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#09 Soirée-1

毎日15時から20時の間に投稿予定

 タリスマンを取り出し、起動する。

 

「よしよし、ちゃんと解禁されてるな」

 

 タリスマンは表に各施設を表す彫刻がそれぞれ彫られてあり、自分の魔力にあてて起動すると解禁された施設だけが緑色に発光する仕様となっている。今はバザールとホテルが解禁されているので、その二つが発光している。

 

 ホテルの彫刻に指をかざして魔力を流す。と、目の前に、初めて魔物を倒したあのときと同じトビラが音もなく出現した。

 

「入ろう」

 

 あのときは罠ではないかと警戒しまくっていたが、正体を知った今はもう違う。自分からトビラに手をかけ、開けて中に入った。


 


 ホテルに入ってすぐ、わたし達は静謐な空気に包まれた。微かな白檀の香りがそれまでの緊張を瞬きの間にほぐす。思わず先ほどまでの大変な事件が嘘であるかのように感じた。

 

「これは……」

 

 入ると、まず正面にフロントが見えた。エントランスからそこまでは真紅の絨毯がひかれている。それから上を見上げると、豪華なシャンデリアが煌煌と、且つ柔らかに輝いていた。降り注ぐ光は鑑と見まがうほど美しく磨き上げられた大理石の床でほのかに反射され、この空間に深みを与えている。

 

 聴覚がもたらす情報に集中すると、穏やかでありつつも上品なクラシックが控えめに流れている。白檀の香りと相まってさらにわたし達の心をリラックスさせていく。

 

 聖母のように包み込む安堵感と格式の調和が、ここには在った。

 

 ロビーに敷かれた絨毯の上を歩き、フロントデスクに行くと、黒のイタリアンなスーツに身を包んコンシェルジェコンシェルジェが柔らかい微笑みと共に話しかけてきた。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、ホテル・グランドアジュールへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「今夜宿泊したいのですが」

 

 利人が受け答えをする。

 

「かしこまりました。ただいまお調べいたしますので、少々お待ちくださいませ」

 

 そう言うとホテルマンはデスクのコンピュータを操作し、程なくして再びこちらを向いた。

 

「お待たせいたしました。現在ご利用いただけるお部屋はエグゼクティブ、スーペリア、スタンダードの三種類となります。それぞれの特徴についてご案内いたしましょうか?」

 

「お願いします」

 

 ホテル・グランドアジュールが用意している客室には五段階のグレードがある。もっともリーズナブルなグレードから順にスタンダード、スーペリア、エグゼクティブ、セミスイート、スイートである。このうち現在利用できるのはエグゼクティブまでで、セミスイート以上はまだ準備中だそうだ。

 

 スタンダートはもっとも安価かつシンプルな客室だ。部屋の広さは二五○平方フィート程度。浴槽は無くシャワー室のみで、朝食付き。

 

 スーペリアもシンプルな方ではあるが、スタンダードよりも充実している。スタンダードから広くなり、ユニットバス完備。スタンダードよりも上質なベッドに朝晩の二食が付く。

 

 エグゼクティブからはフロアがスーペリア以下の一般フロアと異なり、ラグジュアリーフロアとなる。エグゼクティブは六○○平方フィートの部屋に上質な家具と寝具、広めの浴槽付きバスルームが揃えられ、絶品の二食と夜には酒が付く。

 

「――それから料金についてですが、スタンダードがお一人様あたりコイン四枚、スーペリアが一○枚、エグゼクティブが四○枚となります。しかし当方ではただいま初回限定キャンペーンを実施しておりまして、初回の宿泊に限り半額となります」

 

 それを聞き、全て半額とはずいぶん太っ腹なことをするな、とわたしは思った。

 

「半額か……どうする、京」

 

「そうだな……せっかく半額なんだ、奮発してエグゼクティブでもいいんじゃないか?」

 

 半額という言葉が持つ魔力の威力は絶大だ。それに、今わたしは格上の強敵を倒したという達成感でちょっと浮かれているのかもしれない。

 

 だがまあ、これくらいいいだろう。あんだけ大変な目に遭い、それを乗り越えたんだ。これくらいのご褒美があったっていいだろう。

 

「それもそうだな……モルヴァス戦でコインもたんまり手に入ったし。――エグゼクティブの二人部屋で」

 

「かしこまりました。エグゼクティブルームはコイン三○枚となります。お支払いはチェックアウトの際にお願いいたします。――では、こちらにサインをお願いします」

 

 そう言ってフロントマンが用紙とペンを差し出した。

 

 利人が自分の名前を記入し、フロントマンに提出する。

 

「ありがとうございます。では、こちらがルームキーとなります。ラグジュアリーフロア六階、六○二号室、エレベーターはロビー奥にございます。お部屋はオートロックですので、ルームキーをお部屋の中に置いたまま外出なさらないようお気を付けください」

 

「ありがとうございます」

 

 利人がカード状のルームキーを受け取って言う。

 

「お荷物のお手伝いは必要でしょうか?」

 

「いえ、結構」

 

「承知いたしました。ご滞在中、何かご不明な点やご要望がございましたら、フロントまでお申し付けください。――どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」

 

 フロントマン、微笑みながら一礼。



 

 案内された道を通り、わたし達は部屋に到着した。

 

「エグゼクティブルーム、どんな部屋なんだろうな」

 

 と、利人が言う。

 

 わたしも利人も、今までそんなグレードの高い部屋に泊まった経験はない。

 

「きっと一面金ピカなんじゃないか?」

 

「まるで成金の部屋だ、そりゃ」

 

「実際成金状態だしな。コインが紙幣だったらそれで暗がりを灯せるのに」

 

 などと馬鹿みたいな話をしながらドアノブに手をかけ、入室。

 

 入るとまず、ちょっとした廊下が出現した。これだけでわたしにとっては予想だにしない展開だ。壁にはシックなアートフレームがかかり、照明はウォールランプの間接照明。

 

 廊下を抜けていよいよメインの部屋に入る。と同時にわたし達はある一言しか発せなくなった。

 

「OH……MY GOD……」

 

 驚くべきことに、部屋内はリビングスペースとベッドルームに分けられていた。見ただけでもフカフカと分かるベッドにコーヒーテーブル。小さいラウンジエリアもある。照明はウォールパネル式で、カーテンは電動。

 

「利人、こっちに来てみろよ」

 

 リビングスペースだけでも十分快適に過ごせそうだが、さすがはエグゼクティブルーム。ベッドルームも抜かりない。

 

 二人どころか四人くらい寝れそうなツインベッドが中央にドンと構えており、その脇には大理石のナイトテーブルと、その上にモダンなスタンドライトが置かれている。

 

「思い出すな……去年京が俺の家に泊まりに来たときのこと」

 

「ああ、あんときか」

 

「そうそう。一人用のベッドで無理矢理二人して寝た……はずなのに起きたら俺は床にいた」

 

「で、わたしはベッドの上で大の字ときた。――これなら二人で大の字になっても問題ないな」

 

「違いない」

お読みいただきありがとうございます。


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