#01 116-Ψ
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西暦二○一五年、五月七日。世界計七カ所に、突如として巨大な風車型のオブジェクトが出現した。それが出現する瞬間を目撃した者はいない。それを捉えていたカメラもない。誰も知らぬ間に、それはこの世に姿を現した。
「いつの間にあんなものが現れた。それも世界同時に、七カ所もだ。本当に目撃情報はないのか?」
アメリカ国防総省本庁舎にて、米国国防長官アイゼンハワーが部下に怒気の混ざった声で質問する。
「はい、確認されておりません」
「フムゥ……」
風車型オブジェクトが出現した箇所は以下の通り。英国ーストーンヘンジ、ロシアーゴールデン・マウンテン、エジプトークフ王のピラミッド周辺、インドーバラナシ、韓国ーチリ山、ザンビアーバトカ峡谷、そして米国ーモニュメントバレー。
「現状分かっていることは、出現した場所はどこも各地の神話や伝承に関わる象徴的な土地、ということだけか」
「そうなりますね」
「既にエジプトやインド、ロシアは調査に動いている。もしあれが我々に驚異的なテクノロジーをもたらすのであれば、諸国に遅れをとるわけにはいかん。それに、あれは116-Ψと関係があるやもしれん」
「正直、あんなものに意味があるとは思えませんでしたが……どうなりますかね」
「どうだかな。調査隊の報告でどれだけ情報が得られるか……」
同時刻、米国、ユタ州。ここに風車型オブジェクトを調査するための調査隊が訪れていた。モニュメントバレー――ナヴァホ族の伝承が息づく、巨大なビュートとメサで構成された広大な砂漠のど真ん中に、それは堂々と聳え立っていた。
「デカいな……遠目で見ても相当な大きさだとは思っていたが、近くで見ると如実に実感できる」
風車型オブジェクトの高さはおおよそ四十メートルほどで、塔状。頂点付近に巨大な真っ黒い八枚の回転翼が、それぞれ上下に羽ばたきつつ地面と水平にゆっくりと、一定の速度で回転している。悠々とまわるプロペラが作る影が周期的に調査隊に覆い被さる。
調査隊のメンバーは全員対放射線防護服に身を包んでいた。風車型オブジェクトが放射能を有している可能性があったから。もっともそれは杞憂であったが。
「放射線は検出されません。よかったですね、放射能は無いようです」
「そうか。それは一安心だな。――各員、作業開始だ」
このときはまだ誰もが、風車型オブジェクトについてどこか楽観的であった。
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