『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
お弁当にはご用心
「拓馬、コンビニ弁当ばかり食べてると体壊すよ?」
昼休み、後ろから覗き込んできたのはクラスメイトの三葉だ。
「たまになら良いけど毎日はやっぱり良くないよ」
そりゃそうかもしれないけど、家は共働きだし朝練あるし弁当作ってる時間なんて無いんだよな。
「ふふん、弁当作ってる時間なんて無いって顔してるね」
コイツは心が読めるのか!? いや、俺がわかりやすいだけか。
「だったら何だよ?」
「こういう時こそ幼馴染カードを使いなさい! まったく……何のために私が居ると思っているの?」
たしかに三葉とは家が隣同士で家族ぐるみの付き合いだけど……
「お前……まさか弁当でも作るつもりか?」
「ふふ、その通りよ、驚いた?」
「悪いけど遠慮しておく」
「はああっ!? 何言ってんの? 可愛い幼馴染が手作り弁当作ってあげるって言ってるのよ!! 普通喜んで泣くところでしょ?」
「まあ……泣くほどではないけど気持ちは嬉しいよ。でも弁当は大丈夫だから」
「ま、待って!! 不安なのはわかる、でも私はこの日のために猛特訓をしてきたの!! だからお願い、私に弁当を作らせて!! この通り!!」
土下座する勢いの三葉にクラスが騒然となる。
それはそうだろう。クラスのアイドル的存在の彼女が必死に弁当を作らせてくれと懇願しているのだ。俺に突き刺さる視線は半端じゃない。もはや断るという選択肢は無くなってしまった。
「わ、わかったよ、それじゃあお願いしていいかな」
「本当!! うん、明日から楽しみにしていてね」
満面の笑みを浮かべる三葉だけど……まいったな、嫌な予感しかしない。
「拓馬、ほら大好きな唐揚げよ、食べて」
「うん、美味い!!」
「でしょ? せっかく作ったんだから全部食べてね」
いや無理だろ。
俺は目の前に並んでいる六個の弁当箱を見てため息をつく。
三葉は三つ子で三年に姉、一年に妹がいる。つまり五人姉妹だ。
三葉が動けば全員動く。だから遠慮したのに……。
「拓馬、何を隠そう私の弁当が一番美味いぞ」
長女の一葉先輩が肉団子をあーんすれば、
「拓馬先輩!! 愛情たっぷり込めてます」
末っ子の五葉が恥ずかしそうにおにぎりを差し出してくる。
どれも美味い、が――――さすがに量が多すぎる。
「ふふ、今朝は拓馬くんのせいで大変だったのよ?」
そして母親が担任の樹先生。
「なぜ先生まで俺に弁当を?」
「将来の息子ですもの。それにしっかり食べて体力付けないと五人相手は厳しいわよ?」
どうやら俺に逃げ場はないらしい。