『祖国の冬』
命が消えかけた、色なき空へ、
裸になった黒い枝が、
静脈の浮いた、萎えた腕で訴えた。
「わが神、わが神、どうして私を見捨てられるか」
着膨れた聴衆は、嘘と好奇を隠しては、
感情なくした人形のよう。
ギーキシーン、ギーキシーン。
不凍液が雪に零れ、大地を割って奈落を見せた。
その音すら、凍てつかそうと、
冬宮殿の皇帝は、堂々と立ち上がり、
北極風の軍勢麾下にした。
突風と暴風は、冬将軍たちの憤怒の咆哮。
瞼に浮かぶ故国の冬は、
穏やかなる銀世界。
軒の氷柱は碧空うつし微睡んでいる。
積もった雪は汚れなく白い。
屋根を軋ます空音は、
天照大神の衣擦れかなと、
恐るおそるに耳澄ます。
ああ、美しきかな祖国の冬。
童のこさえた雪だるまの夢。
いまもここにありき。