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エレシアス  作者: 青白 朱玄
第一章 動き出す運命
19/33

15 骸の襲撃

 探検隊は六日間、東に向かって進み続けた。そして七日目の朝、遂に目の前に変わった光景が広がった。

「皆さん、湖が見えてきましたよ!」

メルフィン先生の声に探検隊の心は奮い立たされた。この六日間、探検隊は同じ景色をずっと見て来たので飽き飽きしていた。

 探検隊は湖の目の前まで近づくとその幻想的な景色に圧倒された。湖には蓮の花が咲いており、その間を海獺みたいな生き物が漂う光景は丸でこの世の物とは思えない理想郷を見ているかの様だった。

「……綺麗ね」

「丸でこの世の楽園みたいだ」

探検隊一同は暫くの間、我を忘れて浄刹の湖を眺めていた。

「皆さん、湖の美しさに見惚れるのも良いのですが、我々の目的を忘れてはいけません」

メルフィン先生の一声で探検隊一同ははっと我に返った。

「そうですね。取り敢えず、湖を迂回して土竜丘陵まで行きましょう」

 「メルフィン先生、僕から提案があります!」

突然、ジェロが挙手した。

「何でしょうか、ジョパルオン君?」

「湖を迂回するよりも横断した方が良いと思います!」

突然の提案に一同は困惑した。

「何を言っているんだ? まさか湖を泳ごうって言っているのか?」

「ランナウェイで水上は渡る事は出来ないわよ」

ヴァルテロやサエッタがジェロの提案に文句を言っていると、望遠鏡で遠くを見ていたスタンが声を上げた。

「メルフィン先生、あそこに浮いているのは島でしょうか?」

 望遠鏡を借りたメルフィン先生はスタンの指す方向にピントを合わせた。

「あの島は恐らく地図に載っている浮島でしょう。ジョパルオン君の提案は悪くは無いですが、一体どうやってあの浮島まで横断する積りですか?」

ザックはジェロのやろうとしている事に気づいてはっとした。

「ジェロの力は冷気を出したり、物を凍らせる事が出来るんだよね? だったら、湖の水を凍らせてアイスリンクみたいにすれば、湖を横断する事が出来るって事?」

「有難うザック、僕の考えを説明してくれて」

「分かりました、少しの間、考えさせてください」

 メルフィン先生が思考している間にジェロは計画を探検隊に自信満々に話した。

「僕が湖の表面を凍らせている間に皆は浮島まで移動する。浮島に到着したら、向こう岸まで凍らせて湖を横断する。至って単純な計画だろ?」

探検隊は怪訝そうな顔をしてジェロを見詰めた。

「ジェロ、お前の力を疑っている訳では無いが湖を凍らせる事は出来るのか? 庭園の池を凍らせるのとは訳が違うんだぞ。俺達魔法使いの力も貸した方が良いんじゃないのか?」

「あなたはジョパルオン家だから力が強い事は分かるけど、こんな暑い日に分厚い氷を張るなんて本当に出来るの?」

パルド、サエッタの不安にレティグナも激しく首肯した。

「皆、心配性だな。確かに僕はこんなに大な湖を全部凍らせる事は出来ないと思う。でも、ランナウェイが渡っても割れない様な厚い氷を張る事は出来るよ。若し氷が薄ければ凍結呪文を掛けてもらうかもしれないけど、多分大丈夫さ」

 丁度メルフィン先生が此方に向かって来て告げた。

「迂回では無く、横断する事に決定しました。但し、危険を感じた場合は速やかに陸路に戻り、迂回する事にします。皆さん、よろしいでしょうか?」

探検隊は不安が膨らむ中、渋々首肯した。

「ではジェロ君、我々の通る道を作って頂きます」

 ジェロは湖の畔に進むと両手を水の上に翳した。すると、ジェロの両手から冷気が放出され、湖の水が見る見ると凍っていき、目に見える範囲の水は全て凍ってしまった。

「凄いなジェロ、見直したぜ!」

「本当にアイスリンクみたいね」

「では、試しに私が歩いてみましょう」

メルフィン先生が氷の上に一歩踏み出すと、氷は割れる事無かった。メルフィン先生はランナウェイを氷の上に進めたが、氷に罅が入る様な音は聞こえなかった。

「確かにこの分厚さなら大丈夫でしょう。では皆さん、氷の上は滑りやすいので気を付けて移動して下さい。魔法使いの皆さんは先に浮島の安全確認をお願いします」

 探検隊はジェロを先頭に氷上を移動する事になった。メルフィン先生の忠告通り、足元は滑りやすかった。それでも氷に罅が入る様子は全く感じさせずに、ランナウェイは地面と変わらない速度で走行した。

