#08 最奥にて
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〈追跡者〉を打ち倒し、わたし達は第三階層へと下った。
第三階層は、それまでの細い回廊と小さい部屋が点点としている構造から一変し、大きく開けた空間に棺や柱などが整然と並んでいるエリアとなっていた。天井もずっと高く、もはや果てが見えない。星一つ無い夜空が無限に続いているように感じられる。
「ここで追跡者と出くわしてたらヤバかったな」
利人が軽く笑って言う。
閃光グレネードで影を消す戦法は、狭く遮蔽物の無いあの空間だったからこそできたものだ。ここではそれはできまい。
「どこに潜んでるか分からん。気を付けていくぞ」
と、わたしがそう言った側から、さっそく敵のお見えだ。アルガ・グール(グール・ハンターの上位種)が三体。レベルは10。先ほどの追跡者戦でわたし達はレベル10にアップしたため数値上は拮抗している。
「うわ、なんだアイツ、ビームライフル持ってるぞ」
と、利人が声を上げる。
アルガ・グールは三体とも得物を持っている。うち一体は小銃のようなものを構えており、そこから実弾ではなく、黄緑色のビームのようなものが放たれた。
「銃持ちはわたしが殺る。他を頼む」
「了解」
小銃を持ったグールはここから少し離れた高所を占位している。わたしは魔法〈疾風翔〉を発動し、大ジャンプ。一気に射手のもとへ距離を詰める。
――この天井の高さなら頭をぶつける心配はないな。
グールはわたしのその動きをしっかりと察知しているようで、わたしを撃墜しようとビームを何発も撃ってくる。
「ッ――防げると分かってても怖ぇな……」
ベルトに内蔵されたAMフィールド・ジェネレータに魔力を流し、AMフィールドを展開。敵の弾丸は魔力エネルギーの塊であるため、奴の射撃はすべてこれでシャットアウトできる。フィールドにぶつかった敵の弾丸がフィールドの面に沿って散らされ、消えていく。頭では理解しているが、嫌でも心臓が高鳴った。
オーブが射手の背後に回り込み、射撃。撃破完了。わたしが元々いた場所を見やると、利人の方も片が付いていた。
「これがコイツの銃か……」
わたしは倒したグールの持っていた銃を拾い上げ、観察する。
見た目は完全にスコープの付いたモシン・ナガンだ。だがレバーを引くことができないし、給弾部分も開けられない。
「自分の魔力をチャージして射撃するルーンライフルの一種……ね」
スキルの解析曰く。エネルギー弾は無属性。
「京、新手だ!」
利人の警告。顔を上げると、幾つかのビームがこちらに飛来してきていた。
「空からだと!?」
新手は予想だにしない、空中から襲撃を仕掛けてきた。アルガ・グールがコウモリ型の魔物に騎乗し、ルーンライフルで狙い撃ってくる。
「お前の武器じゃ対空は無理だ。わたしが撃墜するから、墜ちた奴を殺ってくれ。――丁度いい、コイツを試してみるか」
敵の射撃はAMフィールドに阻まれて通らない。対して敵はステータスを見る限り対魔法防御スキルや魔法を有していない。高所こそ占位されているが、状況は悪くはない。
銃を構え、スコープを覗いて照準を定め、撃つ。が、空を高速で飛行する目標に単発で当てるのは至難の業だった。偏差が遅すぎたり速すぎたりして、ただ弾が虚空を裂く。
――クソ、焦れったい! アレも使っちまうか……。
スキル〈高速演算処理〉発動。自分の思考能力を底上げし、最適な偏差を計算。そして射撃。
「一つ!」
命中。コウモリの胴体を貫き、グールの右脚ももぎ取った。コウモリは墜落し、土台を喪失したグールも重力に為す術無く落下する。
それから少ししてわたし達は敵を殲滅した。近くに敵の気配は皆無。
「これで先に進めるな」
と、利人。
「ああ。だが……ちょっと眠くなった気がするよ」
高速演算処理は発動中、睡眠ゲージを消費する。短時間の使用だったため使用量は大して多くなかったが、それでも減少速度は通常の比ではない。初使用ということもあり、どっと眠気が押し寄せて来たように感じる。
「ちょっと休憩するか……脱出するか?」
「いや、大丈夫だ」
それからわたし達は順調に第三階層も突破し、遂に最深部、第四階層へと到達した。なぜ分かるのかと言えば、この階層は一つの大きな部屋となっており、最奥にこの不可知空洞を形成する核が鎮座しているのが確認できたためである。
そしてその核の前には、それを護るボスとその取り巻き達が仁王立ちしているのだが、それが問題だ。
「嘆きの将ヴォッゴ、か。17レベル……圧倒的格上だな」
ボスはヘッドレスナイトの上位種、デュクス・ネクロシスの有名個体だった。しかもレベル差がかなりある。加えて取り巻きのヘッドレスナイトやその下位種ファントムソルジャーも皆高レベルであり、まともにやり合えば間違いなくリンチに遭う。
「その銃で一体だけ誘き出して叩けないかな」
と利人が提案して言う。
「どうだろう。一応ここは壁で少し入り組んでいるから、連れてこれればなんとかなるかな。ちょっと狭いけど」
「ヤバくなったら第三階層に逃げるか。奴ら、そこまで追ってこないよな……?」
「分からない」
念のために脱出用のフレアガンはいつでも撃てるようにしているが、果たしてどうなるだろうか……。
「試してみて、駄目そうだったら即脱出――これでどうだ?」
と、わたしは利人に言う。
「それでいこう」
物陰からそっとピークし、軍団からもっとも離れた取り巻きの一体を狙う。奴らとわたし達を隔てる壁は私から見て右側。右利きならこの状況でのピークはやりにくいが、わたしは両利きなので関係ない。
「暴れんなよ……暴れんなよ……」
ファントムソルジャーに対して射撃。命中。
「やった、釣れた――」
目論み通り、ファントムソルジャーただ一体だけがこちらに向かってきた……かに思われた。しかしその直後、ボスを除く他の取り巻きが一斉に咆哮を始め、こちら目掛けてまっしぐらに突っ込んできてしまった。
「まずい、逃げ――」
とわたしが言い終わる前に、目の前の壁が砂で作った城を蹴飛ばすよりも容易くぶち破られた。飛び散った石の破片が脇腹に激突し、激痛が電流のように走る。痛みでうずくまったところにファントムソルジャーの強烈な蹴り。下を向いたはずが一瞬で目線が天井を向き、視界が逆さまになって地面に落ちる。
「脱出、脱出だ!」
利人が叫んでいるのが微かに聞こえる。
――フ、フレアガンを……。
死を告げるような痛みを堪えながら腰に下げたフレアガンを手に持つ。直後、目の前にヘッドレスナイトの禍々しい黒の甲冑が視界を占領した。大きく足を上げ、わたしの胴体目掛けて振り下ろす。
身体がトマトのように弾けるかと思った。どんなすごい形容詞でも足りない程の激痛が腹から全身に走った。食べたものが逆流しそうになる。確実に一瞬意識が飛んだ。
「田吾作が……わたしは絨毯じゃねえぞ……」
震える腕をどうにか制御し、フレアガンをわたしを踏みつけるクソ野郎の土手っ腹に向けて発射。虹色にキラキラと発光するフレアが飛び出したと同時に視界が純白に包まれた。
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