#01 Restart
毎日15時から20時の間に投稿予定
ホテル・グランドアジュール、カウンター。
「スーペリア二泊、二名一部屋で」
昨夜は割引やその後の資金などを様々考えて部屋を借りた。が、今夜はもうそのような体力がわたし達には残っていない。一刻も速く部屋のベッドに有り付きたいのだ。
「よいご滞在を」
コンシェルジェからルームキーを受け取って足早に自室へと向かい、荷物を放り投げてベッドに頭からダイブする。エグゼクティブほど上質ではないが、この疲れ切った身体にそんなことは些細な問題だった。ベッドの持つ弾力が包み込むようにわたしの肉体を受け止め、急速に緊張をほぐしていく。
「疲れた……もう動きたくねえ……が、お腹も空いた……」
と、横で利人が枕に顔を突っ伏したまま呪詛のようにボソボソと呟いている。
――わたしも動きたくない……が、飯を逃す訳にもいかん。
「ほら起きろ、行くぞ」
自力ではちっとも動こうとしない利人を羽交い締めにして引き摺り、わたし達は夕食会場へと向かった。
「しっかし、アイツは一体なんだったんだ……?」
と、利人が夕食のローストポークを頬張りながら喋る。アイツというのは、不可知空洞脱出後にわたし達を襲ったかと思いきや、今度は満身創痍のわたし達を魔法で回復してどこかに行ってしまった(恐らく)魔物のことだ。しかしいつまでもアイツだのソイツだのでは分かりにくいので、奴の容姿と行動から〈赤い狂戦士〉と呼称する。
「魔物も俺たちも見境無く攻撃してたよな、最初」
「ああ。フレンドリーファイアの線も考えたが、ありゃどう考えてもその範疇にはおさまらん。――今まで魔物が同士討ちすることあったっけ?」
「わたしの記憶が正しけりゃ、無い。連携こそ取れど」
「そもそも奴が魔物なのかさえ怪しい。人の怪我を治す魔物がいるのか?」
「分からんな」
結局わたし達が幾ら考えれど、話が一ミリも進むことはなかった。そりゃそうだ、何一つ情報が無いんだから。超能力者でもニュータイプでもXラウンダーでもない、ただ何の変哲も無い一人の人の子のわたし達にそんな状況で謎を解明するなど、無理な話だ。ホームズでもできまい。
「バザールの商人は……何か知っているかな」
「さあ……」
赤い狂戦士は無論そうだが、今のわたし達には他にも考えねばならないことがある。それは、戦闘能力の強化だ。不可知空洞、屍賛の地下霊廟の最深部でわたし達は歴史的な大敗を喫した。あのような屈辱の歴史を二度と繰り返さないためにわたし達が必要としているものはなにか。
「――敵を寄せ付けぬ圧倒的火力」
「EXACTLY」
さすが利人だ。わたしの求めている答えをよく理解している。
しかし、そうと一口に言ってもやり方は何通りか考えられる。まず一つは、レベル上げ。自身のレベルはもちろん、スキルや魔法のレベルを上げることで己の性能を底上げするのだ。しかしこれはすぐにはできない。この現実世界にチートMODというものは無く、地道に敵を倒してコツコツEXPを稼がねばならない。これは即効性がない。
次に仲間を増やすという方法だ。一人で殴るよりも二人、三人で殴った方が当然火力が出る。しかしこれも難しいだろう。この辺りで見かけた生存者といえばランダー大佐位で、しかし彼とははぐれてしまったし、他は全く以て見かけない。世界中を探せばどこかしらにはいるだろうが、わたし達には無理だ。
ではどうすれば良いか。答えはある。潤沢な装備に身を包むのだ。ひょろガリでもパンツァーファウストを持てばたちまち戦車をも食らう悪魔と化すのと同じように、低レベルでも高性能な武器を持てば火力の底上げが可能なのだ。
「確か装具専門店街がレベル10で解禁だったよな」
と、利人。
「ああ。だから明日、そこで装備を吟味しよう。不可知空洞攻略のおかげでコインはたんまりある」
装具専門店街パラベラム――きっと良い装備を出してくれるのだろう。
それから銀行も解禁されたので、そこにも寄ろう。口座を開設してコインを預金したり貸金庫を借りたりすることができるらしいと聞いている。現状は獲得したコインを全て鞄の中でジャラジャラさせているので、もうそうしなくていいようにしたい。
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