「あれ、確かランナウェイって氷上は進みにくい筈だったのに」

「だから最新式のランナウェイを提供してくれたんじゃないかな。きっと、このタイヤはオールシーズン用に改良されたのだと思うよ」

「成程、私達に宣伝して貰う為だったのね。この性能なら確かに売れる筈だわ」

 探検隊はゆっくりと着実に歩みを進めジェロが氷の道を浮島に繋げると、昼過ぎには浮島へと辿り着いた。浮島で探検隊は遅めの昼食を摂り、休憩を挟んだ後に向こう岸まで凍らせた氷の道を歩く事になった。浮島を離れて向こう岸まであと半分位の距離を歩いていた時、最後尾にいたスタンが叫んだ。

 「皆、浮島に敵が!!」

探検隊は一斉に後ろを振り返ると、数多の骸骨達が浮島に陣取り、此方の様子を窺っていた。

「敵の数は何の位ですか?」

「少なく見積もっても十匹はいます!」

メルフィン先生は此処で骸骨達を迎え撃つか、急いで向こう岸まで渡るか思案を巡らしているかの様に目を左右に動かした。

「皆さん、向こう岸へと急ぎましょう!」

 探検隊は小走りで向こう岸に向かうと同時に、先導者らしき骸骨が剣を振り翳し、どんな生き物にも似ていない悍ましい声を発した。その声が引き金となり、骸骨達は探検隊に向かって駆けだした。探検隊は向こう岸に向かって氷上を小走りで進んでいたが、突然メルフィン先生が右手を横に出した。

「皆さん、一旦止まってください!」

 突然の指示にザック達は戸惑いを隠せなかった。

「パルド、どうしたの?」

「あれを見ろ」

パルドが向こう岸を指差すと、後ろから襲い掛かった骸骨とは別の骸骨達が此方を見詰めていた。

「行く手を阻まれてしまいましたか……」

「メルフィン先生、どうしますか?」

「――ディキリア君、全員に迎撃の準備を伝えて下さい」

 パルドは小杖を取り出して隊員に指示を出した。

「骸骨を迎え撃つぞ、構えろ!!」

ザックは小杖を構えたが、恐怖で腕が震えていた。ザックだけでなく他の仲間も未知なる脅威に対して恐怖を感じざるを得なかった。

浮島から追いかけて来た骸骨と向こう岸から向かって来た骸骨に、探検隊は取り囲まれてしまった。

「ディキリア君、ドークスさん、カポロメンさん、私が合図をしたら骸骨達の足場に向かって粉砕の呪文を唱えて下さい」

「分かりました!!」

 探検隊を取り囲んだ骸骨達は一斉に襲い掛かろうとした時、メルフィン先生は両手の指を鳴らした。すると、探検隊は外側に、襲い掛かった骸骨達は仲間同士で衝突してしまった。

