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#01 悲惨のショー

毎日15時から20時の間に投稿予定

 わたし達が退店してドアが閉まると、もうそこにトビラの姿は無かった。用が済むと跡形も無く消えるらしい。

 

「なんか……元の世界に戻ってきてみると、夢を見ていた気分だな」

 

 と、利人が呟く。

 

 その感覚にはわたしも同感できた。しかし、あそこで購入したり貰ったりした物品は確かにこの手にある。その事実が、あれは現実のものだとわたし達に忠告していた。

 

「さてと、これからどうするかねえ……」

 

 レベルを5まで上げればホテルが解禁される。そうなれば価格次第だが寝泊まりに困ることは少なくなるだろう。当初の目的だったバリケードゾーンに行く必要性が薄れてしまったように思える。

 

「ひとまず狩れそうな魔物を狩りつつダウンタウンに行こうか。そこの状況を見てその後のことを考えよう」

 

 と、利人。

 

 確かに、それもアリか。必要性が薄れたといって行くべきでなくなったわけではないし。何より目的地は何かしらあった方が行動しやすい。

 

「そうするか。……しかし、LAPDや州軍は魔物を倒すのに魔力が要ること、把握しているかな」

 

「分からん。が、知らなかったらかなりマズい状況にあるぜ。いくら強力な銃火器で吹っ飛ばしても向こうは際限なく復活する。対してこっちの命は有限だ。そのうちすり潰される」

 

「そうなりゃいよいよ頼れるのは自分の力だけか」

 

 ――本当、やってくれたな、あっちの世界の人たち。


「ま、取り敢えず今は今のことだけ考えよう。――まずは食料調達再開だ」

 

「OK」

 

 スーパー内に魔物はもういないが、また侵入してくるかもしれない。わたし達は外に注意しながら淡々と必要そうなものを集めていった。

 

「ま、こんなもんでいいか」

 

 今日がそれなりに教科書やらパソコンやらが必要な講義の日で助かった。もはや使い道がないそれらを入れるために大きめのリュックを持ってきていたお陰で、それらを捨てればかなりの容量を使える。

 

 そこに菓子パンやら缶詰やらペットボトル飲料やらを詰め込み、物資集めは完了。

 

 スーパーを出ると、外は極めて静かだった。車通りが全く無いためだ。もう大半の人がバリケードゾーンに行ったか殺されたのだろう。あるいはどこかで息を潜めているか。

 

「うわあ……ありゃヒデえな」

 

 と、利人が四○五フリーウェイを見上げながら呟く。

 

 見ると、あちこちから煙が上がっており、壁に突っ込んでいる車もある。すぐ近くにフリーウェイを乗せたトンネルがあるのだが、その付近に死体が何体か落ちている。魔物から逃げるために身を投げたのか、魔物に掴まって捨てられたのか……いずれにしても見ていて気分の良いものじゃない。

 

「さっさと離れようぜ」

 

「そうだな」



  

 ダウンタウン・ロサンゼルスに行くには、わたし達がいま歩いているここ、西ピコ大通りを道なりにずっと進み、途中でぶつかるサウス・グランド・アベニューを北上(ほくじょう)すれば着く。なのでしばらくはひたすらこの道を歩いて行くことになる。

 

 静かな旅路だ。人がすっかりいなくなってしまったらしい。無傷な建物は見渡す限りでは存在しない。魔物もほとんどの建物を荒らしていったようだ。

 

「しっかし、州軍もLAPDも見ないのはさすがに不安になるな」

 

 と、わたし。

 

「もうみんな殺られちまったのか?」

 

「それか、避難完了と判断して撤収したか……」

 

 スマホを取り出し、SNSを開いてみる。リアルタイムでの投稿が見られることから、通信インフラはまだ死んでないらしい。その投稿内容というのはみな魔物に関することで、バリケードゾーンに避難した報告だとか、こっそり隠れて魔物を撮影した画像などなど、様々だ。中には実際に魔物を倒し、例のコインを拾った画像を挙げている者もいる。

 

「この辺のことを喋ってる奴はいないか?」

 

 と、利人。

 

「そうだな――おい、これ……」

 

 ロサンゼルスで検索して投稿を漁っていたそのとき、わたしは一つの動画投稿に目がとまった。そして、絶句した。

 

 その動画では、なんと魔物に殺されたはずの人間が起き上がり、他の人間を襲っているのだ。まるでゾンビになったかのように。

 

 わたしは咄嗟にそれを利人にも見せた。

 

「これマジ? 本当なら……」

 

 利人の、その後に続く言葉は容易に想像できた。

 

「悪い夢がもっと悪い夢になったよ。ハハ……イカれてるな」

 

 そういえば、歩いてきた道に死体は不自然なほど残っていなかった。血痕はかなりあったのでこの辺りで魔物に襲われ殺された人がいるのは間違いないのだろうが、死体が一向に見えない。さっきトンネルの近くで見た程度だ。

 

 不快なものを見なくて済むのであまり気に留めていなかったのだが、いま考えれば異常なことだ。まさか、こんなカラクリだったとは……。

 

「そのうち、元人間の化け物も殺らなきゃならなくなるだろうな」

 

 と、利人が嘆いて言う。

 

 見ず知らずの他人だったら、こちらの身の安全もあるしそこまで抵抗感はないかもしれない。が、もしわたし達のどちらかが殺られてそうなったら? もし利人がそうなり、わたしに襲いかかってきたら……わたしは殺せるのか、元利人の化け物を?

 

 ――正直、全く自身が持てない。

 

「おい、あれ……」

 

 と、利人が前方を指さして言う。

 

「LAPDだ」

 

 警察の制服を着た集団が遠くに小さく見えた。スーパーを出てからは初めて見る人影だ。いや、先ほどの動画を見てしまった今、人と断定するのはまだはやいか。

 

「人か……それとも化け物か?」

 

「君のスキルで分からないか?」

 

「試してみる」

 

 先ほどわたしが取得した共通スキル〈情報分析専門家〉の能力の一つに、魔物のステータスの閲覧がある。それであの人達のステータスを見ることができれば、判別できるかも知れない。

 

 そう思ってわたしはスキルを発動。前方のLAPD達に照準を合わせる。が、距離が遠すぎた。

 

「もっと近付かないと駄目だ」

 

「ならそっと近付こう」

 

 最新の注意を払い、気付かれないよう物陰に身を隠しながら接近。スキルの射程範囲に捉えた。スキル発動。LAPDのステータス・ウィンドウを展開。

 

 結果は、種族〈GHOUL(グール)〉。魔物だった。恐らく魔物に殺されてグールと化したのだろう。

 

「どうする。殺るか?」

 

 と、わたしは利人に尋ねる。

 

 敵の数は三。ステータスや種族の説明を見る限り、あのメタボ巨人に比べれば三体相手でも楽な相手ではあるが。

 

「殺ろう。あの人達も、自分が魔物になって人を襲うのは本望じゃないだろう」

 

「了解」

お読みいただきありがとうございます。


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リュックはリュックサックの略ですが確かドイツ語です。 英語で統一するならバックパックが良いかと。
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