#04 Iron Foot
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レベルアップしたときにスキルポイントも手に入っていたようで、わたしはそれで〈基本魔法特性〉を、利人は〈俊敏な動き〉を取得した。
〈基本魔法特性〉は術式構築速度を速くし、消費MPを軽減させるスキルだ。一方〈俊敏な動き〉は反射神経とバランス感覚を強化する。それぞれわたしと利人の戦闘スタイルにマッチしたスキルだろう。
――この〈一刃の風〉ってどんな魔法なんだろう。
先ほどのレベルアップ時に獲得した新魔法。字面と説明を読む限りは斬撃系の魔法のように見えるが。
「試しにあそこの街路樹に向けて撃ってみたらどうだ?」
と、利人が道路の反対側に生えている木を指さして言う。
「そうだな、やってみよう」
回収した杖を構え、術式構築。〈一刃の風〉発射。すると〈風弾〉の弾丸状ではなく、婉曲した鋭い刃のようなものが射出された。弾速は〈風弾〉よりも速め。命中し、木の幹を半分程まで斬り、消滅した。
「どうだ?」
「まあ、風弾よりは使いやすい……かも?」
消費MPは〈風弾〉と変わらない。威力は、そもそも弾丸状と刃状ではあまり比較しようがない。だが、使えないということは無いだろう。
それからはひたすら大通りに沿って歩いた。時間にしておよそ一時間ほどか。魔物が近くにいたり襲われることもあったが、そのたびに倒したり、状況が不利な場合は別な道を迂回したりした。
「……疲れた」
と、わたしが呟く。
ただ歩くだけだったらまだマシだっただろう。だが魔物に細心の注意を払いながらとなると余計に疲れる。主に精神的に。また道を何度か迂回したことで余計な距離を歩かされるハメにもなった。
「やっぱり車が壊れたのが痛いな……」
「どっかに良い感じの車放置されてないかね。こんな状況だし、探せば一台くらいあるんじゃないか?」
「そうだなあ……あれはどうだ?」
と、利人が前方を指さして言う。そちらを見ると、飲食店の駐車場に車が数台留まっていた。
「……見てみるか」
留まっていたのは三台。一台は黒のセダン、二台はコンパクトなSUVだった。が、近くにグールがいる。
「その前にグールの排除だな」
グールを排除し、改めて車を見てみる。
「まあ……そううまくはいかないか」
利人がため息交じりに言う。
二台は鍵が掛かっていてドアが開かなかった。窓ガラスも閉まっている。一台は鍵こそ開いていたが、肝心のキーが無く、イモビライザー搭載のためホットワイヤリングもわたし達の知識ではできそうになかった。それに、下手に弄って警報が鳴れば魔物がワラワラと寄ってくるだろうし。
「しゃーない。諦めて他を当たろう――なんだ?」
その場を去ろうとしたとき、わたしはどこからか泣き声が聞こえた気がした。
「どうかしたか?」
と、利人。
「いや……今、赤ん坊の泣き声がしたような」
「赤ん坊の泣き声? ――ああ、確かに、何か聞こえるな」
利人も気付いた。ということはわたしの気のせいではないらしい。
「あっちのほうだ」
この辺は家が多い。どこかの家で取り残された赤ん坊がいるのかもしれない。
それからわたし達は泣き声のする方向を探り、遂に音源の場所を見つけた。いまわたし達がいる飲食店の隣の民家、ここから微かに聞こえてくる。
「入ってみるか?」
と、利人。
「そうしよう」
もし本当に逃げ遅れがいて、それを見捨てたとなれば今日の寝心地が悪くなりそうだから。
「お邪魔しますよーっと」
玄関の鍵は開いていた。そっとドアを開け、中に入る。
家の中はそこら中に血痕が付いていて地獄絵図だった。
――本当にこんなところに赤ん坊が?
リビングに入ってみると、フローリングに人と魔物、ピグミーオークの死体がそれぞれ一体ずつ並んでいた。ここで殺り合ったのか、現場を発見した誰かが仕留めたのだろうか。
壁を見ると、細かい弾痕が多数あった。恐らく魔物に散弾で立ち向かったのだろう。だが肝心の銃は落ちていない。とするとやはりこの仏様とは別の誰かが魔物を倒したんだ。
「この魔物、仮死状態だ。まだ死んでない」
この魔物のステータスを見て良かった。出なければいつ復活されるか分かったものでない。
「俺が仕留める」
そう言って利人が倒れた魔物の脳天に剣を突き刺した。魔力の込められた攻撃を受けたことで魔物は絶命した。コインが死体の付近に出現する。
赤ん坊の泣き声は二階から聞こえてくる。この辺りにはいない。
そう思って二階に向かおうとした、そのときだった。「ギャ!」という短い断末魔のような声が聞こえたきり、赤ん坊の泣き声がぴったりと止んでしまった。
――まさか!
わたし達は急いで階段を駆け上がり、全部の部屋を見漁っていく。そして遂に、見つけた。こちらにそっぽを向いて何かを貪っている魔物、ゴブリンを。
「コイツ――ッ!」
ゴブリンがこちらに気付いたのか振り向いた。が、それと同時に利人が剣を振った。ゴブリンの首が胴体から離れ、ゴトッと床に落ちる。
ゴブリンがいたその部屋には、身体の半分を食われて消失した赤ん坊の死体と、今にも死んでしまいそうなほど瀕死な、ショットガンを抱えた男が横たわっていた。
「おいあんた、大丈夫か。しっかりしろ」
利人が男に向かって呼びかける。
「ウ……ジョナ……サン……」
男がか細い声で赤ん坊のと思われる名前を呟く。
「あんたの赤ん坊か? すまない、一歩遅かった」
男のステータスを確認する。頭部と胸部、右腕が黄色く発光して〈CAUTION〉と表示されており、腹部が赤く発光して〈DANGER〉、左腕と両脚は色を失い〈BROKEN〉と表示されていた。LPは一○パーセントを切っている。
――回復系の魔法を持っていれば治療できたかもしれないのに……。
「息子の……仇を、ありがとう……」
「やめてくれ。感謝されるようなことはできなかった」
と、利人が男の前で首を横に振って言う。
「悪いが……俺は、もう死ぬ。化け物……に、成り……果てる。その前に……去って、くれ。コイツと、弾は……そこの棚にある。車のキー、だ。お礼だ、使ってくれ……」
そう言い残し、男は事切れた。
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