「今です!!」

魔法使いの四人は骸骨達の足元に向かって呪文を唱えた。

「ロンパーレ<砕けよ>!!」

四人の唱えた呪文によって骸骨達の足場が砕かれ、骸骨達は湖の中に落ちた。

「皆さん、今の内に向こう岸まで急ぎましょう!」

 探検隊が向こう岸に向かっている間、浮島の方から探検隊を見詰める人物がいた。

「――これで逃げ切れたと思うな」

黒いローブを被った人物は大杖を探検隊の方角に向けた。

「イラスカ<透き通れ>」

探検隊より数メートル先の足場が透明になったかと思うと、骸骨達が湖から這い上がって来た。

「まさか、氷の下を泳いで来たの!?」

「そっか、彼奴等は呼吸していないから息継ぎしなくて良いのか!」

ジェロが納得していると、ピティアの小杖から呪文が放たれた。

「感心している場合じゃないわ! ともかく、奴等を足止めしないと!」

「それなら、僕に任せてくれ!」

 ジェロが前に飛び出し両手を突き出すと、吹雪の様に激しい冷気が両手から放たれ、向かって来た骸骨達の足元を凍らせた。

「良いぞ、ジェロ!」

しかし、冷気を免れた後続の骸骨達は高く跳躍し、探検隊の懐に飛び込もうとした。

「イムダール<吹き飛べ>!」

パルドが呪文を唱えると、此方に飛び込もうとした骸骨達が上空に吹き飛ばされた。骸骨達は骨がばらばらになり、氷上に数多の骨が飛び散った。

「やったか!?」

すると、飛び散った骨がひとりでに集まり、骸骨は瞬く間に元の姿に戻ってしまった。

「嘘だろ!?」

 元の姿に戻った骸骨達は悍ましい叫び声を上げながら突進した。

「サエッタ、奴等を電撃で止められるか!?」

「やってみる!」

サエッタは片手の手袋を取って構えると、手から流れた電流の一部が骸骨達を捉えた。

「やった!?」

しかし、感電している筈の骸骨達は苦しむ様子も無く手にしていた剣を咄嗟に投げた。

「ミュレイ<光の盾よ>!」

「ティダート<遅らせよ>!」

サエッタに向かっていた剣はピティアの減速呪文によって速度を落とし、パルドの盾の呪文によって跳ね返された。

「えっ、電気が効かないってどういう事!?」

「サエッタ、若しかしてあの骸骨達には神経が無いのかもしれない。だって、電気を食らってもぴんぴんしているし」

「噓でしょ、スタン!?」

サエッタは何度も骸骨達に電撃を浴びせたが、骸骨達は痺れる所か生き生きする始末だった。

「この人達、ガラスもプラスチックも身に着けていないのに!」

 骸骨達は疲れを知らないかの様に、何度倒れてもめげる事無く突撃する為、探検隊は次第に防戦一方になっていた。

「パルド、此の儘じゃ埒が明かないわ。奴らの弱点を探らないと」

「ピティアの言う通りだ。長期戦になれば、此方が不利になる」

骸骨達の執念深さに、探検隊は恐怖を覚える程だった。

「此奴等、不死身か?」

「もう、しつこい人は嫌われるわよ!」

ヴァルテロやサエッタが悪態を吐くと、先鋒の骸骨達が身を屈めながら剣を探検隊に向かって投げた。

「ミュレイ<光の盾よ>!」

ヴァルテロ、セピナは盾の呪文で攻撃を防いだが、その隙に後続の骸骨が屈んだ先鋒の骸骨を飛込台の様に踏みつけると、空高く跳躍し光の盾を飛び越えて探検隊の懐に飛び込んだ。骸骨は目の前にいたザックに飛び付いた。

「ザック!!」

 背後から襲われたザックは骸骨ともみ合いになりながら氷上を転がった。ザックは骸骨を突き飛ばして立ち上がったが、手元に自身の小杖が無い事に気が付いた。突き飛ばされた骸骨が此方に向かって突撃しようとしたが、ヴァルテロが放った呪文が骸骨を吹き飛ばした。

「おい熾す者(エレシアス)、杖はどうした!?」

「何処かに落としたみたい」

「杖が見つかるまで魔道拳で対応しろ!」

 ザックはヴァルテロの助言に従い、拳を握るとインチャルの構えを取った。恰好な獲物がいる事に気づいた骸骨達は続々とザックの下に向かった為、ザックは防御の構えを取り、骸骨達の攻撃を受け流した。

「ザック、君の杖を見つけたよ!!」

ザックが骸骨達の攻撃を防御していると、スタンがザックの小杖を持ちながら小走りで近づいて来たが、勢い余って転んでしまった。そこに骸骨が剣を振り翳しながら近づいて来た。

「スタン、危ない!!」

骸骨がスタンに向かって剣を振り下ろそうとしたが、此方に向かっていたリザルの手から伸びた蔓が剣に絡み付き骸骨から剣を奪った。

「今だ、ザック!」

ザックは拳に力を込めて骸骨の鳩尾に叩きこんだ。すると骸骨の鳩尾に付いていた宝石に罅が入り、宝石は粉々に砕けると同時に血しぶきが氷上を赤く染めた。宝石を砕かれた骸骨はその場に崩れ落ちた。

「やった!?」

鳩尾の宝石を砕かれた骸骨は元に戻る事は無かった。

「スタン、杖を拾ってくれて有難う。若しかして、この骸骨達は鳩尾の宝石が急所なんじゃないかな?」

「元に戻らないとなれば、その可能性は高いね」

「皆、骸骨の急所は鳩尾の宝石だ!!」

 ザックが大声で叫ぶと、探検隊は骸骨達の鳩尾に向かって攻撃を仕掛けた。急所を突かれた骸骨達は元に戻る事無くその場に崩れ落ちた。パルドがザック達に近づき、労いの言葉を掛けた。

