#06 屍賛の地下霊廟-3
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「しっかし、何枚あるんだ、これ?」
と、宝箱の中を眺めながらわたしは言う。
「待ってろ、いま数える。君はコイン以外を調べてくれるか」
「あい分かった」
宝箱の中には、コイン以外にもアイテムが幾つか入っていた。わたしはそれらを取り出し、確認していく。
――この指輪はMP消費軽減効果があるのか。それからこれは、スキルディスクとな。スキルもこうして獲得できるんだな。
アイテムは全部で三つあった。一つはMP効率向上効果付きの金色の指輪。まだ総MPが潤沢とは言えないいま、これはありがたい。それからスキルディスクが二つ。形状はランダー大佐が持っていた魔法のものと似ているが、細部が異なる。
気になるその中身は〈斬撃耐性Ⅰ〉と〈高速演算処理Ⅰ〉。〈斬撃耐性〉はその名の通り斬撃によるダメージを軽減するもの。〈高速演算処理〉は自身の思考能力を強化するものだ。
今まで意識していなかったのだが、これまで獲得してきたスキルは全て”パッシブ”に分類され、常時発動している。一方で今回獲得した〈高速演算処理〉は”アクティブ”に分類され、任意のタイミングで自分で起動・終了する必要がある。またこのスキルは発動中睡眠ゲージを消費する。
――今までまったく気にしていなかった要素だったが、ここに来て気を使う必要が出てくるとはな。中には栄養ゲージや水分ゲージを消費するものもあるのか?
「コインは八○枚あった。そっちは?」
「こっちはこんなもんだ」
三つのアイテムについて利人に説明する。
スキルディスクには使用回数制限があり、それを超えて使用することはできない。今回入手したのはどちらも二回まで可能だったので、ちょうどどちらもスキルを獲得することができた。指輪は魔法主体で戦うわたしが装備。
それから行き止まりの部屋にあった階段を降りると、そこにはまた新たな空間が広がっていた。
ここ第二層(先ほどまでのエリアを第一層と呼ぶ)は、第一層と異なり非常に豪勢な造りとなっていた。一定間隔にそびえる柱には例外なく圧倒的な彫刻が施されており、また一定間隔で何かを護るように騎士の像が並んでいる。
「これは……ガラッと空気が変わったな」
上を見上げると、明らかに下ってきた階段の高度よりも天井の方が高い。ずっと見ているとだんだんと天に召されていきそうな気分になる。
「どうする、京。進むか?」
第一層で見つけた宝箱の中身でもう結構な量のコインを入手することができた。正直ここで引き返しても稼ぎとしては十分だろう。だが、せっかくタダで貰った脱出アイテムだ。
「進もう。行けるとこまで行ってみるベ」
「オーケー」
というわけでわたし達は第二層の回廊を現在進行形で歩いているのだが、どうにも様子がおかしい、と、わたしは感じている。
というのも、全くもって魔物に遭遇しないし、なによりもう結構歩いたはずなのに景色がちっとも変わらないのだ。
――もう第一層の端から端以上歩いたんじゃないか?
そのことを利人に打ち明けると、彼もまた同じような違和感を覚えていたそうだ。
「やっぱりなんか変だよな。まるで終わりが見えない」
と、利人。
「もしかして、同じ場所をぐるぐるまわってたり、する?」
「有り得る。何か目印置いてってみるか」
その場に目印としてコインを三枚、正三角形を形成するように並べて出発。すると、しばらくして前方に先ほど置いたはずのコインの目印が現れた。
「やっぱり、わたし達ループしてるんだ」
「畜生、面倒なことになったな。なんか抜け道ないのか?」
「床とか壁、天井、もろもろ注意深く観察しながら歩いてみようか。なにかヒントがあるかもしれん」
そういうわけでわたし達は景色をじっくりと舐めるように見回しながら歩いた。先ほど置いた目印は一応そのままにしてある。どこからどこまでで一ループになっているのかを確認するため。
「この壁画も相変わらずだな。地味に怖いんだよな、これ」
一ループの一箇所にでかでかと描かれた壁画。無数の目が描かれており、その目線はてんでバラバラだ。
「他の彫刻とかはめっちゃ美しいってのに、趣味の悪いこったな」
「あんま見てると夢に出てきそうだよ。――待て、こんな目、今まであったか?」
そのときだった。わたしはその壁画に一つの違和感を覚えた。というのも、無数の白黒の目に混じって一つだけ、青色の目が描かれているのだ。
「おかしいな。全部白黒だと思ってたが。利人はどう思うよ」
「うろ覚えだが、青い目なんて無かったと思うぞ」
怪しい。もしかしたらこれが、このループから抜け出すヒントやもしれん。
「この青い目だけ、反対の壁を見てるな。ちょっと調べてみようぜ」
「了解」
そう言って利人が壁画と反対側の壁に手を触れようとした、そのときだった。微かに壁にできた影が揺らいだかと思ったら、突然そこから真っ黒い鞭のような触手が飛び出してきた。
「うわッ、なんだコイツ――ッ!」
飛び出した触手はしなり、利人を打ち付ける。利人は咄嗟にシールドでガード。壁から距離を取る。
「敵だ! 追跡者って言うらしい」
黒い触手は再び影に潜った。
スキルは影から露出している間しか有効でないらしく、先ほどの一瞬しか見ることができなかった。が、名前と種族、レベルは確認することができた。名前は追跡者といい、種族は空欄。レベルは10だった。
「コイツ、他とは違うようだぞ。気を付けろ」
「クソ、面倒なのに絡まれたな」
どうやらコイツは、姿を現す瞬間、少しだけ影が揺らぐ。それをしっかりと捉えることができれば反撃も可能かも知れない。が、それを実行するにはこの空間が暗すぎる。特に天井なんかはほとんど光が届いておらず、闇だ。
「京、足元!」
利人の警告。見ると、わたしから伸びる影が揺らいでいる。
「しまった!」
出てくるであろう触手から距離を取るべくジャンプして後退しようとしたが、一足遅かった。影から伸びた触手に足を捕まれ、尻餅をついてしまった。そのまま回廊を引き摺られていく。
「京!」
「クソ、離しやがれ!」
オーブを飛ばし、影から伸びる触手に向かって突風弾を撃つ。が、あまり手応えがない。
脱出できないまま、触手が急に向きを変えた。思い切り身体が振り回され、壁に激突する。
「――ッ!」
触手は離れた。打撃耐性と痛覚軽減でなんとか立ち上がることができているが、もしこれが無かったらしばらくは動けなかっただろう。
――このままじゃ奴にされるがままだ。どうやって打開する……?
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