#07 狂王-2
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――グレネード弾様様だな、こりゃ。
向かってくるグールの群れに適当にグレネード弾を撃ち込んでいるだけで、通常のグールはほとんど殲滅できた。MP消費も、あのまま魔法メインで戦って殲滅するよりずっと抑えられていると思われる。
――あとは上位種だけか。
最終的にグレネード弾の乱射を生き延びたのはグール・リーパーが二体とグール・ハンターが一体だけだった。もちろんそいつらも無傷ではなく、どいつもLPが半分以上削れている。
――利人の方は……うまくやれてるようだな。
わたしと利人は互いのステータス・ウィンドウを常時共有している。そのためいつ何時であっても相手のステータスを確認できる。現在モルヴァスを利人一人に任せてしまっているが、ステータスを見る限り、まだ窮地には陥ってはいない。
――とはいえ、いつ何が起こるか分からん。早早にこちらを片付けてあちらに再度加勢しなければ。
ハンターは一度殺り合っているのでどういう奴かは判明している。対してリーパーは利人一人で倒したためわたしは実際に戦ってはいない。もっともその後にリーパーについて利人から教えて貰ったので……まあなんとかなるか。
リーパーはその痩せこけた、一見貧弱そうな体型からは想像も付かないパワーとスピードを発揮する。痩せているように見えるのは非常に高度に洗練された筋肉の付き方によるものであり、そこに一切の無駄がなく、貧弱とは正反対の位置にいる。
それからリーパーには特に注意すべき点が二つある。
まず一つ目が、ある程度自在に変形できる前腕部だ。骨を変形させて鎌状にしたり爪を鋭く長くしたりすることができる。いずれもその切れ味が脅威だ。
それから二つ目が強靱な顎。グールから口内が発達して鋭い牙が生えており、肉を噛み千切ることに秀でている。噛みつかれた暁には大怪我は免れないだろう。
まずハンターが真正面から向かってくる。腕を大きく振りかぶり、殴りかかるつもりだ。わたしはその腕を掴んでいなし、後頭部に至近距離で風弾をお見舞いする。ハンターのLPがゼロになり、沈黙。
その直後、リーパー二体が息を合わせたように二方向から挟み撃ちを仕掛けてきた。腕を鎌状に変形させている。
一体目の攻撃が到達する。こちらも腕を大きく振りかぶり、真上から鋭利に仕上がった鎌を振り下ろしてくる。それをバックステップで回避。下がりつつ風弾を射撃――といきたかったのだが、リーパーたちはまさかの行動に出ていた。
――こいつら、連携できるのか!?
わたしが下がったところを狙ったかのように、二体目のリーパーが飛び込んできた。口を大きく開け、口内の牙がよく見える。食らいつく気だ。
「クソ――ッ」
二体目の攻撃を避けるために無理矢理身体を動かしたため、体勢を崩してしまった。着地に失敗し、地面を転がったところへ一体目の鎌が迫る。
わたしは咄嗟にそれを杖で受け止めた。刃が杖を半分ほど斬り、止まる。間一髪、防御に成功。が、そのせいで杖に内蔵された魔力回路が破損してしまった。
「ええい、邪魔だ!」
このまま強引に押し切るつもりか、止められてもなお鎌を押しつけてくる。それを耐えつつ足に魔力を込め、のしかかるリーパーの腹を蹴り上げた。スキル〈格闘〉と魔力によって威力が底上げされたお陰か、リーパーはあっさりと吹き飛ばされてくれた。
が、安心してはいられない。すぐに別個体の攻撃が来る――などと考えているうちに、そら来た。今度は噛みつき攻撃ではなく、鋭く伸ばした爪による刺突攻撃。
――甘い。
単純な突撃は左右に移動することで簡単に躱せる。そのままリーパーの背後に回り、後頭部に拳銃のゼロ距離射撃。一体始末完了。
今度はもう一体が姿勢を低くし、左右から両手の鎌で挟むように向かってくる。ジャンプで回避し、空中で一回転しつつ抜けていくリーパーを撃つ。
弾丸がうまくヒットしたようで、もう一体も沈黙した。グール殲滅完了。
――利人の方に加勢せねば。
そう思って彼のいる方に向かおうとした、そのときだった。
モルヴァスが天を仰いで叫んだのちに地面に突っ伏し、動かなくなった。一瞬利人が倒したのかと思ったが、ステータスを見るとモルヴァスのLPはまだ半分ほど残っている。
「利人、下がれ! まだ死んでない!」
何か嫌な予感がし、わたしは咄嗟に利人にそう警告した。
「何だって!?」
利人がモルヴァスに注意を向けつつこちらに向かって来、合流する。
「まだLPが残ってる」
「マジかよ。結構削ったと思ったんだが、タフな野郎だ」
モルヴァスの周囲に黒い霧が立ちこめ、奴を覆い隠す。霧には魔法を防ぐ効果があるのか、風弾を撃って見たが霧にぶつかると同時に攪乱されてしまった。それからバキバキと骨が豪快に折れるような音が響き渡った。それから霧が晴れ、異形と化したモルヴァスが姿を現した。
「おいおい、なんだよそれ……」
顔面は完全に崩壊し、一つの目と口を残してなんとも形容しがたい骨と肉の塊と化した。口からは二本の巨大な牙が露出している。右肩から右腕は極度に肥大し、左腕は鋭い鉤爪と成り果てた。
「来る!」
さっきまでよりも断然速い。間合いを一気に詰め、巨大な腕と左腕の鉤爪を滅茶苦茶に振り回してくる。そこにはもう戦術などというものはない。圧倒的なパワーとスピードによる力押しだ。が、そのために法則性が弱く、次の動きが読みづらい。
「激しい――攻撃の隙が無いぞ」
不規則な動きもそうだが、もう一つ厄介な点がある。それが、奴が度々吐く黒い炎のブレスだ。これは避けること自体は、ブレスの速度が遅いため容易だ。ただ、着弾地点にしばらく残留して燃え続けるという特徴がある。これによってわたし達の移動可能範囲が制限されてしまうのだ。
もっともブレスを吐く際には他の攻撃が一切止むようで、攻撃チャンスでもある。ブレスの残留だらけで身動きが取れなくならないようこまめに戦場を移動させながら、ブレスを吐くタイミングでわたし達は攻撃を仕掛ける。
第二形態になって防御力が向上したのかダメージが入りにくくなったが、焦らず地道に削っていく。そしてとうとうモルヴァスのLPが残り一割ほどとなったそのときだった。
突如としてモルヴァスが咆哮。それと同時に地面から幾つもの黒炎の柱が立ち上り、辺りに黒い霧が充満しだした。
「クソ、まだ手札を持ってやがったか」
この霧、視界が悪くなるのもそうだが、何よりわたし達のLPがわずかだが、少しずつ減っていく効果があるようだ。それに霧が蔓延してから少し息苦しさも感じる。
――これは速いとこケリを付けないと……長引くほど状況が悪くなる。
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