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#05 Magia Forschtadt

毎日15時から20時の間に投稿予定

 武具専門店街パラベラムの店を巡り、戦闘用装束、防具、それから武器が決定した。これだけでも十分戦力増強にはなっているだろう。だが、それらをさらに高いレベルに押し上げるためのアイテム、〈魔導装飾具(アクセサリー)〉をわたし達は殆ど持ち合わせていない。

 

「ここがマギア・フォルシュタットか……」

 

 アクセサリー専門店〈マギア・フォルシュタット〉――パラベラム裏通りにひっそりと佇むそれは、他の店と異なり目立つ看板や暖簾などが一切無く、一見すると店と気付かず見逃してしまいそうだ。

 

「店ならもっと目立っててくれないかな。探すのに手間取ったぞ」

 

 とぼやきながら、わたしは店のドアに手をかけ、気付いた。

 

 外見は極めて地味だ。が、ドアに手を近づけた瞬間に感じた。微かに指先が震える。魔力だ。店の中に充満している魔力を、肌で感じ取ったのだ。この感覚は、不可知空洞(ダンジョン)に入るときと似ている。

 

 わたしは息を呑み、勇気を奮い起こしてそのドアを開け放った。刹那、籠もっていた魔力が風となってわたし達を扇いだ……ような気がした。

 

「無人……?」

 

 と、利人が呟いて言う。

 

 今までだったら、店に入ると同時に店主が出てきたが、今回は違った。

 

 店内は高い丸天井の中心に吊り下げられた水晶のシャンデリアが、青白い光を天井に投影している。壁には浮遊するようにショーケースが連なり、宝石や金属のカラフルな粒子(パーティクル)が宙を舞っている。だが、そのどこを見渡しても店主がいない。

 

 わたし達は店の中に足を踏み入れ、店内をあちこち見渡してみる。と、カウンターらしきテーブルの上に銀のベルが置いてあるのをわたしは発見した。形状は店などでよく見る呼出しベルに酷似。

 

「……押してみるか?」

 

「お先にどうぞ」

 

 わたしは慎重にベルに手を伸ばし、軽く、そっと押してみる。

 

「なんだ、ただのベルじゃねえか……」

 

 結果は、お馴染みのベルの音が鳴るばかりだった。

 

「ようこそ……アクセサリーをお探しで?」

 

「うおっ、びっくりした……」

 

 ベルがただのベルであったことに安堵していた隙を突いて、店主らしき男が突然、空間に染み出すように目の前に現れた。あまりに唐突な出現に、わたしは思わず変な声を出してしまった。

 

「ええと……あなたがここの店主?」

 

「ええ。ウィルソンです。どうぞよろしく……」

 

 店主、ウィルソンの印象は、無愛想な男という言葉に尽きる。銀の眼鏡をかけた黒衣の彼は、髪は整然と後ろで一つに束ねられ、細身ながらどこか威圧感がある。そしてなにより、顔の様子が真顔から一切変わらない。

 

「ああ、その……アクセサリーを見たいんだが」

 

 わたしは一瞬怖じ気づいたが、ここに来た目的を思い出し、勇気を振り絞って自分たちの要求を彼に伝える。

 

「どのようなアクセサリーをお望みかな」

 

「そうだな……わたしは射撃と魔法の支援系が欲しい。それから……」

 

「俺は近接戦向けの奴を。あと、他にも何かオススメがあれば見たいな」

 

 わたし達がそう伝えると、ウィルソンはゆっくりと頷き、無言でわたし達をショーケースの奥へと案内した。店の奥は表よりもさらに大量のアクセサリーが並べられており、その光景は店というよりも、倉庫だった。

 

「これは……見ろよ、京。金属が脈動してるぜ、コイツ」

 

 利人がショーケースにあったアクセサリーの一つを指して言う。

 

「魔力導通アンクレット〈赫鎧環(かくがいかん)〉。装着者の脚部魔力を瞬時に増幅させ、一瞬の踏み込みや跳躍力を爆発的に強化します。脈動して見えるのは、魔力回路を可視化しているためです――」