「ザック、良く骸骨の急所を見つけ出したな!」

生き残った骸骨達は劣勢と悟り、浮島の方に逃げ出した。

「皆さん、急いで向こう岸へと渡りましょう!」

 メルフィン先生の呼掛けに応じて探検隊が向こう岸に行こうとしたその時、探検隊の背後に魔法円が浮かび上がり、黒いローブを身に纏った人物が現れた。探検隊は黒いローブの人物の顔を見て戦慄を覚えた。そこには人の顔ではなく、髑髏が此方を見詰めていた。

魂骸(アムケル)達と戦って生き延びるとは流石だ。だが、只では逃がす訳にはいかない」

ローブを纏った骸骨は、大杖を湖に張られた氷に突いた。途端に亀裂が生じ、氷全体に拡散した。

「皆、その場を動くな!」

骸骨は大杖を掲げ呪文を唱えると、上空に数多の魔法円が浮かび上がった。

「この状況ってかなりやばいよね?」

「ぐずぐずしている暇は無いぞ! 皆、向こう岸まで走れ!」

 探検隊は向こう岸へと一目散に駆け出した。魔法円の中から巨大な岩石現れると、隕石の如く氷上に降り注いだ。岩石は氷に激突すると、氷上に穴を開け水しぶきを上げながら湖に沈んだ。

探検隊は足場を崩されながらも、何とか向こう岸まで辿り着いた。

「全員無事か?」

「――レティグナとジェロ、それにスタンもいないわ!」

ザックが後ろを振り返ると、レティグナとジェロが降り注ぐ岩石を食い止めようと奮闘していた。氷上に開いた穴からレティグナが水柱を立たせて降って来る岩石を包み込むと、ジェロの手から放たれた冷気が水柱を瞬時に凍らせた。

「皆はその場で待ってろ! 俺はスタンを連れて来る、ピティアはレティグナを、セピナはジェロを頼む!」

「了解!」

「任せて!」

 三人は煙移し(マイト)で姿を消した。数分後、白煙と共に魔法使いの三人、レティグナ、ジェロが現れた。

「あれ、スタンは?」

「それが何処にも見当たらないんだ」

「若しかしたら、湖の中に落ちたかもしれない」

 ザック達は湖を凝視していると、仰向けに浮いた人の姿が見えた。

「パルド、あそこに人が浮いてる!」

「こっちに向かって来るぞ! 誰か呪文を唱えたか?」

「パルド、誰も呪文を唱えていないわ」

「だとしたら、一体誰だ!?」

 空中に浮いたスタンは引き寄せられるかのように此方に向かって来た。向こう岸に到着すると、スタンは地上に着くと同時に息を吹き返した。

「スタン、大丈夫!?」

ザックの呼び掛けにスタンは目を開いた。

「スタン、一体誰が君に魔法を掛けたんだ?」

「……この湖には主がいるんだ。僕が気を失う寸前に現れて僕を助けてくれたんだ」 

スタンの話に探検隊全員が耳を疑った。 

「信じられない、力を操る動物が未開地にいるなんて」

「未開地は私達も知らない事が沢山あるわ。力を操る動物がいたって不思議じゃない」

「所でスタン、その手に握っているのは何だい?」 

 リザルの問いにスタンは握っていた右手を開くと、灰色の海藻がスタンの手の中にあった。

「見た事の無い海藻だ。若しかしたら新種の海藻かもしれない。スタン、この海藻は僕が預かっても良いかい?」

スタンは頷くと、リザルは未知の海藻をバックに閉まった。

「皆さん、怪我は無いですか?」

 メルフィン先生が尋ねると、セピナが手を上げた。

「私で良ければ負傷者の手当をします。学校で傷の治し方は習っています!」

「私も手伝うわ、パルド達も手伝って!」

セピナとピティアが負傷者の手当を始めると、パルドはローブを捲り、ヴァルテロの肩を掴んだ。

「よし、ヴァルテロやるぞ!」

「俺は傷の手当なんかやらねえぞ!」

「そう言うなって、ザック達は見張りを頼む。何かあったら、知らせてくれ」

 探検隊の四人の魔法使いは魔法で負傷者の手当を行い、スタン以外のザックを含めた五人は代り番こに見張りを行った。何時の間にか浮島にいた骸骨達は、跡形も無く消え去っていた。

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