#03 無頭騎士の急襲
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「――っと、傷は完治した。もう大丈夫だ」
そう言ってランダー大佐はその場に立ち上がった。
「それは良かった。便利なもんですね、これ」
「有るのと無いのじゃ状況が全く違う。私もこれが無ければ今頃どうなっていたか分からん」
やはり消耗品などに頼らない自力での治癒手段というのは偉大だ、とわたしは思う。
「それで、あなたはこれからどうするんですか」
「さて……どうしようかね。他の生き残り集団を探して彷徨うか、適当に魔物を狩って暮らすか」
どうやら明確な行動目標というものは無いらしい。
実際、通信インフラが崩壊したのか電話もインターネットももう機能していない――昨晩のうちにやられたのだろう――せいで、世界がどんな状況にあるのかがまるで分からない。つまり、これからの計画を立てるために必要な情報が極めて集めにくくなっているのだ。
まあそれはそれとして、わたし達以外にも魔物や魔法などについて理解している人を見つけることができたのは大きい。
「なあ利人、これから大佐と一緒に行動するってのはどうだ?」
そのような人を仲間にできれば心強い――そう思ってわたしは利人に相談して言った。
「いいんじゃないか? 人数はある程度いた方が色色やりやすくなるし」
利人は賛成。
「――そういうわけで、どうです、わたし達と一緒に行動するのは」
「君たちと、か。君たちは何か目的があるのか?」
「まあ一応、あの風車を壊しにいこうかと。できそうなら、という条件付きですけどね」
「フムン。まあ行く当てが無いし、それも――ゴホッ、ゴホッ!」
唐突にランダー大佐が前屈みになって咳き込んだ。
「大丈夫ですか」
「ああ、心配ない。つばが変なところに入っただけだ。話を戻そう。何の話だっけ」
「わたし達と一緒に行動してはどうかって話です」
この人、色色と心配だ。一瞬前の会話を忘れるとか。
「そうだそうだ。そうだな、それも――」
とランダー大佐が言いかけたそのときだった。突如としてわたし達が立つ側の壁に何かがドスンと勢いよくぶつかったような音がした。
「なんだ!?」
見ると、横の壁に巨大な亀裂が生まれている。今の衝撃で入ったらしい。さらに立て続けに何かがぶつかってくる。
「二人とも壁から離れろ!」
利人が叫ぶ。
わたしは直感で回れ右をし、壁から離れ、利人の方に向かって走り出した。その直後、勢いよく壁がぶち破られた。
「うわ――ッ!」
その衝撃を背後からもろにくらい、前方に転がる。
「大丈夫か」
利人がアルカノシールドを展開し、飛び散った破片からわたしを庇って言う。
「大丈夫、転んだだけ」
そう応えながら利人の手を借りて起き上がり、強引に入室してきたであろう者の正体を見る。
「あれが……ヘッドレスナイト……」
侵入してきたのは魔物、三体。いずれも漆黒の甲冑に身を包み、しかし首から上が無い。また一体は派手な鎧を装着した、これまた首の無い馬にまたがり勇壮な槍を携えている。
――騎馬の方はヘッドレスキャバルリーというのか。ヘッドレスナイトの上位種だ。
ヘッドレスキャバルリーの外見は、ランダー大佐が見たという有名個体のそれと一致している。が、目の前のコイツに固有名は無いし、何より種族名が異なる。
――大佐が見た奴ではないのか。
「来るぞ!」
利人が言う。
ヘッドレスナイト二体はわたし達に、ヘッドレスキャバルリーはランダー大佐の方に向かっていった。
「私のことはいい! 自分の身を優先しろ!」
魔物たちの影からランダー大佐の声が聞こえてくる。
――言われなくとも……悪いが、大佐を心配している暇は無ぇ。
ヘッドレスナイトはどちらも剣と盾を装備しており、剣を振り回したり盾を構えた突進を繰り出したりしてくる。体格はわたし達より一回り大きいし、何よりその重厚そうな見た目に反して素早い。そんな奴の攻撃をいなしながら離れたところの他人を気にしていたら、あっという間にコイツらと同じ身体になっちまうだろう。
「俺はコイツを殺る。京はそっちを頼む」
「了解」
ヘッドレスナイトは各個撃破の構え。レベルは8でわたし達と同等、最上位個体でも有名個体でも無い。素早いが、集中して挑めば勝てない相手ではなさそうだ。
「来い落ち武者野郎、二度目の討ち死にを体験させてやる」
コイツが実際に戦死してこうなったのかは知らんが、この際そんなのはどうだっていい。
ヘッドレスナイトは一貫して剣や盾による攻撃を繰り出してくる。わたしが距離を取ると追いかけて来るばかりで、遠距離攻撃はしてこなかった。ステータスを見る限りでは魔法を幾つか所有しているので手段自体はありそうだが。
――だがまあ、してこないなら好都合だ。
わたしはヘッドレスナイトから距離を取り、遠距離からの魔法攻撃に徹した。といっても昨日とは違ってオーブが単独で動けるので、離れているのはわたしだけで、魔法を発動するオーブはヘッドレスナイトからさほど離れてはいない。
ヘッドレスナイトは一生懸命にオーブを墜とそうと剣を振り回すが、小さい上に機動性が高いそれに剣を当てるのは奴にとって至難の業のようだ。また奴がオーブに気を取られている隙に背後に回り、自分の手から直接魔法攻撃を与えたりもして翻弄していく。
――いいぞ、この調子だ。
鎧や盾に阻まれて思うようなダメージは入らないが、それでも着実に奴のLPを削っている。一方でヘッドレスナイトはわたしとオーブによる連係攻撃に翻弄され、わたしにただの一撃も与えられていない。
――これでトドメだ!
とうとうヘッドレスナイトは何もできないままLPが尽き、その場に倒れて果てた。戦闘はわたしの完封勝利に終わった。
「さて利人の方はっと……」
見ると、互角に剣でやり合ってはいるが、どうにも攻め切れていない。ヘッドレスナイトのLPがあまり減っていない。
――奴のスキルを見ると、高レベルの対物理攻撃耐性スキルを幾つも持っている。物理攻撃主体の利人には相性が悪い。
わたしが相手していた方は利人の方ほど耐性スキルを持っていなかったので、これは個体差なのだろう。そして運悪くより物理耐性の高い方が利人と当たってしまった。これは大きな反省点だ。
「利人、下がれ。わたしが殺る」
そう利人に言いつつ、オーブを飛ばして魔法攻撃を食らわせていく。
ほどなくして二体目のヘッドレスナイトも倒れ、戦闘は終結した。
「すまん、手こずった」
「いや、コイツの方が物理耐性スキルの性能が良かった。相性が悪かったんだよ。わたしがもっと素早く敵情を分析していれば良かった」
だがまあ、何はともあれ危機は去った。が、ランダー大佐の姿が見えない。彼を追っていったヘッドレスキャバルリーの姿も。
「大佐、うまくやれているといいが……」
EXPとコインを獲得し、依頼も達成して報酬も得た。が、大佐とは結局はぐれてしまった。
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