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#06 幻貪獣(リベンジ-1)

毎日15時から20時の間に投稿予定

 翌朝、ホテル自室。

 

「幻貪獣ディエルボ?」

 

 利人が掲示板をわたしに見せてくる。いつも通り数数の依頼が掲示されているが、その中に一つだけ、際立って目立つ配色の依頼があった。有名個体――幻貪獣ディエルボの討伐依頼だ。推奨レベルは13。

 

「ああ。新装備の()()()にはぴったりじゃないか? レベル差もそんなに無いし」

 

「そうだな……。場所は――アーツ・ディストリクトか」

 

 アーツ・ディストリクト――ダウンタウン・ロサンゼルスの東に位置する、かつて倉庫街だったところを再開発し、芸術家たちが集まる街に変貌した場所だ。至る所に壁画やギャラリー、個性的な店が建ち並び、芸術文化の息づくエリアとして注目を浴びていた。

 

「去年行ったけど、あの景色は圧巻だったな。別世界に迷い込んだかと思った。――今はどうなってることやら……」

 

「行ってみるか?」

 

「ああ」

 依頼、受領。

 

 そうと決まれば装備の準備だ。昨日買い漁ってきた武器や服などはすべて、昨晩のうちに部屋に届いている。それらを入念にチェックし、身につける。


 わたしの武器はARとP226、ルーンブレード。利人は馬鹿みたいにデカい大剣とショットガンにハンドガン。マガジン類とハンドガンをベルトのラックにしまい、メインウェポンを背負えば完璧だ。

 

「行こう」

 


 

 今日の天気は快晴、微風。気温も暖かい。外を歩き回るのに快適な日だ。アーツ・ディストリクトまでは徒歩で二、三○分ほど。

 

「……着いたな」

 

 街の端に到着し、利人が呟く。

 

「お前、先入っていいぞ」

 

「いやいや君こそ」

 

 わたし達がいま、ここより先への歩みを躊躇うのには訳があった。

 

 本来なら爽やかな陽光が降り注ぐはずなのにも関わらず、アーツ・ディストリクトの内側だけ霧が濃くかかっているのだ。街の中と外がまるでまったく別の空間だとでもいうように。それから絶対に気のせいではなく、空気がどんよりとしていて重苦しい。

 

 しかし、だからといってここでウロウロしていても意味は無い。ここは勇気を振り絞って最初の一歩をば。

 

「……せーので行くぞ」

 

 と、わたし。

 

「……了解」

 

 霧へ突入。



 

「さて、ディエルボはどこかな」

 

 一口にアーツ・ディストリクトと言ってもそれなりに広い。人どころか生物の気配がまるで無く、おまけにこの霧で視界が悪いのでは、そう一筋縄ではいかないだろう。

 

 暖かい日のはずなのに肌寒さを感じながらディエルボを探して少し彷徨っていた、そのときだった。利人が九時の方向に大きな影を見つけ、知らせた。影はすぐにわたし達との距離を詰め、ゆらあっと目の前に現れる。

 

 ――奇襲か!

 

 ディエルボが出た。宙を舞い、鋭利な爪を煌めかせた前脚を振り下ろそうとしている。わたしは咄嗟にシールドを構え、防御――したはずだが、奴の攻撃はホログラムのようにわたしをすり抜け、遂に命中することはなかった。

 

「これは……クソ、幻影だ! 本体はどこだ」

 

 そう叫びながら、わたしは冷や汗をかきながら辺りを血眼になって見渡す。と、見つけた! 利人の背後に迫っている。

 

「利人、後ろだ!」

 

 わたしの警告で、利人が瞬時にシールドを展開。とほぼ同時にディエルボの爪がシールドにぶつかった。火花が激しく散り、衝撃で利人が数フィート後ろに飛ばされた。

 

「大丈夫か!?」

 

「ああ。――こいつが、ディエルボ……」

 

 霧中から遂に姿を見せた、幻貪獣ディエルボ――見た目は黒灰色のトラのような大型獣だが、前脚と後脚に加えて中脚が一対あり、前脚の片方だけ爪が異常に発達している。頭部にはユニコーンを彷彿とさせる一本の角。

 

「来るぞ」

 

 ディエルボは攻撃が防がれたと分かると、追撃はせずに再び霧に紛れた。決して逃げた訳ではないだろう。またどこかから仕掛けてくるはず……などと考えているうちに、ほら来た。ディエルボの姿は二つ。またどちらかが幻影なのだろう。どちらが本物でも問題ないようにわたし達はシールドを構える。

 

 今度はわたしの方が本物だった。ディエルボの巨大な爪がわたしのシールドに突き立てられる。

 

 ――重い!

