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#04 屍賛の地下霊廟-1

毎日15時から20時の間に投稿予定

「まさか報酬の受け渡しがこんな形とはな」

 

 と、利人が一枚の小さな紙切れをペラペラと揺らしながら言う。

 

 利人が手に持っているのは、ヘッドレスナイト討伐依頼達成によって得た報酬だ(報酬はタリスマンから依頼取扱センターという施設のカウンターに行き、依頼完了を報告することで取得できた)。報酬はEXPとコイン。EXPはそのままわたし達のステータスに反映されたが、コインが思っていたのと違った。というのも現物ではなく、小切手での受け渡し、もしくは銀行口座への振り込みの二択だったのだ。

 

 銀行はレベル10で解放され、そこで口座を開設しコインを預金したり貸金庫をレンタルしたりできる。正直全部のコインを常に持ち歩くのは大変だし、紛失したり他者に強奪されたりする可能性もあるのでこれはありがたい。

 

 一方で小切手で受け取った場合、こちらもコインを受け取るためには銀行に行って交換してもらう必要がある。また小切手を直接各施設での支払いに使うこともできる。釣り銭が生じる際は、各施設での会計時に釣り銭分の小切手が別途発行される。

 

 わたし達のレベルは9。したがって銀行はまだ開放されておらず、現状小切手を換金することはできない。もっとも、だからといって使えないわけではないのでその点は助かった。

 

「取り敢えずさっさとレベル上げて銀行開放しちまおうよ」

 

「そうだな」

 

 依頼の報酬についてはこの辺にしておいて、問題は”コレ”だ。

 

「またトビラ、だな……」

 

 壊滅したダウンタウン・ロサンゼルス内を探索している最中に見つけたそれ、トビラを眺めて利人が言う。

 

 このような状況は昨日の午前中にもあった。が、そのときと決定的に違う点がある。

 

「トビラからめっちゃ禍々しいオーラが漏れ出てる……。絶対にヤバいやつだな、これ」

 

 と、わたし。

 

 あのときはこんなおっかない感じは(警戒こそすれ)一切しなかった。だが、今目の前にあるコレは違う。

 

「君のスキルで何か分からないか?」

 

「やってみる」

 

 共通スキル〈情報分析専門家〉発動。分析対象、目の前のトビラ。

 

「屍賛の地下霊廟……不可知空洞……って言うのか、これ。推奨レベルは9……」

 

 スキル曰く、このトビラは〈不可知空洞〉という亜空間への入り口だそうだ。不可知空洞内は魔物が棲息しており、また各所にトラップが仕掛けられてあることもある。基本的に不可知空洞は幾つかの階層に分かれており、最深部には不可知空洞を形成する核と、それを護る番兵(センチネル)がいる。大変危険な空間である一方、レアなアイテムやコインなどが落ちており、取得EXPも通常より多く、ハイリスク・ハイリターンとなっている。内部構造は入る度に変化する。

 

「――ということだが……どうする、利人」

 

「よくありがちなダンジョン的なやつって訳だな。推奨レベルは、今の俺たちのレベルと一緒なんだっけ?」

 

「ああ」

 

 各不可知空洞には推奨レベルが定められており、そのレベル以上で臨むのが望ましい。

 

「気になるのは退路だ。『一回入ったら核をぶっ壊すまで出られません』じゃあちょっと気が引けるが」

 

「スキルが出した説明を見る限りじゃあ、なんとも。……商人に聞いてみるか?」

 

「そうしよう。それで行けそうだったら、攻略に役立つアイテムも買っていけるし」

 

 ということでバザールに行き、商人に話を聞いた結果、次のことが分かった。

 

 不可知空洞は原則、一度入ったら核を壊さない限り外に出ることはできない。しかしバザールで売っている〈帰還信号弾〉を撃つことで脱出することができる。価格は一発あたりコイン五十枚。信号弾一発で一人脱出可能なので、わたし達がどちらも脱出するには二発購入する必要がある。また信号弾を撃つための信号拳銃も別途要購入。価格は一挺辺りコイン二十枚。

 

 それを聞いたとき、わたしは思わずその価格に卒倒するところだった。が、商人曰く、事前に準備を整え、推奨レベルを満たしていればよほどのヘマをしない限り結構な稼ぎになるらしく、それを考えればこの値段設定は妥当なのだろう。稼ぐことだけを考えれば、敢えて核を破壊せず、信号弾分以上の稼ぎを得たところで脱出を繰り返すということもできる。

 

「――ただまあ、今回だけ特別にタダで差し上げましょう」

 

「いいのか?」

 

 商人の突然の言葉に、わたしは思わず聞き返した。横を見ると、利人も驚いた顔をしている。

 

「ええ。あなた方は昨日(さくじつ)から並並ならぬご活躍をされていますから。ささやかな気持ちですよ」

 

「ありがたい」

 

 最終的にわたし達は帰還信号弾二発と信号拳銃二挺の他に、閉所制圧用で破片手榴弾と魔物用デコイ擲弾筒を購入し、不可知空洞〈屍賛の地下霊廟〉へと足を踏み入れた。



 

「これが不可知空洞……」

 

 トビラをくぐり、後ろを振り返ると、そこにトビラはもう無かった。

 

 入ってまず目に付いたのは、何かの儀式に使われたのであろう祭壇だ。ところどころ崩れているが、概ね形を保っている。壁には古びた碑文だろうか、が整然と刻まれていた。

 

「伊達に地下霊廟って名前してねえな。サイコーの雰囲気だ。涼しいのも相まって」

 

 と、利人。

 

「取り敢えずこの部屋を出よう。といっても出口がⅡ箇所あるけど」

 

「こういうのは悩んでもどうにもならん。右に行こう。――いや、やっぱ左が良いかな……」

 

「一瞬で矛盾するなよ。馬鹿やってないで(はよ)う行くぞ。右でいいな?」

 

「冗談だ。行こう」

 

 最初に舞い降りた部屋、祭壇部屋を出ると、一本の回廊が続いていた。幅は二人の人間が横一列になって余裕で歩けるほど。壁には甲冑し剣を携えた人の像が彫られており、そのリアルな造形に今にも動きそうだ。

 

 霊廟内はじっとしていると、基本的に宇宙空間のように無音。時折ピチョンという水滴の滴り落ちる音や遠くで何かが蠢く気配がするが、よく耳を澄まさないと聞こえないレベルで、それ以外はわたし達の足音しかしない。

 

「部屋だ」

 

 回廊を少し進んだところで別の部屋が現れた。回廊を直進するか、部屋に入るかの分岐。

 

「中は……魔物が数体か。ステータスは?」

 

「待ってろ、今見る。――ノクトグールとヴェルムグールがそれぞれ二体と一体。レベルはどっちも8」

 

「また新しいグールか」

 

「グールの上位種だ。ノクトはスピード型、ヴェルムは寄生虫に乗っ取られてキショい毒タイプだ」

 

「なるほど。――クソ、気付かれたか」

 

 ヴェルムグールが首をぐりんと曲げてこちらを凝視。それから咆哮を上げて向かってきた。それに他のグールも追随する。

 

「仕方ない。殺るぞ」

お読みいただきありがとうございます。


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