#08 狂王-3
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地面から立ち上る黒炎の柱、毒霧、悪い見晴らし――それだけでも大変な状況であるのに、そこにモルヴァスが容赦なく猛攻を仕掛けてくる。
「奴はこれでも俺たちがハッキリ見えてんのか!?」
利人が愚痴って叫ぶのが聞こえる。
いつ、どこから奴の攻撃が飛んでくるか分からない。それまでのように避けるのはほぼ不可能。防御するしかない。
――〈風障壁〉があって助かった。無かったら一巻の終わりだった。
風属性の防御魔法〈風障壁〉。風エネルギーを壁状に展開して敵の攻撃をはね返す魔法だ。まだ低ランクということでモルヴァスの攻撃をはね返せるほど強くはないが、しかし障壁衝突時に攻撃が幾分か減速するため、避ける時間を稼ぐことはできる。
――しかし、このままじゃジリ貧だ。
また〈疾風翔〉で跳んで逃げるか。この霧から出られればまだやりようはあるだろう。
「利人!」
モルヴァスの攻撃の合間を掻い潜って利人に接近し、しっかりとその身体を掴む。
「跳ぶぞ。掴まってろ」
〈疾風翔〉発動。天高く大ジャンプし、高速でその場を離れる。
「霧はこの辺までか……」
着地し、息を整えながら利人が呟く。
「アイツは追ってくるかな」
「追ってくるだろう。確実に」
「でも奴のLPは残りわずかだ。霧の外に引き摺り出せれば勝機はある。それに、さっきいいモノを見つけたんだ」
「いいモノ?」
「こっちだ」
そう言ってわたしは死んだ州兵の方に行く。そこにモルヴァスに引導を渡せそうな武器が一つ、転がっているのをわたしは見つけていた。
「まさか、このジャベリンのことじゃないだろうな」
「そのまさかだ」
FGMー148ジャベリン――歩兵携行式多目的ミサイル。装甲目標や建築物、野戦築城、ヘリに至るまで様々な対象への攻撃能力を有したこれならば、きっとアイツの残LPを根こそぎ削り取ることができるだろう。
「撃ち方は分かるのか?」
「ああ、大丈夫――っと、来たか」
モルヴァスが霧を抜けて迫る。
「俺が奴の気を引く。あとは頼んだぞ」
「任せろ」
利人が前に出、魔法などでモルヴァスを挑発してわたしから遠ざけていく。
その間にわたしはジャベリンの発射準備。
「CLU電源は……これか」
コマンド・ローンチ・ユニットの電源を入れて起動。それから赤外線シーカーでモルヴァスを補足、ロックオン。射撃モード設定、ダイレクトアタック。忘れずにミサイルに魔力を付与する。
――利人はモルヴァスと一定の距離を保ってくれている。フレンドリーファイアの心配は無い。
ジャベリン、発射。タンデム成形炸薬弾頭を搭載したミサイルが発射管から射出される。射出されたミサイルはある程度進んだところでロケットブースターに点火、加速。モルヴァスをしっかりと補足し、勇敢に飛んでいく。
「BINGO!!」
ミサイル命中。ミサイルは利人に完全に気を取られていたモルヴァスの背中に突き刺さり、炸裂。モルヴァスの胴体が真っ二つになってその場に崩れ、沈黙した。
発射管を肩から下ろし、駆け足で利人の方へ向かう。
「やったぞ、京。俺たちは勝った!」
利人が死んだモルヴァスがドロップしたコインを掲げ、満面の笑みを浮かべて言う。
狂える王モルヴァスを倒したことで、またタイプライタを打つ音と共に様々な通知が頭の中を流れる。レベルアップ、スキルレベルアップ、魔法ランクアップ、エトセトラ、エトセトラ。
〈レベル上昇:4 → 8〉
〈スキル獲得:〈血染めの冠Ⅰ〉〈鉄拳制裁Ⅰ〉〈毒耐性Ⅰ〉〉
〈スキルレベル上昇:〈魔法入門Ⅳ〉→〈魔法入門Ⅶ〉
〈緊急回避Ⅲ〉→〈緊急回避Ⅵ〉
〈打撃耐性Ⅲ〉→〈打撃耐性Ⅵ〉
〈格闘 Ⅲ〉→〈格闘 Ⅵ〉〉
〈魔法獲得:〈狂嵐撃波Ⅰ〉〉
〈魔法レベル上昇:〈風弾 Ⅴ〉→〈風弾 Ⅹ〉 昇格:〈突風弾Ⅰ〉
〈一刃の風Ⅲ〉→〈一刃の風Ⅷ〉
〈風針 Ⅱ〉→〈風針 Ⅴ〉
〈疾風翔 Ⅰ〉→〈疾風翔 Ⅴ〉
〈風障壁 Ⅰ〉→〈風障壁 Ⅵ〉〉
〈トロフィー獲得:〈有名税〉〉
格上の敵且つグールの最上位種且つ有名個体ということでもらえるEXPが多く、一気にいろんなものが飛び級のようにレベルアップした。特にレベル5を超えたことでコンチネンタルーオーダー・グループの施設の一つ、ホテルが解禁されたことと、メインウェポンの〈風弾〉のレベルがカンストし、上位魔法に昇格したのは大きい、と、わたしは思う。
それから新規獲得のスキルについてだが、なかなかに物騒な名前のものが二つある。
〈血染めの冠:敵を倒す度にLP及びMPが3%回復する。〉
〈鉄拳制裁:総LPが残り一割以下の敵に与えるダメージ+10%。〉
「まるで自分が化け物になったみたいだな、これを見ると」
「同感だ」
と、苦笑して言う。
まあ、名前はともかくその効果はなかなか優秀ではなかろうか。特に回復系の魔法やスキルが無い今、〈血染めの冠〉の回復効果はありがたい。
またトロフィー〈有名税〉はどうやら有名個体の撃破が獲得条件だったようだ。さらにこれは単なる称号、トロフィーではなく、ボーナス効果も付いている。内容は有名個体への与ダメージ向上。具体的な上昇値や割合は分からなかったが、今後また有名個体と戦わねばならないことになった場合には役に立つだろう、きっと。
「そういやコインは全部で何枚ゲットしたんだ?」
と、わたしは利人に聞く。
「ええと、ちょっと待ってな。今数える」
そういえばモルヴァス戦中に倒したグールたちが落としたコイン、まだ回収していなかったな。今のうちに回収してくるか。
「数え間違いが無ければ一二○枚だ」
と、利人が報告する。
「途中で倒したグールのが全部で六四枚だから……凄いな、こりゃ。大儲けだ」
強敵だっただけあって、報酬がうまい。これなら苦労して倒した甲斐があるってもんだ。まあ、だからといってまた真正面からあんなのと殺り合いたいかと聞かれればNOだが。
「しっかし……もうクタクタだ。今日一日で一ヶ月くらい経った気分だ」
と、利人が倒したモルヴァスの死体に寄り掛かり、両腕をうんと伸ばして言う。
確かに、今日は激動の日だった。朝家を出たらこの騒動が始まり、魔物に襲われ、魔物と殺り合い、遂には格上の敵まで倒した。一日だけとは到底考えられない仕事量だ。
「レベルアップで疲労もとれればいいんだがな」
レベルアップでLPとMPは全回復するが、それで腹が満たされたり疲れがとれるということはない。
「さっそく解放されたホテルに入ってみようぜ。日も暮れるし」
と、わたしはタリスマンを取り出して言う。
「そうしよう」
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