切られ、落ちた。そのすぐ後に、胴体の激しい動きを受けて首級が吹っ飛ぶ。
「利人、棺を!」
狙い通り、胴体は動作を停止した。膝からガクンと崩れ落ち、腕は至急、首級を拾うべく必死にそちらへ腕を伸ばす。その隙に利人が接近。自慢の大剣を目一杯振るい、棺をぶった切るべく斬りかかる。
利人の攻撃を阻止するべく、剣や斧や槍を抱えた腕が弾幕のように這いずり出てきた。それらに向かってわたしはARでビーム照射。突破口を切り開いて利人を援護。
棺に刃が入った。綺麗に真っ二つにあり、ゴロンと地面に転がった。それと同時に腕が灰と化して消滅。ヴォッゴ本体も、沈黙したままその場に大量のコインを落とした。
周囲の景色が一転、元いた不可知空洞最奥の部屋に戻った。わたし達は無事帰還を果たしたらしい。
「終わった、のか……」
張り詰めた気持ちが一気に緩み、安堵の息が呟きと共に漏れ出た。この部屋にはいま、不可知空洞の核たるオブジェクトが鎮座しているのみ。その前に立ち塞がるものはもういない。
「さっきは助かったよ、京。あれがなかったら、首級を先に拾われていたかもしれない」
「いいや、そもそもお前がしっかり気を引いてくれたからできたことだよ。――さ、さっさと戦利品を拾って帰ろう。もうクタクタだ」
「ああ。そうだな」
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