 

 たぶん、ディエルボの全体重が乗せられた攻撃だろう。攻撃こそわたしには届かないが、その衝撃でその場に留まることが一瞬で困難になる。

 

 吹き飛ばされ、宙で身を捻って着地。と同時にライフルでディエルボを撃つが、あと一歩のところで霧に逃げられた。

 

 ――さて、どう攻略したものか。そういえば、追想のエンゲージリングは敵の行動予測ができたはずだな。

 

 そう思ってわたしはリングに意識を向ける。と、しっかりと働いてくれていた。(どんなアルゴリズムなのかは解らないが)リングが今までの動きからディエルボの行動予測を計算し、弾きだした結果を脳内に示してくれる。それによると、本体は……。

 

「利人の方に来る可能性が高いぞ!」

 

 再度ディエルボの攻撃が来る。一応リングの予想が外れる可能性も考慮し、身をかがめてディエルボ(たぶん幻影)の下に潜って回避。と同時に利人に向かった奴を撃つ。

 

 ――BINGO!

 

 ライフルから放たれたビームがディエルボの右肩に命中した。ディエルボが蹌踉ける。そこへさらにライフルを連射、追い打ちをかける。利人も大剣を抜き、渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 ディエルボが低くも悲鳴のような声をあげてわたし達から距離を取った。

 

「なんだ、逃げる気か?」

 

 と、わたし。

 

「いや、もっと殺る気になったみたい」

 

 見ると、ディエルボの身体から赤い霧のようなものが立ち上っている。それから爪が発達していない方の前脚を自分の口の中に突っ込んだ。

 

「何をする気?」

 

 ディエルボが口内に突っ込んだ腕を引き抜く。見ると、その手には、真っ赤に燃えさかる炎を纏った一振りの大剣があった。

 

「マジかよ……」

 

 ディエルボ剣を振るう。厄介なことに、その剣には振るう度に炎の斬撃を飛ばす仕様があった。飛んできたそれはスキル〈予見眼〉などの効果もありどうにか回避・防御ができた。が、目標を外した斬撃の着弾した箇所が煌煌と炎上している。やがて建物が燃え尽き、崩落。先ほどまで肌寒かった気温も一転、暑苦しくなった。

 

 ――これは早早にキメないとヤバいな。

 

 元からあった霧と崩落時に発生した粉塵、炎と黒煙によってますます視界が悪くなっている。ディエルボはそれに紛れた。奴の行動パターンが変わったことでリングの予測もリセットされた。

 

 ――どこから来る?

 

 そのとき、わたしは後方に猛烈な熱気と殺気を感じた。このプレッシャーはディエルボに違いない。咄嗟に前へ飛びつきつつ振り向いて後方を確認。すると、目の前には、先ほどまでわたしが立っていた場所に剣を突き立てている奴の姿があった。直後に超高熱の突風。反射的に魔法〈風障壁〉を発動。冷たい風の壁で熱風を相殺する。

 

 攻撃失敗を見たディエルボが剣を引き抜き、構え直し、わたしに飛びかかってこようとした刹那、轟音と共に奴の腕から血飛沫が上がった。

 

 利人だ。彼がショットガンの連射で剣を持つディエルボの腕を撃ったのだ。奴が怯んだ隙に彼は肉薄。剣に持ち替え、奴の片腕をぶった斬った。

 

 雷鳴のような奴の悲鳴がつんざき、動きが完全に止まった。今がチャンスだ。

 

 わたしは頭で考えるよりもはやくライフルを構え、静響のペンデュラムを起動。狙撃時の一切のノイズを除去し、奴の急所を撃ち抜くことに集中する。

 

 ディエルボは倒れた。脳天をビームで貫かれて。奴の巨体がズウンと音を立て、力なく地面に横たわる。

 

「終わったか……」

 

 と、利人が剣を背中に背負いながら呟く。

 

「新装備の具合は?」

 

「良い感じ。たぶん前までの装備だったら倒せなかった」

 

「同感」

 

 ディエルボの死と同時に、ここら一帯を覆っていた霧も完全に晴れた。視界はオールクリア。だが、燃え盛っている箇所は依然そのまま。

 

「さっさと戦利品回収して行こう、京。せっかく勝ったのに、火事に巻き込まれて死にたくはない」

お読みいただきありがとうございます。


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