 

 と、ウィルソンが詳しく説明してくれる。

 

「――極めて強力ですが、制御を誤ると関節がイカれます。……試してみますか?」

 

「おお、恐ろしい。……万が一関節ぶっ壊したら、ここって救急車来るのか?」

 

「ここじゃなくてももう来ないだろ。魔物が全部ぶっ壊したんだから」

 

「私は高度な治癒魔法を扱えますので、問題ありません」

 

「そいつは素敵だな……。――まあでも、実際どうなんだ。難しいのか?」

 

「よほどセンスの無い方でなければ、まず大丈夫かと」

 

「フムン。……分かった。こいつを試させてくれ」

 

 一方でわたしの方はというと、棚の一番下に静かに置かれていた細いチェーンに目を留めた。

 

「これは?」

 

「〈静響のペンデュラム〉です。外気と魔力振動の干渉を記録・遮断……つまり、外部ノイズを排除する効果を持ち、狙撃時の精度や集中力を高めます」

 

 細い金糸に吊された球体に術式が刻まれており、これに魔力を流すことでそういった効果を発揮するそうだ。

「これを試しても?」

 

「結構。こちらにどうぞ」

 

 そうしてわたし達はさらに奥、〈試着室〉へと通された。そこは一般的な試着室と比べて余りに広大で、地平線さえ見えそうだ。

 

「お前からやってみろよ、利人」

 

「分かったよ」

 

 利人のアンクレットは両足首に装着して使用する。ウィルソンの説明では、使い方次第では短時間ではあるがホバリングさえできるそうだが、果たして。

 

「痛いのは勘弁してくれよ……」

 

 利人がアンクレットに魔力を通したのだろう。アンクレットの脈動が激しくなり、ほのかに赤く発光しているのが分かる。

 

「南無三!」

 

 次の瞬間、利人の足元から爆発的な風圧が発生した。彼は一瞬で数十メートルを移動し、それから大胆に宙を一回転して元の位置に着地した。

 

「い、生きてる……?」

 

「良かったな、痛い思いしなくて」

 

 ――さて、次はわたしの番だな。

 

 ペンデュラムを首に下げ、呼吸を整える。それから魔力をペンデュラムに注入。

 

 それまで首に下げたときの動きで揺れていた球体がすっと静止する。それから徐々に空間の音が消えていく。利人の声も、空調の重低音も、足音さえも――ただ、視界内の物体だけが、寡黙に存在していた。

 

 ――これが、〈遮断〉か……。

 

 わたしはひとつ息を吐き、球体を指で軽く弾いてみた。弾かれたそれはわずかに揺れ、しかしすぐに完璧な静止に戻る。まるで、時の外に在るかのように。

 

 ペンデュラムへ流れる魔力を止めると、再び人の声や空調音などが戻ってきた。いつもと変わらない空間認識だ。

 


 

 その後も幾つかのアクセサリーを試し、わたし達は最終的にそれぞれ三つ買うことに決めた。わたしは静響のペンデュラムと視穿のバイザー(狙撃時の精密照準補佐・視界補正等用)、追想のエンコードリング(対象への過去の魔力挙動を記録し、未来の行動を予測する)。利人は赫鎧環と戦咆のバックル(攻撃を最大限に通すための様々な機能がある)、刻打のフィストカフ(近接攻撃時に時間差の魔法打撃を付与する)。いずれもわたし達の戦闘を大いに補助してくれるだろう。

 

「あーあ……もうコインが底を尽きそうだ」

 

 ホテルの部屋に戻り、利人がクレジットカードを片手にぼやく。

 

「新装備で昨日の所を攻略すれば、払った以上のリターンがあるだろ。必要な投資だよ」

 

「それもそうだな。……一日中歩き回って疲れた。ゆっくり休んで明日に備えよう」

お読みいただきありがとうございます。


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